13話 志津デイン(2)
「はっ!!」
ねねねが目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった。
「あっ、ねねねちゃん。目が覚めた?」
目の前にアルトの顔があり、アルトは心配そうな瞳でねねねの顔を覗き込んでいた。どうやら目が覚めるまでアルトに膝枕をしてもらっていたようだった。
「あ、あれ? アルトちゃん? バトルは? 痛っ!」
ねねねは体を起こそうしたが、全身に痛みが走り、起き上がることができなかった。
「ダメだよ! バトルフィールドで気を失って、模擬戦が終わっても目が覚めないほどのダメージだったんだよ……?」
無理に体を起こそうとするねねねを、アルトは慌てて押さえる。
「……ごめん。バトルは? どうなったの?」
「うん……」
ねねねの問いかけにアルトは頷いただけで何も言わなかった。しかし、その泣きそうな表情を見て結果を知ることができた。
「そっか。負けたんだ」
魔法模擬戦で壊れた物は直る。怪我さえもまるでなかったかのように治ってしまう。しかし、その時感じた痛みや恐怖は消えない。にあから聞いていた話をねねねはようやく実感することができた。
足元を見るとアルトが着ていた制服のブレザーがかけられていた。
「ブレザー、ありがとう。……心配かけちゃってごめんね」
「ううん。いいよ」
「ここはどこ?」
「映像研の部室の隣の視聴覚室。ねねねちゃん、起きないからここで寝かせてもらってたんだ」
「そっか」
ねねねは静かにため息をついて天井を見上げた。
(無茶なことしちゃったかな……)
相手は上級生でしかも序列二位の魔法少女。転校初日のねねねが挑むにはあまりに高いハードルだった。
「アルトちゃん」
「何?」
「……今日会ったばっかりなのに、面倒見てくれてありがとう」
ねねねがはにかみながらそう感謝した瞬間、ぽたん、とねねねの頬にしずくが落ちてきた。
「ご、ごめんね。私が泣くことないのに、ごめんね!」
ぽた、ぽたっと頬にまたしずくが落ちてきて、アルトは顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
「アルトちゃん、泣かないで。私まで悲しくなってきちゃうよ……」
ダメだと思うと余計に感情がわき出してきて、目から涙が溢れだしてきてしまった。
「う、う、ああぁぁ……!!」
「うぇえぇぇぇ……!」
一度あふれ出した感情は止まらず、二人そろって、声を上げて泣きだしてしまった。
(悔しい……!)
勉強でも、運動でも、魔法でもどんなに劣っていたって、こんなに悔しいと思うことはなかった。だが、劣っているということが理由で理不尽に虐げられ、それに抗うことも出来ない自分の弱さに涙が出た。
「私は、弱い者いじめが嫌いでさ」
鷺ノ宮にあの命を奪ったのは、きっとそれだ。彼女の断片的な話から、ねねねはそう考えていた。
彼女を誰が死に追いやったのか? クラスメート、部活の部員、教師という特定の犯人がいるのか? それともこの環境、学校自体がそうさせたのか?
(にあちゃんは私の憧れだった)
他の誰も持っていない輝くような魔法の才能、好きなことに熱中する天真爛漫さ、天使のような細くて華奢な体、自分にはないそれら全部に惹かれていた。
(好きだったんだよ、にあちゃん)
女同士だったというのは関係なかった。たまたま好きになった相手が女の子なだけだった。
しかし、彼女の死によってその想いは、決して実らないものになってしまった。
一体、誰が鷺ノ宮にあを殺したのか?
(私はそれが知りたい。そして、私の大事な人を奪った報いを受けさせてやりたい!)
それがねねねがこの学校に転校してきた理由だった。犯人じゃないと分かるまでは誰だろうとこのことを話すつもりはなかった。
「……泣いている場合じゃないよね。この学園では序列ランキングとかくだらないものによってそれが優劣を決められる、簡単に弱い者イジメを出来る環境がなんだ」
ねねねは唇を噛みしめて涙をぬぐった。
(にあちゃんを死に追いやった奴を私は絶対に許さない! 序列一位になって、その真実を暴いてみせる。ついでにこの環境も壊してやるんだ! その為なら、努力に努力を重ねて強くなる! それでも駄目なら、友達と一緒に。友達のその友達と、力を合わせて、貫き通してやる!!)
ねねねは痛いほどに唇を噛みしめて、そう強く心に誓った。
「アルトちゃん」
ねねねは手を伸ばしてアルトの頬に触れる。そして流れるその涙を優しく拭った。
「な、何? ねねねちゃん」
「アルトちゃんの力を借りたい。私は序列一位になって、この学園から序列もいじめも無くしたい。力を、貸してくれないかな?」
ねねねは決意を秘めた瞳でアルトを見つめる。
(まだ全部は話せないけど、この言葉は偽らざる私の本心だ)
アルトはその問いかけにコクンと頷いた。
「わ、私も、同じことを思ってた。私に戦う力はないけど、できることでねねねちゃんをサポートするよ」
アルトは力強くそう宣言した。その瞳には強い光が宿っていた。
「ありがとう……。よろしくね!」
ねねねはにっと笑って、痛む体をゆっくりと起こす。
「い、たた……。痛みは残るって本当なんだね」
立っているのも辛かったが、時計を見ると下校時間が近かった。そろそろ帰らないと閉門の時間になってしまう。
「ねねねちゃんは学園寮だったよね? 寮まで一緒に行くよ」
アルトはねねねを支えるように肩を貸した。
「ねねねちゃん。明日、またここに来てくれる? きっと力になれると思うから」
アルトはそう微笑んで、肩を組んで一緒に歩いた。
ねねねの戦いはこうして始まったのだった。
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