第16話 整いました
時は戻り、こちらはバステトの神域から店に戻った実花と天照。
「たっだいまぁーー。うっふふふっ」
「……ご機嫌ね、実花」
それはもうっ!
「だって猫ですよ猫っ!」
「実花がそんなに猫好きだったなんて知らなかったわ。意外……ではないけど」
「しかも何と十匹! 十匹も来てくれるなんて……私史上最多猫記録ですっ!!」
いつものように微笑ましげにこちらを見る天照さま。でも何か距離を感じるのは私の気のせい?
……うん、気のせい気のせい。気のせいに決めた君に決めたっ!
「みんな早く来ないかなあ。今日中には来てくれるかな?」
「あら? そういえば実花、さっきは二匹って言ってなかった?」
ああ、店長と副店長って……でも!
「来てくれるっていう子が十匹もいるんですよ? 断る理由なんて何処にも無いじゃないですか」
微笑む天照さま。
そして表情をあらため、私に告げる。
「あの猫達と付き合うにあたって、実花に言っておかなければならないことがあります」
ん? 何だろ?
「猫は子供の頃から飼ってましたから、飼い方とか注意点とかは大丈夫ですよ?」
「うーん……あの猫達は神界の住人ですからトイレとかは要らないし食事も趣味程度、行方不明を心配する必要ももちろんありませんよ」
「おおー、それは確かに私が飼ってた猫とはかなり違いますね」
「そうですね。でもね実花、彼らにはもっと大きな違いがあるんです」
もっと大きな……違い?
「というと?」
「あの子達は猫ではありますが、神格を得た所謂半神という存在になっています。それにより、人と大きく変わらないくらいの知能と意思も持っているのです。」
えっ、それって……
「そう。彼らはペットではないのです。猫なのは間違いないし猫の性格も多分に持ち合わせてはいますが、彼らに対しては確固たる人格を持った相手として接しなければなりませんよ?」
確かにあの猫達、さっきはバステト様や私の言葉をちゃんと理解していた。
あの時はバステト様もいたし不自然に感じる事はなかったけど……
こうして思い返してみると、確かに今まで見てきた猫とは違うな。
よく考えてみたら、私だってあの子達に普通に話し掛けて説得とかしてたし。
……あ、それは昔からよくやってたな。
「といっても、敬語で話すとかちゃんとした礼儀作法をとか、そういう事じゃないの。ただ彼らの意思を尊重してあげてってこと」
「ええ、分かる気がします」
「そうねえ、猫にもよるでしょうけど、大体五歳から十歳くらいの子供だと思ってくれればいいかしら? それくらいの感じで接してあげれば彼らも打ち解けてくれると思うわ」
「見た目は猫、中身は小学生。って感じですね」
「ふふっ、『名探偵こにゃん』、ね」
気を緩めるとうっかり普通の猫みたいに接しちゃいそう。
早く距離感掴まなきゃね。
「でも習性はそのまま猫だから。実花もさっき見たでしょう?」
むぅ、ますます気を付けねば!
「それさえ理解できていれば大丈夫。ふふっ、あなたは彼らの『飼い主』ではなくって『みかおねえさん』、ってね」
さっき見たあの子たちが「「「みかおねぇさーん!」」」って集まってくる……
何て素敵な光景! むしろ普通の猫よりも萌える! 萌え
そして
「みかおねーさん大好きー」なんて言いながら私の周りをぐるぐると回るあの子達。
そしてその呼び方が「みかせんせー」に変わったあたりで――
「注意点は以上よ。さあ、そろそろ彼らを迎え入れる準備を始めないとね」
天照さまから素敵なご提案が!
「そうですね。店長席、副店長席、店員席、アシスタント席、顧問席、相談役席、チーフ席、書記長席、先輩席、末っ子席を用意しなくちゃ」
「それ役職いる? 途中から役職ですらなくなってるし……」
確かに役職とかこんなに要らないかも。
でもこれだけは譲れない!
「じゃあ全員店長ですねっ!!」
そして天照さまと一緒に用意したのは……
何という事でしょう。
今までよりも、より高く持ち上げた天井。
開放感のあるその空間を見上げると、何とそこには店内を十字に横切るキャットウォークが。
透明な素材で作られたそれは、見上げる者の視界を遮る事がありません。
そう、それはまさにそこを歩く猫たちの「にくきう」が、そしてそこに寝そべる猫たちのお腹が、下から見上げる者の心を優しく癒してくれる魔法の廊下なのです。
そしてその行き先を目で追うと、何と壁にも透明な通路が。
猫達はその通路を通る事により、店内を縦横無尽に移動する事が出来るのです。
そこからさらにその通路を進むと、そこにあるのは……何という事でしょう。
KOTATSU!
透明な通路の先にある透明な床にこたつを設置する事により、見上げる者はそのこたつの中でリラックスした猫達の姿に心を癒し、それと同時に中から薄目で見下ろす猫達の自尊心をも満たしてくれます。
そう、これは空中庭園ならぬ空中こたつなのです。
空間を生かすこの数々の工夫、それら全てに匠の技が光るのです……
脳内に流れるのは、例の柔らかな音楽とナレーション。
そして一人の匠としてやりきった満足感、充足感……
さあっ、店長さん達いつでも来てください!
――いや、早く来てくださいお願いしますっっ!!!
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