43話 真相(1)

 志津デインとのバトルを終え、ねねねがバトルステージから中庭に戻ると、ワッ! という生徒たちからのもの凄い歓声に迎えられた。


「やった! やったね! ねねねちゃん!」

「やったのデス! 凄いのデス! ねねねサン!」


 アルトと真菰は泣きながらねねねに抱きついて喜びをあらわにした。

 ねねねを応援してくれていた生徒たちも同じく狂喜乱舞してくれていて、逆にデインのファンは涙を流して悔しがっていた。

 ねねねがその光景にあっけにとられていると、


「完敗だよ」


 デインが握手を求めて手を差し伸べてきた。

 ねねねも笑顔で応じて、その手を握り返す。


「ありがとうございました。志津先輩のお陰でここまで来れました。感謝してもしたりません」


 ねねねは志津デイン、ではなくあえて志津先輩と呼んだ。


(にっくき、志津デイン。でも、先輩に敗れた悔しさがあったからこそ、ここまで戦ってこれた。畏敬を込めてあえて本名で呼んでたけど、今はもうそう呼ぶ理由もなくなったんだ)

「ねねね君との戦いは本当に楽しかったよ。星川きららと戦うなんかよりよっぽどね。必死になったし、驚かされた。……いよいよ、序列一位への挑戦だね」

「はい。でも、その前に教えてくれませんか? 鷺ノ宮にあちゃんのことを」

「そうだね。ただ、ここでは話しづらい。場所を変えよう」


 歓声の鳴りやまない中、ねねねはアルト、真菰と共にデインの後を追って中庭を抜けた。



 志津先輩に連れられて部活棟一階の「魔法模擬戦 研究部」の部室の中に入った。


「俺が部長なんだ。この部屋は好きに使ってくれていい」


 室内は普通の教室で、机やイスは端に寄せられていて、おそらく部屋の真ん中を使って議論や魔法模擬戦を行っているのだろう。

 夕日も傾いてきて暗くなり始めた教室で、デインは教室の灯りをつけると、軽い口調で話し始めた。


「さて、話す約束だったね。……と言っても、俺も鷺ノ宮にあと直接関わってたわけじゃない。噂を聞いて、その真相を探っていただけだ。『鷺ノ宮にあがいじめにあって、それを苦に自殺をした』なんていうのは、学園にとって不祥事になるような大事件だ。なのに、誰も知らない。学園から口止めが入っているにしたっておかしいと思うだろ?」


 それはねねねたちが考えていたことと同じだ。アルトと真菰もうんうん、とうなづく。


「俺が調べ始めた時は鷺ノ宮にあに友達と呼べる親しい人間は竜ケ崎茜だけだった。茜くんにとってもそうだっただけにその悲しみは計り知れない。角に黒いリボンが結んであるのを見たかい? あれは茜くんが彼女なりに喪に服しているんだよ」

(そうだったんだ。あの黒いリボンはそういうことだったんだ……)

「俺は彼女から話を聞いて推論を立てることができた。なぜこの事件が明るみに出なかったのか? ソイツは魔法模擬戦のような異空間の中で、一方的に彼女をなぶっていたからだ」


 その言葉を想像して、ねねねは頭に血が上っていくのを感じる。


「っ!? どういうことですか?」

「言葉の通りだよ。これは茜くんが鷺ノ宮にあから聞いた話だけど、後に茜くんもそれでやられた」


 茜のことを思って発したデインの声があまりに沈んでいたため、ねねねも怒りを少しは抑えられた。


「竜ケ崎先輩が……。でも、なんでそれがバレなかったんでしょうか? 校内で人を傷付ける魔法を使ったら停学か、悪ければ退学ですよね?」

「そうだね。俺も一度校内で魔法を使って人を傷つけて停学になってる。おそらく魔法模擬戦の中で行ったんだろう。魔法模擬戦のバトルステージはほぼ先生に監視されているし、元に戻れば怪我も物の破損も直ってしまう異空間だ。けど、心や痛みは残る。ソイツの魔法はその中で異空間を作り出すものなんじゃないかと想定している。例えば、人の目に見えなくなってしまい、自分の能力が強化される結界魔法ならどうだろう?」

「結界魔法?」

「伝説級の魔法の一つデス。個人で扱えたのは過去に指の数ほどもいないのデス。自分の思い通りにできる実在する空間なんて作れるとしたら、それこそ破格なのデス」

「魔法模擬戦でも使われているフィールド魔法だよ。この学校の創始者の魔法使いたちがこの学校の為に作った大魔法で、これがあるから魔法模擬戦が成り立ってるくらいだって言われてるよ。魔法模擬戦なんかで使ったら反則クラスの無敵魔法だよ」


 ねねねの聞いたことのない魔法を真菰とアルトが解説してくれる。


「そういうことだね。話を戻すよ。……彼女たちの出会いは、竜ケ崎茜がいつものように放課後屋上でたそがれていた時だった。屋上のフェンスを乗り越えようとする生徒を見たんだ。止める間もなく屋上から飛び降りてしまった彼女を、竜ケ崎茜はとっさに竜に変身して助けた。そこから彼女たちの友情が始まったと聞いている。竜ケ崎茜は鷺ノ宮にあが自殺未遂をした理由について何も聞かなかった。鷺ノ宮にあにとってもそれが心地よかったんだろう。放課後二人で過ごす姿をホウキレース部の人間が何度か目撃している」

(竜ケ崎先輩に鷺ノ宮にあちゃんは救われてたんだ……! でも、それならなんでその後自殺してしまったの?)

「竜ケ崎茜を拠り所にしていることを面白くなく思ったソイツはランキング序列三位の竜ケ崎茜を完膚なきまで叩きのめした。彼女はそれで夏休み前に一度長期間の学校を休んでいる」

「魔法模擬戦で、ですか?」

「魔法模擬戦でも痛みや心の傷は残る。学校に通えなくなるほどの精神的なショックだったんだろう」

「校則を破ることなく、誰にも見つからずに竜ケ崎先輩をにあちゃんから遠ざけた……」

「そうだ。さっき言った魔法で校則違反・犯罪になることなくやってみせたんだよ、ソイツは……」


 志津先輩が珍しくぶるっと体を震わせ、怖がるように右腕で体を抱きよせるように掴んだ。


「……誰なんですか。それは?」

「ソイツの名は、渋谷りも。アルトくんと同じ映像研の部員だ」


 あまりの驚きで三人とも言葉を発することが出来なかった。


「あ、あの渋谷りもちゃんがにあちゃんをいじめていた犯人?」

「ちょ、ちょっと待って下さい! り、りもちゃんそんなことするはずありません! ちょっと変わった娘だけど、私たちのランキング序列一位を目指す計画にも協力してくれていたんです……!」


 普段大人しいアルトが珍しく声を荒げた。

 ねねねも気持ちは同じだった。しかし、デインが根拠もなくこんな話をしないだろうとも思った。


「アルトくん。気持ちはよく分かるよ。これは仮説の話だから俺も真実とは言い切れない。けど、これは俺が時間をかけて調べ上げた結果だ。かなり真実に近いと思う」


 デインはアルトに同情してか少しトーンを下げて話す。


「わ、私が直接聞いて来ます! りもちゃんが、そんなことありません!」


 アルトはそう言うと部室から出て行ってしまった。


「あ、アルトちゃん!?」

「僕に任せるデス。 ねねねサンは志津先輩の話を聞いて欲しいデス」


 真菰はねねねを制して、アルトを追いかけて部室を出て行ってしまった。


「……続きを話そう。渋谷りもはなかなか本性を現さない。俺は真偽を問いただし、魔法模擬戦を挑んだが、適当にあしらわれるだけだった。竜ケ崎茜は半殺しにしておいて、なぜ俺との勝負を避けるのかはわからない」

「そうだったんですか。それじゃあ、あの時志津先輩がりもちゃんに食ってかかってたのは……。あの時はすいませんでした」

「いや、あれは俺の不注意だ。強硬に出たものの学園であんなことしてしまった。自己申告をしたから退学は免れたけど、一週間の停学になった。止めてくれて感謝しているよ」


 デインはさわやかな笑顔で笑ってそう言った。


(本当にカッコいい人だ。勇者は伊達じゃないなぁ)


 最初の出会いがこうでなければ、関係は違っていたかもしれない。


「渋谷りもは一体何を考えているのか……。結界魔法なんて凄まじい魔法を使えて、竜ケ崎茜を病院送りにできるぐらい強いくせにランキング序列は最下位に甘んじている。当時ブービーだった鷺ノ宮にあをいじめ続けて、何をしたいのかわからない」


 デインの言う通り、渋谷りもが何を考えているのか、ねねねにも理解できなかった。しかし、鍵は渋谷りもにあるということが分かった。


「俺の話はこれで終わりだ。二人を追いかけた方が良い。行っておいで!」

「はい! ありがとうございました」


 ねねねはデインに深く頭を下げると、急いで部室を出た。


(急いで視聴覚室へ向かわないと!)


 ねねねは魔法を使わないギリギリの全速力で、二人を追い駆けた。

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