45話 序列一位(1)
デインとのバトルから数日経ったが、ねねねたちはりもにも、きららにも会うことが出来なかった。
何も起こらない不気味な静けさが漂う日々を送っていると、ある日の朝、ねねねたちが登校してくると壁新聞に人だかりができていた。
生徒たちは新聞を見上げ「ウソ……」「冗談でしょう?」と口々に漏らしている。
新聞には「星川きらら、序列一位陥落。新序列一位は渋谷りも!」と大きく見出しに描いてあった。
「そうデスか。ついに行動に出たデスね」
真菰が険しい顔で新聞を睨む。
「りもちゃん、どうして……?」
アルトは信じられないといった表情で口元を押さえ、新聞を食い入るように見ていた。
新聞にはこうも書いてあった「クイーンオブ魔法少女、不調か?」「轟ねねね、勇者・志津デインを破り暫定三位」。
ねねねは生徒手帳のランキングページを開いて確認してみる。確かに序列一位のところに渋谷りもの名前があった。
(たぶん、この数日のうちに百位以内の生徒とバトルして、その後すぐに星川先輩に挑んだんだ)
そして勝利したということになる。序列一位と序列七位以下がバトルをすれば、凄まじいハンデがつくことになる。それを破るということはそれを超えるほどの力がなければできないことだ。
「しばらく視聴覚室にも顔を出さなかったのは、この為だったのかな」
「おそらく。その可能性は高いデス。事件が明るみに出れば都合が悪くなるのは渋谷りもデス。ねねねサンの言う通り、序列一位だった星川先輩が真相に興味がないことがわかっていれば捨て置けば良いデスが、一位に迫る勢いのねねねサンが真実の鏡を使って真相を暴露しようとしていることを知って、自分でそれを防ぎに来たデス」
「し、信じたくなかったけど、そうなんだね。最下位に甘んじていたのは、目立たない存在でいたかったからなのかな?」
真菰とアルトは緊張した面持ちでそう話す。
(二人が言う通り渋谷りもちゃんは私が真実の鏡を使うことを恐れている? なら真相はそういうことだけど、それならまだ話し合いの余地はあるのかな? でも、たった数日で序列一位に立てる相手が話し合いなんてしないよね)
ねねねは唇を噛みしめ、戦う覚悟を決めていた。
「ねねねサン。これを渡しておくデス」
その表情を見た真菰は、ねねねに大きな紙袋を渡した。
「これは?」
「新しいコスチューム『リベンジ・ブレイカー』デス。きっとすぐに渋谷りもと戦うことになるデス。なんで渋谷りもが誰にもバレることなく鷺ノ宮にあサンをいじめ、竜ケ崎先輩を病院送りにできたのかアルトさんに分析してもらって作りました。説明書だけは読んでおいてください」
「こんな短時間で?! ありがとう」
ねねねは驚きながらも、それをありがたく受け取る。
「……ねねねちゃん。多分渋谷りもちゃんは悪魔の魔法を使うよ。勇者や女王なんかよりもずっと恐ろしい魔法。きっと戦闘では冷酷で残忍。中身は魔法少女なんて生易しいものじゃないと思うから、油断しないで」
そう話したアルトの顔はどこか思い詰めているように見えた。二人の真剣な表情を見て、ねねねは理解する。
(話し合いの余地はないかもしれない。戦う、そして勝つ以外に方法はないと思っておこう)
ねねねはゴクリとつばを飲み込んで、教室に向かった。
授業中、ねねねは渋谷りものことばかりを考えていて、授業の内容が頭に入ってこなかった。昼食も、何を食べたのかどんな味がしたのか覚えていなかった。ただりものことだけが頭の中をめぐっていた。
今学期、最後の授業の鐘が鳴った。明日、終業式が終われば冬休みに入ってしまい、うやむやになる可能性が高い。
(その前に決着を着けなくちゃ!)
授業が終わると、ねねねは鞄を持って席を立った。
「ねねねちゃん!」
「アルトちゃん、一緒に来てくれる?」
「もちろんだよ!」
すぐに真菰も教室の中に入ってきて、ねねねのところに駆けつけた。
「僕もお供するデス」
「うん。真菰ちゃんも、お願い」
真菰が用意してくれた魔道具の説明書は十分に読んで、渋谷りもの魔法にも予測がついていた。
三人はりもがいつもいる視聴覚室に向かった。
ところが、視聴覚室にはりもはいなかった。代わりに二人の先輩が待っていた。
「渋谷りもなら屋上に行ったよ。決着を着けにいくんだろう? 俺も一緒に行こう」
「志津先輩?」
「アイツと戦うつもりなら危険だ。僕も行く」
「竜ケ崎先輩? もう大丈夫なんですか?」
「あなたもアイツもにあの親友なんだ。死なせる訳にはいかないでしょ。アイツの魔法、わかってる?」
「はい。対策もアルトちゃんと真菰ちゃんと立てました」
ねねねは頷いて茜に応える。
「そう。ならいい。にあの敵を取ってあげて」
そう言って、志津先輩と竜ケ崎先輩が付き添い、合計五人で屋上へと向かった。
屋上の扉を開けると、灰色のローブを着た少女が夕暮れの中に立っていた。
灰色のローブの中は制服、ワンレンの長い髪は表情を隠すように腰のあたりまで長い。いつもは目が細くて薄めがちに開いていたが、今日はそれがぱっちりと開いていて、光を宿さない真っ黒な瞳が狂気を感じさせた。
「渋谷りも……?」
「せめてちゃんを付けろよ、轟ねねね」
いつもの渋谷りもとは全く違った雰囲気だった。
大人しくて、魔法模擬戦の動画が好きで、偏屈なところのあるどこか憎めない雰囲気の彼女が、狂暴な目つきでねねねを睨んでいた。
「渋谷りもちゃん、何か雰囲気変わったね」
「素がこっちなんだよ。轟ねねね、てめぇがくだらないことを暴こうとするから、関係ない人間までヤるハメになったじゃねぇか?」
渋谷りもは悪魔でも乗り移ったんじゃないかと思うほど、邪悪な顔をしてフェンスに寄り掛かっていた。
その発言はアルトと真菰の予測を裏付けていた。それでも一応確認はする。
「暴くってことは、りもちゃんが鷺ノ宮にあちゃんをいじめてたってことでいいのかな?」
「あぁ。あの魔力も乏しい、魔法の処理能力の低い、みそっカスな。魔力の質だけはちっとレアだったから、私のおもちゃにしてやってたよ」
無言で殴りかかりそうになる竜ケ崎先輩を真菰が止める。
「にあちゃんが、りもちゃんからの仕打ちを苦に死んだのは知ってる?」
「あぁ。わざわざ夏休みにアイツの家に行ってやったら、次の日あっさり死にやがってよ。次のおもちゃは誰にしようかと考えてたんだけど、星川きららとかいいなと思ってよ、アイツより序列の上に存在になってやることにしたんだ」
今度は無言で剣ステッキを抜いた志津先輩をアルトが押しとどめた。
(ありがとう、二人とも! 本当に頼りになる。私の自慢の親友だよ)
「そう。全部自覚の上でやってて、後悔とか贖罪とかそういう気持ちはないんだね?」
「あるわけねーだろ! あんなみそっカス死んで世の中なんのマイナスになるんだよ!?」
ねねねはその言葉を聞いて生徒手帳を取り出し、無言で魔法模擬戦の申請を送った。
「あ?」
「勝負しよう。りもちゃん。私が負けたら、私があなたのおもちゃになってあげるよ。けど、私が勝ったら、鷺ノ宮にあちゃんのご仏壇で涙が出るまで謝ってもらう!」
「……面白れぇこというじゃん? 元序列三位の龍ヶ崎茜も、序列一位だった星川きららですらこの私に一ミリも触れることすらできなかったのに! お前ごときが、クソみてぇな魔力しか持たない脳筋バカが勝てるとでも思ってるのかよ!?」
りもはくははは、と嘲笑する。
ねねねはできる限り感情を押し殺して尋ねる。
「能書きはいいよ。やるの? やらないの?」
「……死にたくなるくらい、なぶってやるよ。ヘル・ゲート」
りもが呪文を唱えると足元に真っ黒な穴が開き、そこに体ごと落ちていく。その中で変身を終え、今度は彼女の身長よりもちょっと上に現れたゲートから現れた。悪魔のようなデザインのコスチュームで膝までのエナメル調のワンピースドレスだった。ワンレンの髪はそのままに灰色のローブもそのまま羽織っていて、手には箸のような細く短いステッキを持っていた。
「オンユアマーク・レディゴー!」
時間を置かずにねねねも変身する。クラウチングスタートの姿勢からダッシュし、光の幕に飛び込んでセットしておいたコスチュームに着替える。今回の為に用意してもらった紫と白を基調にしたコスチューム『リベンジ・ブレイカー』だった。デザインはそう変わらない、バニースーツにスカート、黒のヒールにハンマーステッキを構えて変身を完了させる。
(ちょっと派手だけど、今日の気分にちょうど良い)
ねねねが変身を終えたところで、りもが生徒手帳を開く。
「承認、と。おもちゃが多くて困ることはないしな、たっぷりなぶってやる」
承認ボタンを押してニヤリ、と渋谷りも笑い、同時に発生したゲートの中にねねねたちは吸い込まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます