第13話 今日の実花は若干あれアレ荒れ

ああ、もう無理! 我慢の限界っ!!


「天照さま、実はとても大事な相談があるんです」

「な、何かしら実花? 何だか顔がとっても怖いのだけど」

「はい。事は急を要します。最優先で検討――いえ実施すべきなんです!」


急な事にびっくりしてる天照さま……でもすみません、もう無理なんです。


「分かったわ……よし、心の準備おっけー。さあ聞くわ、何でも言って」

「天照さま、実は私……」


私の嘗て無い真剣な表情に、思わず生唾を飲み込む天照さま……


「私、この店の店長と副店長を猫にしたらどうかと思うんです!」

「ねっ……ねこ? え? あの、実花?」

「猫です!」


「ええっと、ごめんなさい実花。ちょっとそれ、元ネタが分からなくって……」

「いえ、アニメの話とかじゃなく……あの、店長をですね!」

「ちょ、ちょっと待って実花。いい、よく聞いて……あなた今、興奮した時のスサみたいな顔してるわ?」


ヒクっ……


――興奮した時……のスサさん?

脳裏に再生されるのは昨日見たばかりの……拳を振り上げるスサさんの雄姿!

『そもそも! 神作を神作たらしめて……』

ストウァーーーップ! 脳裏のスサさんストップNow!!


はぁはぁ……はあ……

危なかった……心のHPはもう残り一ドット、ギリギリのところで脳内のスサさんが姿を消してくれた。

大丈夫……私はまだ大丈夫。


「すみませんでした、天照さま。もう落ち着きました」

「よかった……急なんだもの、びっくりしたわ。じゃあ実花、落ち着いて初めから説明してくれる?」

「はい」


私は天照さまに説明した。

昨日、店内の構想を練っているときに、猫をマスコットにするのを思い付いた事。

子供の頃から猫と一緒の生活を送ってきた私が、一人暮らしを始めてずっと猫を飼えずにいた事。

神界で猫と暮らす事が出来ないか相談したくて、天照さまの帰りを待っていた事。

店の準備をしながらも一旦気付いてしまった猫への気持ちはどんどん大きく膨らんで、とうとう抑えきれなくなってしまった事……


天照さまは優しい顔で微笑みながら、私の話を最後まで聞いてくれた。

そして――


「そうだったのね。」

その優しい微笑みに、私は目頭が熱くなるのを自覚しながらそっと頷く。

そして天照さまはゆっくりと話し始めた。


「確かに実花の言う通り、猫だって魂のある生き物だから概念からの実体化は出来ないわ」


やっぱり……


「完全に不可能って訳じゃないんだけど、多分それは違う……それは実花の望む状態ではないと思う」


天照さまの言葉に、だんだん俯いていく私。

やっぱり無理なのかなあ、猫のいる生活。


「でもね実花」


あれ? 声のトーンが変わった?


「知ってるかしら。世界には色んな神がいてね、その中には……猫の神様もいるの」


猫の? 神様?

ハッと顔を上げて思わず天照さまを見つめた私に、その天照さまから暖かな春の日差しのような言葉が降り注ぐ。


「そう、猫の神様。エジプトのね、バステト様っていう神様」

「バステト様……」


そうだ、聞いた事ある……ていうか写真で見た事ある。どこかの博物館で展示してるっていうシュッとしたクロネコの、像っ!


私の目が輝きを取り戻す。キラキラと、そしてギラギラとっ!


「そのバステト様の神域にはね、眷属の猫達がそれはもう沢山……」

「さあ行きましょう天照さまっ! 今すぐにっ! 間髪容れずにっ! 脇目も振らずにっ!」

「落ち着いて実花。またスサ化してるわよ?」


っ!? はい落ち着きました。スンッ……


「今日はお店の外観をと思ったけど、その様子だとそっちはまた今度にした方がよさそうね(猫型の建物にされても困るし)。じゃあ今日は一緒にバステト様のところに行きましょうか」


「はいっっっっっ!!!」

「実花、あなた……今の返事がここに来てから一番いい返事よ」


若干肩を落とし気味の天照さま……は置いといて。

ねっこねこー! ねこのかみさまっ!!




「今から行って大丈夫だそうよ」

ウキウキが止まらない私をよそに、天照さまはバステト様に話を付けてくれたらしい。普段の私だったら「流石神様、念話的なアレかしら?」なんて考えるところだけど、今の私はそれどころではない。

何たって、これから「ねこのかみさま」に会いに行くのだ!


私からまともな返事が返ってくることを期待していないのか、はたまた拒否する訳が無いと悟っているのか、天照さまは返事を待たずに私の手を取り、そして――

「じゃあ行くわよ」シュンッ


え?


景色が変わった。

いつもの部屋から……こじんまりとした家の前へと。


「バステト様ー、来たわよー」

目の前の扉を軽やかにノックしながら天照さまが中に呼び掛ける。

すると家の中からすかさず返事が――

「天照にゃー? もう来たにゃ? 早すぎじゃにゃいかにゃあ!?」


「にゃ」だと?

語尾に「にゃ」ですと?


そして姿を現すバステト様。

その姿は――


「にゃ、にゃ、にゃんですとぉーーーー!!」(実花)

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