40話 因縁の戦い VS勇者(1)
(にあちゃんは、自殺じゃなく、殺された?)
そのことを竜ヶ崎茜から聞いて、ねねねの心はざわつき、胸をチクチクと刺されるような不快を感じ続けていた。
茜はねねねとのバトル以降、学校を休んでしまい、学校には姿を見せていない。命に別条はないとのことだったが、話を聞けないもどかしさにねねねは焦れていた。
(竜ケ崎先輩はどうやってそんなことを知っていたの? 一体誰に勝てないと言っているの? あぁ……! 話をもっと聞きたいのにそれを出来ないなんて……)
ねねねは自分の髪をくしゃくしゃといじり、苛立ちを募らせた。
そんな状態では授業にも身が入らず、悶々としたまま午前の授業が終えた。
茜を破ったことでねねねの序列ランキングは三位となり、何をしていても注目させるようになっていた。しかし、その鬼気迫る様子に新聞部の面々ですらねねねに近寄らず、腫れ物扱いになっていた。
「ねねねちゃん、今日は中庭でご飯食べない?」
そんなねねねに声をかけたのはアルトだった。
「え? あ、でも、私お弁当ないし……」
「えへへ、お母さんが作ってくれたんだ」
アルトはにこやかな笑みでランチボックスを二つ見せる。
「真菰ちゃんも誘って。ね?」
「僕も今日はお弁当なのデス」
いつものようにいつの間にか真菰もねねねの側に立っていて、その手にはお弁当らしき包みが握られている。
「行こう?」
「行くのデス」
「え、あ、ええ……?」
ねねねは二人に連れられて、中庭を訪れた。
中庭のベンチに三人で座り、それぞれお弁当を広げる。アルトに渡されたランチボックスの中にはハム、たまご、サラダトマト、ツナといった色とりどりのサンドイッチとから揚げという食欲をそそるラインナップで、すぐに食欲がわいてきた。
「もらっちゃっていいの?」
「うん! お母さんがいつも学食じゃ栄養偏るでしょって。遠慮なく食べてね」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
ねねねはハムのサンドイッチを手に取り、口に運んだ。一口噛みしめるだけで活力が湧いてきた気がした。
一口、二口と食べて、昨日の夜からあまり食べていなかったことを思い出した。
「ありがとう。なんか、元気になった気がする」
「それなら良かった。ねねねちゃん、昨日からずっと怖かったもん」
「お茶もどうぞなのデス」
真菰が水筒からお茶を出してくれる。ありがと、とお礼を言って飲み干した。暖かいお茶は気分を落ち着かせてくれる気がした。
「ごめんね、怖かった?」
「ううん。もとに戻ってくれたみたいだから大丈夫だよ」
「デス」
二人の微笑みにねねねは不安が取り除かれていくのを感じた。
(はぁ、すぐ目の前のことだけでいっぱいいっぱいになって、私、ダメだなぁ……)
二人はそんなねねねを気遣って気晴らしに外に連れ出してくれたのだろう。
(にあちゃんのことばかり考えていて、アルトちゃんと真菰ちゃんのことをないがしろにするのは良くない。友達は大事にしなきゃ)
ねねねは二人の顔を見て、心にそう誓う。
「次の相手は、とうとうあの志津デイン先輩デスね」
「志津先輩は勇者の異名を持つ魔法少女だよ。弱点がほぼないって言っていいんじゃないかな」
アルトと真菰から次の目標のことを話される。
(そうだった。これは私だけのにあちゃんへの弔い、復讐だけじゃなくて、三人の目標なんだ)
「そうだね。志津デイン先輩……」
圧倒的な差で負けたあのバトルのことを思い出す。戦って勝てるビジョンが浮かばず、ねねねが考えあぐねてうなっていると、
「やあ、ねねね君。それとアルトちゃんに真菰ちゃん? こんにちは」
志津デインがさわやかな笑顔を振りまいて現れた。
「こ、こんにちは!」
「こんにちはデス!」
デインに少なからず憧れを持つ二人は、緊張した様子で大きな声で挨拶を返す。
「志津デイン、先輩」
二人とは対照的に、ねねねの表情には警戒心が宿っていた。
「竜ケ崎茜を破ったんだね。壁新聞で見たよ。ついにここまでやって来たね。今度は俺に挑んでくるんだろ? 君とのバトル楽しみだ」
その視線を気にした様子もなく、志津デインは余裕のある笑みを浮かべ、ねねねを見下ろす。
「志津先輩。私、次のバトルで勝つつもりです。楽しむつもりなんてないですよ」
「へぇ? バトルマニアの君がバトルを楽しめないねぇ? ……大方、竜ケ崎茜から鷺ノ宮にあのことでも聞いたのかな?」
「っ、どうしてそれを!?」
ねねねはデインに掴みかからんばかりの勢いで立ち上がる。
デインは自然な動きで立ち上がった肩に両手を置き、ねねねをゆっくりとベンチに座らせた。
「俺が学園始まって以来の自殺者に何の興味も示さないと思ったかい? 少なくとも君以上のことは知っている。教えて上げても良いけどね」
「教えて下さい! 教えてくれるなら、私、なんでもしますから!」
「ふん。なんでもする、ね。それなら俺とバトルをしよう。俺に勝てたら君に情報を上げるよ。でも、負けたら、そうだな、俺が卒業するまで俺の修行に付き合ってもらう。付き人のように朝から晩までね」
「えぇー……?」
ねねねの口から心底イヤそうな声が漏れた。
(この人頭の中が完全に体育会系だ……。後輩なら先輩の言うこと聞いて当たり前だろ、って頭の中にインプットされてる。それに女子好きでしょ、この人)
いわゆる同族嫌悪というものなのだが、今のねねねにはそれが理解できなかった。
「あー、そうなったら楽しみだなー。……どうする??」
楽しそうにそう言いながら、デインは値踏みするような表情でねねねを見る。
「……次は負けないって言いましたよね」
「ん? なんだって?」
「その挑戦、受けます! 二週間後の放課後、ここで勝負です!」
ねねねはまっすぐな瞳でデインを見上げた。デインは一瞬それに驚いたようだったが、すぐに余裕のある笑みを浮かべる。
「ふん、それでこそだね。君の目標はその先かもしれない。でも、今は対戦相手の俺だ。俺のことだけ見るんだ。間違っても楽に勝てる相手だなんて思わないことだね」
デインはきびすを返して校舎へ戻っていった。
「……行っちゃったデス」
「やっぱりカッコいいね」
ちょっと残念そうにつぶやく二人。
「ちょ、どこが? あの人卒業するまでの四カ月、私に奴隷になれって要求してるんですけど! っていうか、二人はどっちの味方!?」
必死の表情でねねねは二人を問い詰める。
「どっちって……」
「ねぇ?」
頬を赤く染めて視線を合わせるアルトと真菰。
「って、ちょっと! 二人が敵になったら、私の負け確定なんですけど!? ……うぅ、私に人望がないから離れて行くんだね」
ねねねが本気で泣きそうな顔をしていると、
「嘘デス、冗談デスよ。僕たちはずっとねねねサンの味方デスよ」
「ねねねちゃんが鷺ノ宮さんとデイン先輩のことしか見えてなかったみたいだからちょっとイジワルしただけだよ」
いつものお返しとばかりに二人が息を合わせて一芝居打っていた。
「ふ、二人とも……。ごめんよ、浮気して! 一生二人のこと大事にするから!!」
ねねねは目の端に涙をためながら、二人をガバッと抱きしめる。
「きゃっ、ちょっと、ねねねちゃん!」
「ぶ、文系の僕にはマッスルなねねねサンのほうようは苦しいのデス」
苦しそうにあえぐアルトとゲプッと戻しそうになる真菰を「わぁ! ごめん!」と慌てて放すねねね。
(二人のお陰で冷静になれた。まずはあのにっくき・志津デイン先輩を破らないことには先に進めないんだ。そして、志津デイン先輩の上にはただ一人、クイーンオブ魔法少女・星川きらら先輩。きっと答えはそこにある!)
ねねねはそう確信しつつ、対デインとのバトルに集中することにした。
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