第9話 お店ができました(中だけね)

さて一旦落ち着いて考えてみようか。


まずは広さ。

基本私一人で切り盛りするんだから、あまり広過ぎても困る。

それに一度に大量の来客もないだろう……多分だけど。

とすれば、やっぱり広くても郊外のコンビニサイズくらいが限度かなあ。


次に陳列。

店内全部見渡せるようにしたいかな……いや、万引き対策とかじゃなくってお客様に対応し易いようにね。

とすると、背の高い陳列棚を置くよりは陳列台の方がいいのかな? 道の駅の野菜売り場みたいになっちゃうけど。うーん……

あ、スイーツやるんだからホットドリンクと冷蔵棚とアイスコーナーも付けなきゃ。


レジはどうしよう。

効率重視ならコンビニみたいに出口付近だけど、それって何か違う気がするんだよね。

どちらかというと「おばあちゃんの駄菓子屋」な感じがいいなあ。店主は入口正面の一番奥でニコニコしてるって感じで。

うん、それがいいや。


壁とかは……

外から丸見えなのはちょっと嫌かなあ。

入口から中が覗けるのはいいと思うけど、壁全面ガラスはやり過ぎだよね。

あと自動ドアもちょっと違う気がする。

ガラス広めの開き戸がいいかな。お洒落な喫茶店みたいなの。


あとは……

飲食スペースみたいなのがあるといいな。スイーツとか食べて感想言い合えるような場所。

4人掛けの丸テーブルとかひとつポンと置いたら雰囲気いいかも。


あ、そうだ。使うかわからないけど、小さなキッチンとかあったら便利かも。

作るならレジの奥のほうかなあ。


電子レンジとかいるかなあ?

あ、でも温めるだけなら「概念の何とか」みたいなので済んじゃうかもしれないよね……?

まあこれは店が出来てからでもいいかな。

後で月読さまか天照さまと相談しよっと。


あとは何だろう……?

何かこの部屋って謎に明るいから、お店でも照明とか採光は考えなくてもいいのかな?

あ、壁紙!

これも何だかいつでも自由に変えられそうなんだよね。

なら深く考えずに今の気分で選べばいいかな。ええと……よし、白地に軽い感じで緑の葉っぱが描いてあるやつがいいや。

床はたぶん汚れないような気がする。神界だし。なら明るい色合いで。


ああ、マスコットの猫とかいるといいなあ。2匹。実家にいた頃はずっと猫と一緒だったけど、一人暮らし始めてからはペット禁止のところだったお陰で、今の私には猫ニウムが足りていない。

猫のいる生活いいなあ……

でも生き物の実体化って多分無理だよね。だって魂とか……

これも要相談。優先順位高し!


あとは…………うーん……大体こんな感じ、かなあ?

想像だけだと何だかぼんやりというか精度が低いというか……あ。

そうだ……


「月読さまちょっといいですか?」

「いいよ。ちょうど序が終わったところだし、いいタイミングだよ」


あれ? 待たせて申し訳ない気持だったのに……何故だろう、今少しイラっとした。


「大体イメージ出来たと思うんですけど、ちょっと細かいところが……あの、ミニチュア的な何かって出せますか?」

「なるほど、ミニチュアか……。うん、いい考えだと思うよ。いきなりぶっつけ本番よりもそっちの方が確実だよね」


そうなんですよ。


「お願いできますか?」

「もちろん」


月読さまに促されて、天照さまとお茶したテーブルセットに座った。

その月読さまも私の向かいに座って、

「さて、と。じゃあここに手を置いて、さっきイメージしたお店の様子を頭に浮かべてみて。いい感じに固まったところでミニチュアとして実体化するから」

月読さまは手のひらを上に向けてテーブルに置き、そこに私が手を重ねる。照れくささを隠せる程度に私は大人……なはずだ。

唸れ平常心! 雑念遮断っ!

よし、目を閉じてさっき考えたお店を頭の中でイメージ……イメージ……


「よし、そろそろいいかな。じゃあ実体化するよ……はい出来た」

その声で目を開けると、テーブルの上には天井のない壁の中に陳列台やレジといった先程考えてたあれやこれやが並んでいた。

「おー、ちゃんとミニチュアになってる!」


「へぇ、すごく可愛いお店だね。実花のイメージにピッタリだ」

「ありがとうございます。じゃあこのミニチュアを使って細部まで詰めていきますね。すみませんが、もうちょっと待ってもらっていいですか?」

「もちろん。僕達の事は気にしないでゆっくり考えるといいよ。具体的には358分くらい掛かっても全然大丈夫だからね」


あーー、破Qシンの合計時間ですね。分かります。


そしてミニチュアでレジや台をあっちこっちと並べ替えて、イメージを固めていって……

うん、こんな感じかな。ええっと……そうだ、お客様として店に入ったところからシミュレーションしてみようか。


まず扉を……お菓子とかこの辺りで……こうぐるっと見て回れるから……うんうん、それで最後にレジに……

おお、かなりいいと思います!

スクリーンを見ると、破のスタッフロールが流れている。頃合い良し。Qは見せんよ!


「月読さま、お待たせしました。準備が整いました」

「オッケー実花。じゃあ始めようか」


最初と同じように、店への扉に手を触れてから目を閉じて店を思い浮かべる。

ミニチュアを使ってあれこれ配置を試したお陰でレイアウトのイメージはバッチリ。あとはそれぞれ可愛らしくカッコよく使いやすい形と見た目で……脳裏の3D-CADで全てのオブジェクトにテクスチャをペタペタ貼ってく感じ。

はっはっは、細部まで完璧なり!


「はい、イメージおっけーです」

月読さまは軽く頷いて私の背中に手を翳す。そして――

「よし、じゃあいくよ!」

神力がほとばしった!

――と思う。


ええっと、何だか一瞬体が温かい何かに包まれたと思ったらそれがふわっと消えて、その次の瞬間に扉の向こうにある何かを感じた。

説明難しいけど、「何かがそこにある」感じって言ったらいいのかな。

「うん、大丈夫。ちゃんと出来てるようだね。もう扉を開けていいよ」


うう、緊張……


大きく深呼吸して、扉を――

「っわあぁ!!」


はは……


「すごい……想像そのままお店になってる! すごいすごいすごい!」



本当に感動すると、語彙って崩壊するのね……

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