第21話 大事なものが抜けていた
「カランカラン」
扉が開くとともに店内に鳴り渡る、温かみのあるベルの音。
いい感じ。やっぱりこの音にしてよかった。
「さあ、中へどうぞ」
「おじゃまするよ。ファーストコンタクトよ。未知との遭遇よ」
初めてのお客様、まさか私自らが扉を開けて招き入れる事になるとは……
だがこれもまたよき!
「ヒルちゃんにとって、ここが初めてのお店なのよね。ふふふ、ヒルちゃんの初めて、おねえちゃんが貰っちゃった」
ちょ天照さま、言い方っ!
ここに来て一段階上げてきたよ、この
「おおおーーーーーっ、いろいろ並んでるよ。これがお店よ。……って、そろそろお店の名前を教えて欲しいよ?」
「「……え?」」
お店の……名前、を? ……って名前ぇっ!?
「「……考えてなかった」」
ああ、完全に意識から抜けてた……
そうだよ……初めからずっと『お店』『お店』って言い続けてたけどさ、それって名前が無いからじゃん!
「天照さまどうしよう……」
「そうね、言われるまで全く気付かなかったけど、やっぱ名前は欲しいわよねぇ」
「正直、欲しいです」
「よね……。考えましょう、今から」
まさかこんな大事な事が抜けてたとは……
という訳で、遅ればせながらこれからお店に名前を付けることに。
「ヒルが買い物してる間に決めるよ」
ただし時間制限つきで。
「店長ズ集合っ!」
「「「「「にゃにゃ!(何ごとかっ!)」」」」」
こたつから飛び出し一斉に集まる十
ここはひとつ猫の手も知恵も借りたいっ!
「今からこの店に名前をつけます。皆さんも一緒に考えてください」
「がってん承知にゃ! いいにゃ前つけるにゃ! ファミローソレブンにゃ!」
いや、それはイロイロ駄目だから。
「もちろんにゃ。今のは単にゃる意気込みにゃ!」
そして店長達から挙がった候補が……コレだ!
OMISE99
マルケイ
TKS
午前午後
サンエフ
節約の店
・
・
・
いやそれ聞き覚えあるって言うか、かつての……
ねえみんな、もうちょっと考えようか。出来れば各方面から怒られない方向で。
flos
fructa
lux
caelum
・
・
・
いや、いきなりラテン語って……
まあかっこいいけどね。誤用とか怒られそうだけど。
めいと
だらけ
のあな
まーず
るがや
・
・
・
それ絶対怒られるやつ!
って何で知ってるの!?
いかん、怒涛の勢いに自分の案を考える暇もなく……
っていうか、前回勢いで私の事突っ込む女とか言ったけど、そもそも私突っ込みキャラは目指してませんからね!
「天照さま、どうしましょう……収集つかなくなってきましたよ?」
「そうねえ……もうここまで来たら、パッと思いついた名前にするっていうのもアリだと思うわよ。それもまた結構定番の流れよね」
ああ定番のってアニメのですね。分かります。
「パッと思いつくもの……かぁ」
「あと分かりやすさとか」
「んんーーー、じゃあベタだけど天照さまと私の名前をくっつけて
「『実花照』『みかてらす』『ミカテラス』……うん、いいんじゃないかしら。悪くないわよ実花!」
「え、そ、そうですか?」
「ええ、もうそれしかないってくらい。ティーンと来たわ!」
いや急展開!
「日本からやって来たお店『
「そう……ううん…………うんっ! そうですね、私もいいって思えてきました!」
「よしっ、じゃあみんなにも伝えて、そのまま看板もつけちゃいましょう」
「はいっ」
「店長ズ集合っ!」
「「「「「ニャッハー!(来やがったぜー!)」」」」」
何故にいきなり世紀末?
「はい、お店の名前が決まりましたぁー」
「「「「「にゃんにゃんにゃん! にゃふーにゃふーにゃふー!(ドンドンドン! パフゥパフゥパフゥ―!)」」」」」
いやもうそれ言っちゃってるよね!
「みなさんが店長を務めるこのお店の名前は…………
「「「「「にゃるらとほてっぷー!(最高ー!)」」」」」
ああ、もう私には突っ込み切れない…………ここは潔く負けを認めよう! 諸君らの勝ちだ!
私は天照さまと二人、外に出て看板を取り付ける。
それを店長達は店の中から……ああはい、見守る事無くこたつへ逆戻りですね。
そしてヒルちゃんを見下ろす二十二の薄目。その視線を一身に浴びてヒルちゃんは……固まってる?
「でっきたー!」
「ええ、出来たわね」
扉の上に取り付けられた、店の外観に合わせた温かみのある木の看板。
うん、これはとってもいい感じなんじゃないかなっ!
「ふふふ、まだ終わらないわよ」
何と天照さまが突然彗星の人に!
「実花、グッズ作るわよ! 店の名前が入ったのを沢山! Tシャツ、タオル、キーホルダー、三角ペナント、グラス、団扇……ふふふ、最初の『店長のおすすめ』コーナーの品物、これに決まったわね。推すわよっ! 『推勧売おすすめコーナー』よっ!」
うわー、コンビニ、百均、道の駅ときてお土産店……いや道の駅に含まれるのか?
そして『
「そうだ! 折角だからヒルちゃんにも声を掛けて一緒に……」
──ヒルはあなたの背後にいるよ
ぴゃうっ!
い、いつから? さっき中で固まってたよね? その時から一度も扉開いてないよね……?
「ヒルも一緒にやるよ。もちろんよ。当然よ。そう、あのスサですらお手伝いしたというのにヒルだけただのお客さんとかあり得ないよ。ヒルは『お客様でありお手伝いでもある』よ」
……ヒルちゃん、怖カワイイにも程があると思う。
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