第14話 ねこ100%

目の前に現れたバステト様。

その姿はシュッとした黒猫ではなく、

「ワンニャン時〇伝かっ!!」

服を着た子供くらいの大きさの猫、だった。


うーん、何て言ったらいいかな……擬人化、っていうよりは猫がそのまま人の骨格に近づいたって感じ?

顔はかなり丸みを帯びたアビシニアン(太っているって意味じゃないよ)って感じか?


「にゃあにゃあ天照ー、この失礼にゃ娘がさっき言ってたアレにゃ?」

「ええ、そのアレにゃ……んっうん……こちらが先程お話しした実花さんです」


バステト様はそろそろと近づいて私の周りを一周し、そして私を見回す。

その姿はまさに……猫ぉ!


「ほほぅ、で、この驚きっぷりはにゃんにゃ?」

「この子、あなたの像を見た事あるって言ってたから、そのギャップに驚いたんじゃないかしら」

にゃに? 像とにゃ!?」


バステト様は野性味に溢れた表情でいきなり距離を詰めてきた。

その姿はまさに……雀に飛び掛からんとする猫ぉ!


「おいお前、答えるにゃ! お前が見た像は『猫の頭がついたいかつい奴』にゃ? それとも『シュッとした黒い奴』にゃ? 答えによっては命がにゃいにゃ!!」


ええっと、それってどっちが正解? と言っても正直に答えるしかないんだけどね。


「ええっと、シュッとした黒猫の像でした」

「ふんっ、命拾いしたにゃ! 頭だけの方だったら恥ずかしすぎて死ぬところだったにゃ!!」


『命が無い』ってバステト様の方のだった!?


「あれは黒歴史にゃ! エジプトの連中、猫好きなのはいいとして、あの姿だけはにゃいにゃ。もともと普通に猫の姿だったのに、アレに引きずられてあのいかつい姿ににゃるところだったにゃ! ……いやだったにゃ。がんばったにゃ。死ぬ気で抵抗したにゃ! ……それでにゃんとかこの姿までで留めたにゃ……」


「はあ、苦労したんですね」

うん、帰ったらタブレット的なアレでちょっと検索を……


「おいお前、分かっているにゃ? 検索しようにゃんて考えるにゃよ。そんにゃ事したら命がにゃいにゃ!」


残念。バステト様の命が掛かってるんじゃ検索する訳にはいかないにゃ。


「あのあと他の民族と戦争ににゃって猫信仰は下火ににゃったにゃ。猫好きのあいつらがいにゃにゃったのは寂しいが、あの像が世界に拡散されずに済んだのは僥倖だったにゃ」


うーん、猫の姿でもやっぱり神様なんだにゃあ……


「ところがにゃ! 今の世界は一体にゃんにゃ! 発見された像が写真に撮られるだけにゃらまだしも、その写真を世界中どこからでも見れるとか! おまけにあちこちでレプリカまで作られるとか! これじゃあ、あの像と運命を共にした人間達が浮かばれにゃいにゃ!」


いや、彼らは喜んでるんじゃにゃいかにゃ?


ひとしきり思いの丈をぶつけてようやく落ち着いたのか、バステト様は「いいか、くれぐれも検索するにゃよ」と繰り返して話を終えた。


「それでお前、実花と言ったにゃ? 大体のところは天照から聞いてるが、今日はにゃんの用で来たのにゃ?」


私は説明した。

天照さまの神域にお店をオープンする事を。

その店の店長と副店長として、マスコット猫を任命したいと。

そしてほとばしる猫への愛を!


「うむ、まあお前の希望は良く分かったにゃ。その希望に添えるかは分からにゃいが、眷属達に聞くだけは聞いてみるにゃ。」

そう言って、バステト様は一声上げる。


「にゃっ」


すると、家のすぐ横に広大な空き地が現れる。

そしてもう一声。


「うにゃっ」


広大な空き地一面には、様々な段ボールが敷き詰められる。

みかんやらリンゴやらアマニョンやらの段ボール箱を畳んだやつだ。


そして。


「眷属集合にゃっ!」


その瞬間、一面の段ボールは一面の猫になった!

いやちょっと違う。段ボールの上に現れた色んな猫達が、思い思いの姿で寛ぎ始めた! ――が正しい。


つまり……天国はここにあった!!


みんにゃ、さっきの実花のはにゃしは聞いていたにゃ? その事について今から問うにゃ!」


おっと、バステト様が眷属達に語り掛け始めた。 傾注っ!


「ここをはにゃれてもいいと思う奴は残るにゃ。残りは解散!」

シュパッ


一瞬で消え失せる天国、いや猫たち。

残ったのは……十匹だけ!?


「おお、結構残ったのにゃ。これは、もしかするともしかするにゃ」


さあどうなる!? お願いっ!


「実花の店に行ってもいいと思う奴はこの場に残るにゃっ!」

シュンッ


そして誰もいにゃくにゃった……

そして私はその場に崩れ落ちた。

今の私はoでrでzなのだ……


「実花の敗因、それは愛が重過ぎた事にゃ」


確かに猫は重過ぎる愛は受け止めてくれにゃい……

それは分かっている、分かっているんだ!

でもしょうがにゃいじゃにゃいかっ!!


「ふふふふふふふふふふふ……」

「み、実花?」

「おいお前、大丈夫にゃ? ショックでおかしくにゃったにゃ?」


大丈夫、私はまだ本気を出していなかっただけ……


「バステト様お願いです。もう一度だけチャンスをいただけませんか?」

「ふむ、それは構わにゃいが……どうする気にゃ?」

「先ほど残ってくれた十名の勇士達、彼らにもう一度問い掛けます」

「……さっきと同じと思うにゃ」


それだけだったら、まあそうでしょうね。でも――


「さっきの私はこの戦いを前にして丸腰でした。お互いの人生を掛けたこの戦い、気概だけで勝つ事など到底不可能! ならば武器を! 彼らの心に突き刺さる究極のアイテムをっ!!」

「おい、まさかと思うが、またたびで釣るつもりじゃにゃいだろうにゃ? それは流石に許されんにゃ!」


「当然です。勝負はあくまで正々堂々! 騙し討ちの如き真似は致しませんっ!」

「分かったにゃ、その言葉、信用するにゃ。……さっきの十名、もう一度集合にゃっ!」


「天照さま、実体化の準備をお願いします」

「はいはーい」

天照さまはそっと私の手を取る。

「実花、正念場ね。頑張れ」

「はい! 絶対勝ちます」


天照さまの声援を勇気に変え、私は猫達に語り掛ける。

「皆さん、私のお店には……皆さんの為にコレを設置しますっ!」

そして私が段ボールの上に出したのは、



こたつ



「どうです皆さん、この魅惑のフォルム! 私のお店に来てくれた子には――」

シュンッ


そして誰もいにゃにゃった……




嘘だろ、負けたというのか……

くっ、こたつ先輩にお越しいただいた上での敗北……これはもう認めるしか――


「おい、お前らもっとそっちに寄るにゃ! これじゃ入れにゃいにゃ!」

「「「「「シャーーーーッ」」」」」


ん? 何処からか争う声が? 一体にゃに事?


「いや、もちろんお前らの言う通りだにゃ。早い者勝ちは世界のルールにゃ! でも……でも譲り合いは世界のマニャーマナーにゃ!」


聞こえてきたのは必死そうなバステト様の声。ええと何処から……?

そして私は見た。こたつから尻尾と後ろ足だけ出してジタバタしている、バステト様の姿を……


「あのー、バステト様? 一体そこで何を?」

「いや、こいつらが入れてくれにゃくてにゃ……」


私の声に、中に入るのを諦めてこたつから体を出したバステト様。そして――

「ふう……実花の勝ちにゃ。さっきの連中みんにゃこのにゃかにいるにゃ!」

既にこたつはねこ充填率100%。


そしてバステト様は居住まいを正して宣言する。

「こいつらみんにゃ実花の店に行く事を承諾したにゃ! と言うかチケット争奪戦にゃっ!!」

「そっそれじゃあ……」


……ついに、ついに、ついに!


「いやったあーーーーっ!!!!!」


こうして猫十匹とねこのかみさまが、私のお店の店長候補となりました。

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