2話 ねねね、魔法少女になる!(2)
ねねねの瞳に再び光が宿る。
(私は、にあちゃんの死の理由を突き止めて、仇を取るためにこの学園に入ったんだ! それまでは絶対に諦めない!)
ねねねは打たれた脇腹を押さえて、立ち上がった。
「……ミモザちゃん。教えて欲しいことがあるんだけど、鷺ノ宮にあって子のこと知ってる?」
「鷺ノ宮にあ? さあ? 弱い子に教える義理なんてないわ。さっさと負けてくれる?」
「っ! じゃあ、私が勝ったらにあちゃんについて教えてもらうからね」
その意地悪い笑みにカチン、と来た。何としてでもミモザに勝たねばならない、と心に決める。
(でも、どうしよう? スピード・アップじゃ近づけなかったし、ガードアップは防御だけだし、何か反撃の手段がないと……)
「さぁ! もう手加減はなしよ! ……衝撃よ、群れなして敵を打て! ショックウェーブス!!」
考えがまとまらないうちにミモザの攻撃が始まる。複数の衝撃波が同時に放たれねねねを襲った。
「っ! スピード・アップ!」
ねねねは再び身体強化魔法を使って高速のステップでそれをかわしていく。
「ふっ、ふっ、よっと。……えっ? えええっ!」
第一波はかわすことに成功し、前進しようとした瞬間にまた次の衝撃波が押し寄せてきていた。ねねねは回避を余儀なくされる。
「次よ! 次、次ぃ!!」
ミモザの放つ衝撃波は次第に緩急のついた、変化に富んだものになってきていて、次第にかわすのが困難になってきていた。
「痛っ!」
避けきれなかった衝撃波が頬を掠めて血が出た。
(避けきれないっ! カーブにフォーク、早いの遅いの、こんなの見切りながら近づけないよ! 遠距離に飛ばせる武器なんてないし、ステッキを投げて外したらもう終わりだし)
衝撃波が制服をかすめてブレザーの袖やスカートの裾がちぎれ飛んでいく。
(うーっ、買ってもらったばっかりなのに! こんな変化球かわせないよ! ん? 変化球? あ、そういえば、前の学校のソフトボール大会でこんなことあったっけ? カーブとかフォークとか投げるピッチャーがいて……。そうだ!)
ねねねがかわすのに限界に近づいてきたと思ったのか、ミモザは杖を振って大きな魔法を使い始めた。
「さぁ、もう終わりよ! 今度は最大速度・最大威力の衝撃波をお見舞いするわ!」
ミモザは自信満々にそう宣言し、直径一メートルはあろうかという衝撃波を作り出していた。まともに食らえば吹き飛ぶでは済まないだろう。
「迷ってる場合じゃない! ガード・コーティング!」
ねねねはステッキに魔法障壁を張り強度を上げると、ステッキをバットのように構えた。
(ソフトボール大会では男子以上に活躍できるくらい得意だったんだから! ……四番サード、轟ねねね、いきます!!)
「何? 野球の真似事? そんなので私の魔法が防げるわけないでしょ!! 喰らいなさいっ! 最大出力の衝撃波よっ!!」
「パワー・アップ! んああああああっっ!!」
ねねねは全身の身体能力を上げる魔法をかけた。
(っ! 衝撃波が止まって見える! これならっ!)
カキーーーン! と金属バットで野球のボールを打ったような快音を上げて、衝撃波は見事なピッチャー返しとなり、ミモザの顔面に激突した。
「が、ふっ……!」
魔法少女らしからぬ声を上げてミモザの体がのけ反る。ねねねには彼女の頭上にヒヨコがピヨピヨ回っているのが見えた。
「や、やった?! って、喜んでいる場合じゃない!」
ねねねは地面を蹴って猛ダッシュする。一気に彼女との距離を詰め、再びステッキをバットのように構えた。
「んぁあああーーー!! フル・スイングッッ!!」
身体強化魔法で全身の筋力を最大限まで強化し、魔法障壁でステッキの強度を高め、ねねねが出せる最大威力の一振りをミモザに見舞う。
ステッキがジャストミートした瞬間、ガシャーン、とガラスの割れたような音を立ててミモザの体が宙を舞った。
(え? なんでそんな音??)
にあから聞いたことがある。魔法少女のコスチュームには障壁付与されていて、それが破壊されるとコスチュームごとはじけ飛ぶ、と。
「あ……」
障壁と共にピンクのコスチュームが粉々に砕け散って、高級そうな真っ白いブラジャーとガーターベルト付きのレースのパンツに包まれた少女の裸体が宙を舞った。
ねねねの目にはその姿が妙にゆっくりと映り、そのまま地面に叩きつけられるまで目を離すことができなかった。
「はっ! や、やりすぎちゃった? み、ミモザちゃん、大丈夫っ!?」
ねねねが声をかけて近寄ろうとした瞬間、ビーーーーー、とブザーの音が鳴り「魔法模擬戦終了、勝者轟ねねね」と機械のような声にそう告げた。
視界を覆っていた荒野バトルステージの風景が砂嵐のように崩れていき、一瞬の浮遊感とともにねねねの意識も飛んでいた。
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