神様はお客様ですか?

東束 末木

第1話 いらっしゃいませ?

何だろう、私バイト先のコンビニでレジ打ち中よね? 何でこんなとこに立ってるの?


「……く……か……ん、……し……えが……て……すか?」


えっと、何かあったはずなのよね。ちょっとびっくりするような何かが。

それって何だったっけ?

ええっと…………


「さくや……か……ん、……のこえ……てますか?」


レジとか無くなってるし、ていうか、そもそも店も無くなってるし……どこここ?


咲山実花さくやまみかさん、私の声が聞こえていますか? あの、先程からずっと呼びかけているのですが」


あれ? さっきからこの人、私に話しかけてる……?


「あの、咲山実花さくやまみかさん? 私の話、聞いてます?もしもーし、聞こえてますかー?」


ああ、このひとお客様だ。そうそう、このひとが持ってきた大量のスイーツの会計してるとこだった。


「あ、お待たせしてすみません。すぐに続きやりますね」

ってレジないや。それにこのひとのスイーツも。

……えっと、こういう時のマニュアルってあったっけ?


「あの、咲山実花さくやまみかさん? そろそろ私の話、聞いてください」

「あ、すみません。えっと、ちょっと私もよく分かってないんですけど、もしかしてクレームでしょうか?」

「クレームじゃないので、私の話を聞いて下さい」


あっはい、わかりました。


そうしてその客様の話を聞いたんだけど、そのひとが言うには、どうやら私は死んだらしい。

このひとの前にレジを済ませて出て行ったおじいちゃんが、車のペダルの踏み間違いをやっちゃた。それで表の道に飛び出したところに、たまたま結構な速度でダンプ走ってきて、そのダンプがおじいちゃんの車を避けようとハンドルを切ったら、私のレジにどっかーーん! と。なんだそれ。


そして。


「私もまさか自分が踏み間違い事故の現場に遭遇というか巻き込まれるなんて予想していなかったんですけどね」

「いや、あなた神様って言ってましたよね?」

「ええ、そうですよ。私は天照あまてらすといいます。この国では割と有名だと自負していますが」


え?


「天照さまって言えば、日本神話に出てくるすごく有名な神様ですよね? もちろん知ってますよ。小学校でも習いましたし、いろんな物語でも読みましたし。ただその天照さまが自分の目の前にいて、しかもコンビニでお客様としてレジに並んでて、そのうえ交通事故って……」


「ああ、確かにそれは驚くかもしれませんね。まあ交通事故はともかく、買い物にはこれまでも時々ちょいちょい来てましたよ? 特に最近はコンビニのスイーツが神界でちょっとしたブームになっていて、今回は先日知り合った異世界の女神様のお茶会への手土産用に買いに来てたんです」

「いやでも、スイーツならおいしい専門店がたくさんあるのにコンビニって……神様って案外庶民派なんです?」

「ふふふっ、ってそういうものでしょう?」


「ああ、なるほど」

実に説得力のある言葉だ。さすが神様、完全に納得した。

「とりあえず、何が起きて今どういう状況なのは理解しました。それで私はいったいこれからどうなるんでしょうか?」


「そうですね。今回は非常に稀なケースとなるので、それについて説明しますね」

それを聞いて私は軽く身構えた。神様レベルでの稀なケースって何ごと?


咲山実花さくやまみかさん。あなたは日本の最高神であるこの天照とともに事故にあい、そして亡くなりました。これはある意味私と死を共にするということにもあたり、私と強烈なえにしで結ばれたことになります」


なんだろう、説明の途中だけど随分大事おおごとになってきた気がする……

「そんな訳で、今のあなたは私の眷属と言っても間違いではない存在となっているんです」


はい大事おおごと確定!


「ええっと、天照さまの眷属って何だか大変な存在のような気が……私、コンビニでバイトしてる普通の大学生ですよ?」

「ええ、もちろんそれは分かっていますが……今のあなたは輪廻の途中ではありますが、神に近いと言っていい存在になっているんです」


つまりどういうこと?


「これはつまり、これからのあなた次第で、輪廻の輪に戻る事にも神の末席に名を連ねる事にもなり得るという事です」


オゥフ……ワタシカミサマニナッチャウノ?


「どうなるかはあなた次第です。ただ、すぐに輪廻の輪に戻ることはできません。あなたの持つ縁があまりに強力すぎて、輪廻の輪がゆがむ恐れがあるためです」


相手が最高神の縁なら、確かに相当強力そう……


「ですので実花さん、あなたにはしばらくの間、この神界に留まっていただく事になります」

しんかいって……話の流れ的に深海じゃないよね当然……

「神界って神様が暮らすところのことですよね、やっぱり……」


「ええそうです。神界には人々によく知られている神もそうでない神もたくさんいますよ。中には人間から悪魔とか悪神なんて呼ばれている神もいます。過去のちょっとした出来事をもとに創作された物語でそうなっているだけで、普通に皆さんいいひとなんですけどね」


そう言って微笑む天照さま……こうしてあらためて見るとすごい綺麗……


「そんな凄そうな所で、私は一体何をすればいいんでしょう?」

私の不安を感じ取ったのか、包み込むような笑顔を見せる天照さま。

「そうですね、とくにやらなければいけない事とかはありませんが……あなたは何かやってみたい事などありますか、実花さん?」


「うーーーーーん」

やってみたい事とか言われても、流石に将来の夢とかそう言った次元の話じゃない気がする……

普通の人生送ってきた私が神界でやりたい事とかって、普通に無いから……

「そうですよね。いきなりそんな事訊かれても答えられないですよね」


はいその通りです。


「そこで実花さん、私からの提案なんですけど、こういうのはどうでしょう?」

「はい?」

ここで今までで一番の笑顔を見せる天照さま。

当然身構える私。


そして……


「神界でお店やってみませんか?」


思っても見ない提案だったんだよね……

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