44話 真相(2)

 ねねねはアルトと真菰を追って全速力で階段を駆け上がった。


(二人とも無事でいて!)


 全速力で駆けた為、あっという間に部活棟三階の視聴覚室にたどり着いた。


「二人とも無事!?」


 ガラッと力強く扉を開くと、視聴覚室の中にいたアルトと真菰の二人しかいなかった。

 二人は驚いてねねねの方を振り向く。


「ねねねちゃん。……うん。大丈夫だよ」

「残念ながら渋谷りもはここにはいなかったデス」


 二人の無事を確認して、ねねねはほっとため息をつく。


「そっか。でも、二人が無事なら良かった。……いつもならこの時間りもちゃんは視聴覚室にいるのにどこに行っちゃったんだろ?」


 彼女はどこかミステリアスで、何かに苦しんでいるような繊細な人間にも見え、他人の目を気にしない豪胆な人間にも見えた。


「……もし、もしね。渋谷りもちゃんが鷺ノ宮にあさんを追い詰めた犯人だとして、ねねねちゃん、はどうする?」


 アルトは、泣きそうな顔で尋ねてきた。ねねねとりもに争ってほしくないと思っているのだろう。


「……もし志津先輩が話していたことが真実だとしても何か事情があったのかもしれない。りもちゃんが反省していて、ただ言い出せないだけなら、私が一緒に行って先生たちとご両親の前で謝ってもらう。でも、そうじゃないなら……」

「そうじゃないなら?」

「バトルでぶっ飛ばして、その理由を聞いて、謝ってもらう!」


 ねねねは単純明快にそう告げて、ぐっと拳を握りしめた。


「ふふっ、そうだよね。ねねねちゃんはそういう人だもんね」


 思い詰めたような顔していたアルトはそんなねねねを見て笑みを浮かべる。


「ねねねさんはブレないのデス」


 真菰もうんうん、と頷いた。


「それ、褒めてる!?」


 ねねねのツッコミにアルトが噴き出して、三人で笑いあった。ようやくいつもの空気に戻った。


「りもちゃんを見つけられないのなら、星川きらら先輩とバトルして序列一位になっておくのが良いかもね? そしたら、真実の鏡で何が真実だったのかハッキリするし」

「か、簡単に言うけど、星川きらら先輩はクイーンオブ魔法少女って言われてる最強の魔法少女だよ? 星川先輩の空中戦は他の追随を許さないって言われてるんだから!」


 アルトは自分のことのように胸を張って言う。


「星川きらら先輩対策をするデスよ。大丈夫デス、ここまで勝ってきたねねねサンなら勝てない相手じゃないデス」


 真菰も調子に乗ってそんなことを言う。


「それなら、星川先輩のバトル映像を見てみようよ? アルトちゃん、星川先輩の映像ってある?」

「うん、探してみるね。えーっと……」


 アルトは視聴覚室のロッカーの中にある資料映像を探したが、見つけることが出来なかった。


「あれ? ない。なんで星川先輩のがないんだろ? あれ? 他の人のもない……。まとめてここに収納されてたのに。んー、仕方ないから私のコレクションの中から……」


 諦めてアルトは自分の生徒手帳に記録していた星川先輩のバトル動画を映写機に転送して流し始めた。



 スクリーンに動画が流れ始める。

 そこは夜の森だった。その中に二人の魔法少女が立っている。

 一人は明るい茶色の長い髪をツインテールにし、小さな顔に意思の強そうな大きな瞳の少女だった。バレリーナのような純白のドレスに青いプレートアーマーを胸に付け、自分の身体よりも長い大きいきらびやかなステッキを持っていた。この少女が、クイーンオブ魔法少女・星川きららだ。

 もう一人は志津デイン。精悍な表情で剣ステッキを両手で構えている。


「これで何度目の挑戦だろうな? 飽きてこないかい? きらら」

「きららはデインちゃんの挑戦なら何度だって受けるよ」

「これで最後になるといいね! いくぞ!」

「勝負だよ! デインちゃん!」


 バトルが始まった。

 デインが地面を蹴って距離を詰めながら、左手で電撃の竜を放つ。

 きららはその場で大きな杖を構え「ミルキーウェイ!」と叫び、杖から乳白色の魔法弾を撃ち放った。

 魔法弾は電撃の竜と同じく追尾性があるのか、不規則に動いてきららを狙い打とうとする電撃の竜を打ち落とすかのように魔法弾は飛んだ。

 魔法弾と電撃の竜がぶつかり、激しく爆発を起こす。その様子はまるで宇宙戦艦同士の戦いのようだった。


「ライトニング・スライサー!」


 デインは電撃をまとった剣ステッキを振るい、斬撃を放った。


(私と戦った時には使わなかった技だ!)

「ホーリー・レーザー!」


 きららも強力な真っ白い光線を杖から放ち、斬撃を相殺する。

 その間にデインは電撃の竜を背後に十数も待機させ、きららが次に使ってくるのは大魔法を使ってくると読んでその竜を一斉に解き放った。


「食らえっ!!」

「っ!!」


 さすがのきららもその連続攻撃に対応できなかったのか、十数の雷撃を食らって大爆発が巻き起こった。

 勝負あったのかのように見えた。しかし、煙が晴れると、きららの姿はそこにはなかった。代わりに空へと続く魔法の球がポツポツも浮かんでいた。


「やっぱりこの程度じゃやれないか。どこに行った?」


 デインが目で魔法球を追いかけていくとそれは上空へと続き、無数の魔法球がまるで天の川のように広がっていて、その一番先頭にステッキに乗った夜空を舞うきららの姿があった。

 雷の竜にぶつかる寸前に障壁を作り、同時にステッキに乗って空に逃げたのだ。その上、攻撃用の魔力球を無数に作っていた。


「ミルキーウェイ・スプラッシュッッ!!」


 きららの叫び声と同時に、星々のように浮かんでいた魔法球が一気に弾丸となってデインめがけて襲いかかってくる。

 デインはとっさに地面を蹴って魔法弾を交わし、剣で弾き、時には障壁魔法で防ぎながら駆け抜ける。


「はぁぁっ! 雷神招来!」


 デインは走りながら天に腕を伸ばし天井を巨大な雷を召喚すると、自身に雷の魔法を振り下ろした。そして、その強力な雷の力を身にまとい、そのまま鳥のように空中へ飛び上がった。


「ブレイバー・スラッシュッ!!」


 その電撃を帯びた剣を目にもとまらぬ速さで複数回振り抜いた。斬撃波がきららに迫る。


「ブースト!」


 きららはステッキを魔法で加速させて空を駆け、斬撃をかわす。しかし、なおも次々と打ち出される斬撃にきららはまたも追い詰められていく。

 きららは逃げながら魔法弾で斬撃を打ち消し、空に花火のような爆発が次々と巻き起こった。


(なんて激しくて美しい戦い方なんだろう。これが序列一位と二位の戦い……)


 ねねねと戦っていた時、デインは本当に本気だったのか疑いたくなるほどの高レベルな戦いだった。


「お終いにしよう。……セラフィック・サンダー・レイッ!!」


 デインが最大出力の大魔法を発動させる。

 両腕を天に掲げて巨大な魔法陣を映し出し、空に巨大な雷雲が召喚した。一瞬にしてステージ内が雷竜の巣に変わり、視界を覆いつくし雷の柱の数々。それらが一斉にきららに迫る。


「そうだね。きららもこの一撃でデインちゃんに勝利する!」


 きららは迫りくる雷をかいくぐり、魔法陣で空中に足場を作り出す。その上で大きな杖を砲台のように構え、デインに狙い定めた。作り続けていた魔法球を杖の先に一気に集約させていく。肩や足を電撃がかすめ、黒く焼け焦げるが、きららは眉一つ動かさない。そして、魔法が完成する。


「ホーリー・スター・イレイサーッ!!」


 きららは杖の先に直径十メートルはあろうかという巨大な一つの魔法弾を作り出し、それをレーザーのように打ち出した。とんでもない魔力の塊が、真っ白なレーザーになって一瞬でデインのところへまで届く。


「待っていたよ! さぁ、力比べだ。俺の雷がきららを焼き尽くすか、きららの光が俺の盾を貫くか! ブレイバー・シールド!」


 デインは剣のステッキを盾に変化させ、分厚い障壁魔法を何枚も展開する。

 きららの放ったレーザーが障壁にぶつかり、一枚、二枚と薄いガラスでも割るかのようにやすやすと打ち破っていく。


「ぐ、くぅぅ……!」


 デインは残った全魔力を盾に注ぎこみ、障壁をさらに厚くする。それでも次々と破られ、残り一枚というところにまで来ていた。

 宙に浮かぶきららも同じ状況だった。レーザーを打ちながら雷を防ぐために球状の障壁魔法を展開させ防御と攻撃を両立させ続けている。


「う、うぅぅ! デインちゃん、凄いよ。きららがこんなに追い詰められるなんて……。でも! きららは負けない!! ビット・イレイサー」


 きららは防御障壁を維持したまま、集まり切っていなかった遠くに浮かぶ魔法弾からもレーザーを打ち出した。

 レーザーが志津先輩に降り注ぎ、分厚い障壁を切り刻んでいく。


「ぐ、が、ああぁぁぁっっ!!」


 とうとう、白い光がデインを飲み込み、勝敗は決まった。

 きららの勝利だった。

 ビーーーーー、とブザーの音が鳴り「魔法模擬戦終了、勝者星川きらら」と機械のような声がそう告げ、画面が黒くなった。



 映像が終わって、ねねねは背筋に汗が流れるのを感じた。


「……凄かったね」

「そうだね」

「デス」

「誰? 簡単に序列一位になっておくのも良いかも、なんて気軽に言ったの? ……私だよ! ヤバイよ! 私、とんだ勘違い娘だよ!」

「ねねねちゃん、落ち着いて」

「落ち着くのデス」


 錯乱しそうになるねねねを何とか二人は抑える。


「はぁぁ……。簡単な相手じゃないってわかってたけど、星川きらら先輩。まさにチートだよ。チート・クイーンだよ」

「そうだね……。でも、ねねねちゃんなら勝てちゃう気がする」


 アルトは笑顔でそんなことを平気で呟く。


「い、今の映像見てそんな感想持てるの……?」

「だって、ねねねちゃんだもん。星川先輩、接近戦は嫌がってる印象だったから、まずはあの魔法弾を発生させずに攻めることかな」

「うーん。ホウキで一気に近づいて接近戦に持ち込む、離れないようにして攻撃の手を休めずに連続攻撃? 後は、あの魔法弾を防ぐ魔法が使えれば戦えそうかな?」


 ねねねがアルトの案に乗っかってアイディアを出すと、真菰はため息をつく。


「そんなことよく考えつくデスね。では、ホウキのスピードアップと自動追尾の性能向上が必要デスね。魔法弾を破裂させる、あるいは吸収する、なんてことができないか先輩方に相談してみるのデス」

「頼りにしてるよ。真菰ちゃん」


 ねねねは真菰の肩に手を回して抱き寄せた。


「よ、よすのデス」


 恥ずかしそうにジタバタする真菰。


「アルトちゃんも! アイディアありがとう!」

「きゃっ……!」


 ねねねはアルトの肩も掴んで引き寄せる。二人の首に腕をかけたまま、ねねねは小声で二人に話す。


「それとね。もしかしたら、ってことも考えて異空間結界の対策も考えておいて欲しいんだ。いつりもちゃんに出会っても良いように」


 それを聞いたアルトはショックそうに口元を覆い、真菰は静かにうなづいた。


「……最初のうちは私のことなんか気にもかけてなかったから、協力してたのかなって思うんだ。でも、序列が上がるにしたがって、妨害があった気がする。柳生カルマ先輩と戦った時、不自然に私とアルトちゃん真菰ちゃんは分断された。あれは柳生先輩だけがやったことなのかな?」


 そうとは言い切れないが、その可能性は否定できなかった。

 言われたことを想像して二人の顔が真剣みを帯びていく。半信半疑だったアルトの口からも「あ……」と声が漏れた。


「ん? アルトちゃん、どうしたの?」


 アルトも誰かに聞こえないように小さな声でささやく。


「ろ、六香海美先輩と戦った時は情報が筒抜けだったよね。もし、りもちゃんが私たちの味方なら視聴覚室を覗いていた六香先輩に気づいて教えてくれた思う。わざと無視してたとしたらねねねちゃんが序列を上げる妨害にはなった。その後はりもちゃんとの接触は少なくなったけど、誰でも見れるように置いておいた資料映像を回収したのって……」


 アルトはうすうす気付いてはいたのかもしれない。真菰の家に泊まった際に言い含めていたのもこのことだったのだろう。


「もし、りもちゃんが犯人だとするなら、志津先輩が停学覚悟で魔法攻撃をしてもはぐらかし続けたってことは何か隠したい秘密があったんだと思う。そして、竜ケ崎先輩は親友の言葉を思い出せって言ってた。にあちゃんは『私が死んでも……を許してあげて』その聞き取れなかったその部分は鷺ノ宮にあちゃんの親友だった……」

「渋谷りも、を許してあげてって言いたかったってことデスか?」


 真菰は全てを悟ったようにそう尋ねてきた。


「たぶん。だから何があっても良いように、準備をしておきたいんだ。協力してくれる?」


 二人は小さな声で「うん」「はいデス」と返事をした。


(ようやく真相に近づいてきたんだ)


 ねねねは序列一位に挑む訓練と、渋谷りもと戦う準備を進めることを心に決めたのだった。

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