第5話 初めてはやっぱりスイーツ

「さて、それじゃあ早速作りましょうか」

そう言って天照さまは、その両手を手のひらを上に向けて私の前に差し出した。

「実花さん、この上に手を」


天照さまの手に重ねるように私も両手を差し出すと、天照さまはその手をぎゅっと掴む。

「目を閉じて……はい、ではあの時私がコンビニで買おうとしていたスイーツを思い浮かべて」


言われた通り目を閉じて思い浮かべる。

カゴから取り出してバーコードをスキャンしようとしていた、あの……そう言えばあれ、結構な量あったわよね。


「はい、よく出来ました。それじゃあ実花、目を開けてみて」

天照さまの声で目を開けると、目の前にシュークリームやチーズケーキ、カッププリンなんかが浮かんでいる。

「おお、不思議現象だ……」

宙に浮かぶのは、さっき私が頭に思い浮かべた様々なコンビニスイーツたち……ってあれ?


「この三色団子、思い浮かべたっけ……?」

「ああ、それはその前に買いに行ったとき美味しかったので、もう一度食べたくって作りました」


ああ、なるほど……


「じゃあもしかして、この大福も?」

「ええ、お餅の中に苺なんて凄い発明ですよね」


そっか。普通に売ってるから特に考えたことはなかったけど、言われてみれば日本で苺って歴史的には最近の話だった気がする。


「これって普通に食べれるんですよね?」


不思議現象から生まれた物体……目の前で見ちゃうとちょっと心配になったり。


「もちろん。お店で売ってるのとまったく同じですよ」

天照さまが大きめの籠をスイーツの下に翳すと、スイーツたちはその中にとさとさと落ちていく。

「ふふ、それではちょっと食べてみましょうか」


いつの間にか私たちのすぐ横には二人掛けのテーブルセットが用意されていた。

そのテーブルにスイーツの入った籠を置いて、椅子に座る天照さま。

そして私もその向かいに座ると、天照さまが私に籠を差し出してきた。

「お好きなのをどうぞ」


さて、どれにしようかな。

ここはババロアだろうか。いやエクレア……あ、杏仁豆腐って手もあるな。でもプリンも捨てがたい……


そんな悩みに満ちた私の横にふわっと風が立ったかと思うと、香りのいい紅茶がすっとテーブルに置かれた。

「あ、ありがとうございま……す?」

反射的にその手の主に目をやると、そこにいたのはお盆片手に給仕を行う……巫女さん。


繰り返す!

給仕は巫女さん!


「ええ……っと、何故なにゆえ巫女さんが?」

「あら、実花さんはメイド服派かしら? 私って日本の神だから、一応それらしさを演出したチョイスだったんだけど」


巫女服で給仕? いや相手が天照さまならそれが正しいのか? でも違和感半端ないな……


「いや特にそういった派閥に属した覚えはないです。ただ意表を突かれたというか……」

「最近巫女コスの喫茶店なんかもあるらしいですよ。やしろの巫女服とはずいぶん趣が違うようですけどね」


知らんかった。ってか天照さまよく知ってるな!


結局私が選んだのはシュークリーム。

カスタードと生クリームが入ったやつ。

まとめて色んな事がありすぎたから心が定番を求めたんだろうか……


「じゃあ私はプリン。最近固めなのが流行りよね。でもトロける系が流行る前の固めとは一線を画すというか、きちんと進化してるって感じ?」


天照さまが急にイマドキ女子に!?てか美人レポーター!?


「私これでも神界ではコンビニスイーツの第一人者を自負していますので」

「まあ流行の発信者ですから間違いではないと思いますけど」


何だか未だに天照さまのキャラが掴み切れない。


「いただきましょう」


取り敢えず紅茶でのどを潤す。

お、無糖ストレート。これ香りがいいな、落ち着く……

「お茶も気に入ってもらえたようで良かったわ。いくつかお勧めがあるんだけど、今日は掛川の茶葉にしたの。実花さんに馴染むかと思って」


へー、実家にいた頃はご近所さんや親戚がたくさんくれた緑茶を毎日飲んでいたけど、あの茶葉を紅茶にするとこうなるんだ……ああおいしー。


微妙に視界がぼやけるのはきっと気のせい。

少し上を向いてるのは、紅茶の香りをちゃんと感じたいから……だから。





よし、じゃあシュークリーム食べよう。

目の奥に生まれた熱を何とかやり過ごした私は、シュークリームのパッケージを開ける。

さすが定番商品、開けた瞬間の子の安定感ときたらもう。いただきまーす。

「んーーー、おいしー!」


『概念の実体化』とか、『ちゃんと食べれるの?』とか、もう完全に頭から抜け落ちている。

だってこれ、普通にシュークリームで普通においしい。


「シュークリームも美味しいみたいね。プリンもとっても美味しいわ」

「ええ、これ日本で食べたのとまったく同じ味です」

「これでマイヤ・マイヤさまもきっと喜んでくれるでしょう。今度のお茶会ではノーラ・ノーラさまにはお会いできるかしら?あの子の事とか久しぶりにお話ししたいわ」


「お茶会って、いつです?」

「明日よ。一日留守にするからお留守番よろしくね?」


おお、急だな……


「なら開店準備しながら帰りを待ってますよ。他の売り物は今日これから作ります?」

「そうね。そうしましょう」


そうして、おしゃべりしながら色んな品物を次から次へと作り、楽しく時間が過ぎていった。

最後に天照さまが爆弾を落とすまでは。

「じゃあよろしくね。明日は弟が手伝いに来るから」


弟? 天照さまの? オトート?

ってヤバイあのお方じゃなかったっけ?

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