第34話 会議で踊ろう

「実花、私大変な事に気付いちゃった」


ある日、飲食テーブルでどら焼きの試食(あくまで試食である)をしていると、奥の部屋から出てきた天照さまがそんな事を言い始めた。

「あの、どうしました?」


大変な事、大変な事、太陽神天照さまにとっての大変な事……


実花照みかてらすTシャツがまだ一枚も売れてないわ!」


うん、分かってた。

きっと天変地異どころか宇宙大災害レベルの大変ヤバい事か、日常で起こりうる大変しょうもない事のどっちかだろうって。

そしてそのどちらがより起き易いかって考えたら、それはもうほぼ間違いなくしょうもない事だろうなって。


ああ、今日も世界は平和だ。


「という事で緊急会議を行います。関係者全員召集なうっ」


嗚呼らば、我がささやかなる平和、よ…………




「呼んだかにゃ? 急いで来たけど一体にゃんにゃのにゃ?」

一番乗りはバステト様。映画監督みたいな格好をしてるのは、もしかして招きーず9店長ズの撮影中だったのかな?


「姉さん、来たよ」

「突然の呼び出しだが何かあったのか?」

そして次に来たのは月読様とスサさんご兄弟。

ってあれ? 二人だけ? てっきり……


――ここにいるよ

「ひゃうっ!?」


ああもうっ! そうだよ、このパターンだったよぉ……


「いらっしゃい」

「アマおねえちゃん!」

「久し振りねヒルちゃん。来てくれて嬉しいわ。あと相変わらず実花を驚かすのが大好きなのね」

「お久し振りよ! ヒルよ、来たよ、早速よ! ……あと実花は趣味よ」


そんな趣味は是非やめて頂きたいっ。




「さて、皆に今日来てもらったのは他でもない、このお店、実花照みかてらす存亡の危機を一緒に乗り越えてもらうため」

「存亡の危機、だと? そいつは穏やかじゃないな」

「姉さん、一体何があったのさ。まさか……人界から迷い込んだ虫が神力を吸収して疑似的な神格を得たとか?」

「それってで起きた事件ね? それなら現地の人間の協力を得て無事に解決したって聞いたわよ?」


えっ、執事とメイドの世界!? ナニソレ気になる!


「ほら実花も覚えてるでしょ? この前『視察』とか言って来てた異世界の神様よ」

「ああ! そうか、『神様なのに何故に執事服!?』とか思ってたけど……あれ本当に執事の神様だったんだ」


「異世界はどうでもいいよ。それよりも早く教えてよ。このお店に何が起きてるよ? ヒル心配よ?」

「ゴメンねヒルちゃん。では本日の議題を発表します」


『本日のお題』みたいに聞こえるのは私の気のせいかな?


「今このお店が直面している危機、それは――」

「「「「それは(にゃ)?」」」」

身を乗り出す一同(ただし私を除く)、そしてついに天照さまの言葉が降りてくる。

「このお店の命運を掛けた商品、『実花照Tシャツ』がまだ一枚も売れてないの」

「「「「な(にゃ)っ、な(にゃ)んだってぇーーーーっ!?」」」」


皆さんノリがいいというか付き合いがいいというか……

まあ私も嫌いじゃないんだけど……ね。




「まあ命運とか存亡とかはともかく、オリジナルグッズが売れないというのは良くないな」

「ですね。大事件とか緊急事態とかは置いておいて、キャラグッズが売れないのでは二期制作が難しくなるでしょう」


もしもし御二方、その話ってもしかして……?


「分かったよアマおねえちゃん、ここは私達『実花照製作委員会』が一肌脱ぐよ」


制作委――って、やっぱりそっち方面のネタかいっ! この仲良し姉妹兄弟め……




「――要するにそのTシャツが売れたらいいのにゃ? 確か『推勧売おすすめコーナー』ににゃらんでるヤツにゃ?」


コンサル神様――じゃなくってバステト様の言葉でようやく会議が始まった。




「デザインよ、目立つやつよ、新進気鋭よ」

「だったらどこかの作品から良さそうなのを参考にしてだな」

「ああそうそう、そう言えばアイロンプリント好きの仏陀のお話が――」

「スタァァァップ!!」




「なら宣伝よ、チラシよ、CMよ」

「神宮の境内に貼って貰おうかしら?」

「人界で知名度が上がってもなあ」

「類似品が奉納されたりしてね」

「……なし、ね」

「当然にゃ」




「値段が高すぎるにゃ?」

「どれも神力チャージ一回分ですよ?」

「にゃら、それすら高く感じるって事にゃ?」

「そんなぁ……」




「店員全員でそれ着て接客するというのはどうでしょう?」

「ああ、イベント会場とかでよく見るわね」

「ううっ、真夏のフェスの辛い思い出が……」




ううん、そもそもお客様が手に取って……手に取って……手に……あれ、ちょっと待って? そう言えば今まで来たお客様って……


お客様第一号のヒルちゃん。

結局駄菓子コーナーからレジに直行だったっけ。

次がアヌビス様。

ビール飲みたくなっちゃって大急ぎでおつまみを一緒に買って帰っていった。

で、パンドラ様は……

クジを引きに来ただけ。

それから濃ゆいミル――クリシュナ様。

もちろん乳製品以外に目もくれず。

そして最後がアシュヴィン双神のおふたり。

栄養ドリンク、以上。


ああそうそう、執事のセバスティ様は――

今回は仕事だからってちょっとお話ししただけで帰っちゃったから、お客様かって言うとちょっと違う気がする。

帰る時、『今度はメイド神様を連れて一緒に買い物に来る』って言ってたけどね。


あとハロウィンフェアとか仔犬様襲来事件とか……まあその辺の事は別にいっか。

という訳で、はい結論っ!

「天照さま、謎は全て解けました!」




「実花、謎が全て解けたって……まさかこの中に犯人が?」

「にゃんだってぇぇっ」

「犯人は……愚弟よ! 決まりよ! じっちゃんに何か掛けるよ!」

「スサ……一体何が君をそこまで追い詰めてしまっ――」

「待て待て待て待てーーーーっ! お、お、お、俺じゃないぞ? 第一俺がやったなんて証拠――」

「スタァァァァップ!」


ダメだって! それ犯人が悪足掻きする時のセリフだから!


「いいえ、スサさんは犯人じゃありません。っていうか初めから犯人なんていなかったんです!」


そう、これは実に悲しい事件だったんです……


「もう実花ったら……せっかく面白いところだったのに」

「残念よ、ヒルももうちょっと引っ張りたかったよ」

「スサ、もちろん私は最初から信じてましたよ?」

「にゃ」


なのにこのひと達ときたら……


「じゃあお話ししますね? えっと、これまでご来店いただいたお客様ですけど……何と、誰一人として『推勧売おすすめコーナー』まで辿り着いていなかったんです――――」


そう、これまでのお客さんはみんな……


「何か気になるものを見つけたらもう他の物が目に入らない、そんなひと達ばっかりだったんですよ!」

「あらあ…………」

「成程、流石は実花さん」

「にゃ。見事な推理にゃ」


いや、推理じゃなくってお客様達の行動を思い返しただけなんだけどね。


「だったら結局どうしたらいいんだ? 見せたい商品の所まで客が来ないのが問題なのだろう?」

スサさん、せっかく冤罪を免れたってのにまた悪い流れを…………

「むっそうか分かったぞ、つまり入口の扉を開けた客のすぐ目の前に――」

「スタァァァァップ!」


はい、今日三度目の強制停止です。

だって、……ねえ?

スサさん、それ名探偵の引き立て役のへっぽこ警部のセリフだから……


「そんなの最初だけだから。次に来た時には皆もう少し落ち着いて買物する筈だから、別に何もしなくても大丈夫ですっ!」




こうして突如として始まった第一回実花照緊急会議は、スサさんの立て続けの自爆でその幕を閉じた。

スサノオ伝説とは一体…………

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