第53話 一歩手前かも

子猫と子犬(どちらも中身は神様)を連れて、私とパルムさんはギルド本部に戻ってきた。

「ただいま戻りましただの――」

「えっ?」

ロベリー師匠に挨拶したら、急に隣のパルムさんが変な顔で私を見てきた。

「……何だの?」

「ミカさん……さっきまで普通に喋ってたよね?」

「あ……だの」

「えっ……? どうしたの……?」


私とパルムさんの会話を不思議そうに聞いていたロベリー師匠に『ちょっと待ってて欲しいだの』と言い残してパルムさんの袖を引いて部屋の隅へ連行、そして言い訳タイム!


「もうドワーフ訛りはほとんど抜けてるんだけど、急に訛りが消えると不自然かなって」

ホントは実花の記憶が戻ったからだけどね。


でもパルムさんはその理由で納得してくれたみたい。

「何だ、そんな事気にしてたんだ」

「うん、だからゆっくりこっちの言葉に変えていこうって思ってるの」

「分かった、じゃあ私も合わせるわね」


こうして打ち合わせ(というか口裏合わせ)も無事に終わり、二人でロベリー師匠の所に戻ってきた。


「お待たせだの。帰り道にパルムさんと一緒に『ドワーフ訛りを直そう』って練習してただの。でも中々難しかっただの」

「ああ、さっきのってそう言う意味だったのね」

「そうなのよ。さっきまではもう少しいい感じになってたのに、帰ってきた途端に元に戻っちゃうんだもの」

「でも頑張って少しずつ直すだの。目標一か月だの」

「早っ!!」


で、そこから話題は連れ帰ってきた2匹へ。

「それでその子達だけど――見た感じケットシーとコボルトの子供、だよね?」

「だの!」

「やっぱり! うわぁー、よく連れて帰って来れたわね……ダンジョンの精霊に怒られたんじゃない?」


ああ、それでしたら――


「大丈夫だの。むしろ『迷惑だから引き取って欲しい』って頼まれただの」

「うにゃっ!?(にゃんて事言うにゃ!?)」

「わふーん(まあ迷惑かけたのは間違いないワン)」

私の説明に不服そうな子猫と落ち込む子犬。

「迷惑ってこの子達一体何を……でもいいなあ。可愛いなぁ。ほらほら、おいでおいでー」


些細な疑問なんてモフっているうちにどうでもよくなってくるもの。『根幹の魔力』ってのをダンジョン周辺一帯が枯渇するまで突っ込んだ、あのふたりの特別製ボディなら特にね。


とそんな感じでどちらも無事にペットとして認定され、私の王都での日々はバステト様とアヌビス様も加わる事になった。周囲の目がある時には子猫と子犬の姿、無い時には元の姿に戻る、そんな二匹ふたりと一緒の生活。


そしてまたまた方針の微修正。これ何度目だっけ……?

まあ回数はともかく、この物語への関与についてだ。

この世界に留まるのは短期間だけって事が分かった以上、表立って目立つ行動をとるのはこれまで以上に控える事にする。だってそんな事したら、私が帰った後に残ったミカが絶対に大変な事になっちゃうだろうから。彼女には静かな余生を過ごして欲しい――いや、まだ少女だから余生とは言わないか。


でもまあ、そんな訳で私がやる事は……

『表立たず目立たずに、物語の外で大いに遊ぶ』のだ!!




実花がそんな自分に正直な日々を過ごしていたある日、仕事に出掛ける実花を見送ったバステトはふと隣のアヌビスに話し掛けた。

「にゃあアヌビスよ」

「何だワン?」

「最近にゃ、ちょっと心配ににゃってきたのにゃん」

珍しく深刻そうな声と表情のバステトを見てアヌビスは悟る。ああ、自分と同じ危惧をバステトもまた抱いていたのだ、と。

「それはやはり実花の魔法の事、ワン……?」

「にゃ」


二柱の神が抱く懸念、それは――


「このまま実花が突っ走ると、最終的には『創造神』のにゃかま仲間入りを果たす事ににゃるにゃ」

「うむ、間違い無くそうなるワン……困ったものワン」


実花の持つ科学知識はあくまで一般的なレベルであるが、それと併せて各種転生モノに学んだ『あまり一般的ではない一般教養』もまた持ち合わせている。そして更に神界では『概念の実体化』という創造の力と普通に接する日々を送ってきた。


実花の持つその知識と経験――それがこの世界で『物質に干渉する』魔法と出会ってしまったのだ。『物質と魔法を結び付ける』付与術と出会ってしまったのだ。

それにより何が起きるのか――


「相性が良過ぎるのにゃ。このままだとそう遠くにゃいうちに『物質の改変』にまで到達するにゃ? そうにゃれば次に起こるのは――」

「『世界そのものへの干渉』だワン。そしてそんな事が可能な存在となれば、それはつまり――」

「神だにゃ」

「神だワン」


『人間に戻す為に眷属を転生させたら創造神になって帰ってきたのだが』


そんなまるでラノベのタイトルのような結末、天照がどう受け止めるというのか。

きっと自らの手で実花の選択肢を消してしまったと悔やむだろう。

「うにゃあ……」

「わふぅ……」

その天照をの姿を想像し胸を痛めるバステトとアヌビスであった。




仕事の様子を見にきてくれたロベリー師匠と談笑中、ふと最近気になっていた事を訊ねてみた。

「この間のアレって一体何だったんでしょうね」

「『この間のアレ』ってもしかして『時空間魔法師一斉避難』の事?」

それはちょっと前に王都全体に発令された、時空間魔法師に対する避難指示。

「そうそう、その『アレ』です。そこから王都全体を巻き込んだ大騒動に発展して物語は急展開を迎える! 的な何かかと思ったのに、結局何も起きないまま避難指示が解除されて。一体何だったのかサッパリですよ。……でも実はロベリー師匠なら知ってたりとか……?」


「なっ何言って……ややや、やだなあ。知ってる訳ナイジャナイ」

あからさまに怪し過ぎて逆に可愛いとか……

「……あっそうだ、私室長に何か頼まれ事があったような気になってきたかも。あはははは、じゃっじゃあそんな訳だからまた後でねっ」

パタン、タタタタタッ……


あ、逃げた。


って事はロベリー師匠は何が起きたのか知ってる。

って事は『何かが終わったから避難指示が解除された』のかな。

って事は――

つまり『主人公の活躍で事件が解決された』のだろう。


ならもう気にしない方がいいんだろうな。

だって関わらないって決めたから……

決めたから……

決めたけど……けど……

それでもやっぱり凄く気になるし凄く知りたい!

でも……

ああもうっ、このモヤモヤは仕事にぶつけるしかないっ!

さあ、やるぞぉっ!




………………付与して

………………錬成して

………………付与して

………………錬成して

………………付与して

………………錬成して

………………付与して

………………錬成して




そして気付いたら――

在庫していた3ヶ月分の材料が夕方には全部製品になって並んでた。

あれ、私ってばやり過ぎちゃった……?

――じゃなくてこのスピード、ちょっと凄くおかしくないかな!?




▽▽▽

キュピーーン☆

「そっ、想定外だわ………………」

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