第8話 どんなお店にしようかなっ
「さて実花さん、ここで質問です。今あなたがいるこの場所、一体どこだと思いますか?」
唐突な質問。
「はぃ? ……ええっと、神界じゃないですか?」
「ええ、そうなんですけど……すみません、これはちょっと質問の仕方が意地悪でしたね」
そう言って苦笑する月読さま。
「まずここ全体としては実花さんのおっしゃる通り神界で、その中のこの辺り一帯は姉さん『天照』の神域となります。そしてこの部屋、ここはその神域の中に姉さんが作った場所です。さて、それでは先程僕達が入ってきたあの扉の向こうはどこだと思いますか?」
どこって、それはやっぱり……
「天照さまの神域の中のどこか、じゃないですか?」
私の答えに月読さまは「よく出来ました」と言わんばかりの微笑み。
いや、普通そうでしょう?
「そうですね。それでは実花さんが扉から外へ出て振り返ったとします。ここはどんな建物だと思いますか?」
それは……あれ? そういえばここに来てからこの部屋の外に出た事ないな。
不思議と考えもしなかったよ……
「まず答え合わせからいきましょう。この部屋なのですが、実は『部屋』という概念だけで出来た場所なんです。したがって、外観というのは存在しません。部屋に入る扉のみ部屋の概念に含まれていたので、姉さんの神域の中で『この部屋に入ろう』と考えると、その者の前にあの扉が現れるんです」
それを聞いた私の脳裏に浮かんだのは、スサさんのアニメ鑑賞遍歴にも出てきたあのピンクのドア。
「ええ、多分今あなたが想像した通りのイメージで合っていると思います」
まあ超有名ですからね、あのドア。そりゃあ最初に思い浮かべるでしょうよ。
「多分姉さんはお店の外観はあなたと一緒に決めたいんだと思います。なので今そこに手を付けるのはやめておきましょう。であればまず今考えないといけないのは店内のレイアウトです。それが決まらないと品物を並べる事も出来ませんし」
うん、確かに。
「それでですね、今僕たちがいるこの部屋なんですけど、ここはこのままお店のバックヤードを兼ねた事務室にしたらどうかと思うんです」
うん、この部屋をお店にするってのは確かに無理があるよね。
テーブルセットやソファーセットがあって、お店よりも居住スペースって感じ。
「そこで実花さん、先ほど話題にしたあの扉ですが、あの扉の先にもう一つ部屋を作ってそこを店舗スペースにしませんか? この部屋はバックヤード兼事務所って感じにして」
あ、それいいかも。
「いい考えだと思います。でも勝手に決めちゃって大丈夫ですか? 天照さまの神域なら天照さまの許可が必要じゃないんですか?」
「さすが実花さん理解が早い。もちろんその通りで、姉さんの許可が必要なんですけどね……実はこの案は姉さんが考えたものなんです。で、『ここは実花のお店なんだから、一応実花にも確認しておいてね』だそうですよ」
天照さま……
お気遣いありがとうございます。
思わず胸が熱くなる。
天照さまマジ神!
「分かりました。私もそれ賛成なので是非お願いします。それで、どうやってあの先を部屋にするんですか?」
「概念の実体化は姉さんとの共同作業で経験済みと聞いています。基本的にあれと同じ。あの扉に手を触れて、その先に繋がる店舗を想像してください。実花さんのその想像を実体化するのは僕がやります」
扉の前に移動して言われた通り扉を手で触れた。
ひとつ息を吐いてそっと目を閉じたら、扉の向こうにあるお店のレイアウトを……
「ゆっくり考えていいですよ。そうすぐに決まるものじゃないでしょうし、僕たちもここでゆっくりしてますので」
OK、それならば遠慮なく。
さて、お店……お店かあ。
日本で色んなものを売ってるお店ってどんな感じだったっけ?
デパート、スーパー、ドラッグストア、コンビニ……それと……家電量販店とかホームセンターとか? ……ああ、トンキホーテンなんかも好きだったなあ。
他だと……そうそう、色んな店ってなら商店街! あ、だったら縁日の屋台や海の家とかも……いやこれは違うか。
あーーもう訳わっかんなくなってきた!
行き詰まった私は一旦目を開けると、扉から手を放して振り返る。
「ごめんなさい、もう少し待っ――」
――え?
ソファーセットの先にはさっきまでは無かった大型スクリーン。そしてそのソファーに深く腰を沈めた月読さまとスサさんが、二人で高級そうなヘッドフォンを付けてスクリーンを見ている。
で、そこに映っているのが――
あーなるほど、序破Qシンを一気見ですか。
これは本当にゆっくり時間かけても大丈夫そうだねっ。
…………でも! そちらにも参加させていただきたいっ!
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