33話 隕石魔法の格闘少女

天王台てんのうだいアルト(以下、アルト):こ、こんにちは。私は天王台アルトです。きょ、今日は友達の真菰ちゃんとねねねちゃんの……、ええっと……。


六郷真菰ろくごう まこも (以下、真菰):六郷真菰デス。今日はアルトさんと二人でねねねさんと「隕石召喚」を使う魔法少女・ランキング序列五位 白岡メテオ先輩との魔法模擬戦についてお話していきたいと思うのデス。


アルト:ま、真菰ちゃん慣れてない? 私、緊張しちゃって……。


真菰:アルトさんは力が入り過ぎなのデス。もっとリラックスするのデス。はい、深呼吸してー。


アルト:すーはー、すーはー。……少しは落ち着いてきたかも。じゃ、じゃあ始めていくね。まずは白岡メテオ先輩の魔法模擬戦の動画を見た時のことだね。


真菰:動画を見た後、ねねねさんの顔には「うわぁ、チート!」って心の声が書いてあったデス。


アルト:クスッ、そうだったね。白岡先輩は伝説のドワーフっていう種族の血を引いていて、ずんぐりむっくりの体形にショートカットの髪、胴着姿にスパッツっていうコスチュームを着た「いかにも格闘技が得意」みたいな感じの男の子みたいな印象の魔法少女だったよ。その時見た動画では、対戦した相手の魔法少女が遠距離からの攻撃を得意としていたみたいで、接近戦をしたがる白岡先輩に対して徹底して距離を取って魔法攻撃を繰り返してたんだ。


真菰:デス。そうしたところ白岡先輩が怒ってしまって「お前と戦っててもつまんねぇぞ」と両手を上げて数秒の間に、巨大な魔法陣を空に描き出したのデス。……それは恐ろしい光景だったのデス。学校の校庭ほどもある大きな魔法陣から、空を覆いつくすほどの真っ赤に燃える隕石を召喚したのデス。その光景に相手の魔法少女は驚愕して身動きすら取れなかったのデス。後は隕石が雨のように降り注ぐ地獄絵図デス。そこで勝敗は決したのデス。


アルト:正直、あんな魔法使われたら手も足も出ないよ。


真菰:デス……。だから、ねねねさんが考えたのは「大魔法・隕石召喚を使わせずに勝つ」という作戦だったのデス。


アルト:白岡先輩はバトル好きで、コスチュームも格闘家みたいな恰好の見た目の通り、特に接近戦、殴り合いが大好きっていう考えの持ち主みたい。学園新聞のインタビューでも「隕石召喚を使うと一瞬で勝負が着いてしまうから好きじゃないんだぞー」って言ってたよ。でも、接近戦もすごく強くって、ねねねちゃんも「私も接近戦の方が好きだけど、あれだけ魔法攻撃を受けてピンピンしてるんじゃ、まともに殴り合っても勝てないかな」って言ってた。


真菰:それで最初は一番得意な戦法のホウキを使った空中戦で戦って、ある程度体力を削ったら接近戦に持ち込んで「隕石召喚」を封じる作戦に決めたデス。


アルト:そういえば、真菰ちゃん、今回の魔道具はどんなの作ったの?


真菰:作戦の内容から「ハンマーダンス2」と「スカイドライブ」の両方の機能を付けたものが必要と考えていたのデス。それとねねねさんから「ステッキをグローブみたいにできる? メリケンサック仕込むから!」と相変わらずの斜め上な要望をもらったのデス。ちなみにメリケンサックの正式名称は「ナックルダスター」デス。


アルト:ねねねちゃんらしいね(笑)。格闘戦をやるにあたって攻撃を補助する魔道具が欲しかったんだね。


真菰:アルトさんはねねねさんと白岡先輩対策の練習をやってたんでしたね。どうだったデスか?


アルト:うん。空中戦の方は六香海美先輩の時と同じ、ホウキに乗って私が作る水球を避ける練習だったからあんまり変化なかったけど、問題は格闘技の練習だよ。


真菰:というと、デス?


アルト:私、運動神経がないから、ねねねちゃんのスパーリングの相手をするのはキツくって……。水の魔法でサンドバッグみたいなものを作って、そのバッグの後ろから水鉄砲を打って反撃するみたいな練習をしてたんだけど……。


真菰:だけど……デス?


アルト:ねねねちゃん、物足りなかったみたいで「しっかり持っててね! 行くよ! んああぁぁぁっっ……!!」って凄い勢いでパンチを打ってくるんだよ。水のサンドバッグは殴った程度じゃ破れない強度なのに、ねねねちゃんは何度もパンチで破裂させちゃって……。私、その度に破裂したサンドバックの水でびしょ濡れにされて……。


真菰:(まるでアルトさんをびしょ濡れにするのがモチベーションになっているのデス)……ねねねさん、やっぱりちょっと変なのデス。


アルト:そそそ、そうだよね! びしょぬれになった私を見るのが妙に嬉しそうなんだよ。や、やっぱりちょっとねねねちゃん、そういう変なところあるよね!?


真菰:(アルトさんもまんざら嫌じゃなさそうなのデス……)


アルト:と、ともかくそんな練習を二週間くらい繰り返して、準備万端で白岡先輩に挑みに行ったんだよ。


真菰:二人がイチャイチャ練習している間に、僕は魔道具研の皆さんと魔道具「ナックルステッキ」と「ハンマースカイ」の二つを作ったデス。「ナックルステッキ」はその名の通り、手にはめるグローブのタイプのステッキデス。もはやどこまでをステッキと言って良いのかデスが、魔法少女が手に持つ武器は「ステッキ」と定義されているそうなのデス。手にはめて殴ればハンマーで殴った時のような破壊力が出るデス。「ハンマースカイ」は「ハンマーダンス2」の敵弾察知と全方位障壁の機能、「スカイドライブ」のステルス機能と空気抵抗軽減を備えた優れた逸品デス。


アルト:い、イチャイチャはしてないよ? (というか、途中からねねねちゃん、真菰ちゃんが作ったグローブつけて練習してたよね? 私、そのせいでびしょぬれになってたのかな……?)


真菰:(う……。なんかアルトさんの視線が痛いデス)。その二つを装備して、挑んだデスよね?


アルト:そ、そうなんだよ。「ナックルステッキ」は拳全体を覆うグローブタイプで、「ハンマースカイ」は見た目は「スカイドライブ」とそっくりで、水色のレギンスと長袖が着いたスカートのついたレオタードだね。違うところは黒と緑のスカーフがあるところかな?


真菰:正直、機能がありすぎて集約できなかったのデス。スカーフに「ハンマーダンス2」の機能を入れた形なのデス。


アルト:ねねねちゃんが白岡先輩に魔法模擬戦を申し込んだら「おう! いいぞー!」って快く受けてもらえたんだよね。


真菰:豪快な、とても良い人なのデス。


アルト:ねねねちゃんが魔法模擬戦を申請して、白岡先輩が承認して、バトルスタート。今回のステージは岩場ステージで白岡先輩にかなり有利なステージになったんだよね?


真菰:バトル開始と同時にねねねさんはステッキをホウキに変化させて上空へ飛んだのデス。空を飛んだねねねさんの姿はステルス効果でほぼ見えなくなったのデス。空を探す白岡先輩の背後からホウキの乗ったねねねさんが高速でハンマーステッキを振り抜いたのデス。


アルト:でも、その攻撃に白岡先輩は寸前で気づいて、即座に振り向いてガードしてハンマーを防いだ。わざとジャンプして衝撃を少なくしたのか、白岡先輩はハデに吹っ飛ばされてたんだよ。


真菰:ねねねさんの戦闘のセンスは目を見張るものがあるのデスが、白岡先輩も凄かったのデス。すぐに起き上がって近くにあった岩をつまむとすぐさまねねねサンの消えた空にぶん投げたのデス。


アルト:これは結構危なかったね。その後も白岡先輩は凄い力で自分の身体よりも大きい岩を掴んでは投げ、掴んでは投げ、見えてないはずなのに勘でねねねちゃんの位置を特定してきたんだ。でも、ねねねちゃんも練習してきたホウキの操縦で、岩にぶつかることなくかわして反撃に転じたよ。ヒットアンドアウェーで、ハンマーでの攻撃を繰り返して白岡先輩の体力を削っていったんだけど……。


真菰:白岡先輩が「ちょっとムカついてきたぞー」と魔法・隕石召喚を使い始めたんデス! しかし、その瞬間ねねねさんが矢のように飛んで、ホウキごと白岡先輩に体当たりをして隕石召喚の発動を防いだのデス。吹っ飛ばされた白岡先輩もあまりの速度に驚いたようでした。


アルト:大魔法発動が難しいと考えた白岡先輩は「これならどーだー?」と小さな隕石を呼び出す「プチ隕石召喚」の魔法を使ってきたよ。プチ、と言っても直径一メートル近くある隕石が空から降って来るんだからたまらないよ。空中では避けれたけど、地面に落ちて凄まじい爆発を引き起こして、その衝撃波にねねねちゃんもホウキから落とされそうになってたよ。


真菰:ここでねねねさんは「白岡先輩! この後は格闘技で勝負しませんか!?」と提案したのデス。白岡先輩は待ってましたと言わんばかりに「おー、いいぞー!」と嬉しそうに拳を突き上げたのデス。


アルト:ねねねちゃんは空から降りてきて、ステッキを「ナックルステッキ」に変化させたよ。白岡先輩も拳を構えて正真正銘の殴り合いがスタートしたんだよね。ねねねちゃんは全身に身体強化の魔法をかけて、破壊力向上魔法の付与された「ナックルステッキ」を装備して万全の状態で殴り合いを始めたんだけど……。


真菰:白岡先輩のスタミナ、そして、格闘愛に裏付けされた技は予想以上に手強く、ねねねさんは苦戦を強いられたのデス。


アルト:ねねねちゃんは訓練してきたキックボクシングスタイルで、白岡先輩よりも分のあるリーチを活かしたパンチ、キックで応戦!


真菰:白岡先輩は屈強な体を活かしたタックル、頭突き、締め技!


アルト:テレビの異種格闘技戦を見ている感じだったよね?


真菰:もはや魔法模擬戦ではなかったのデス……。


アルト:そんな状況がしばらく続いて、両者体力的にもはや限界のところまで来ていたんだよ。白岡先輩が息を切らせながら「はぁはぁ、これでとどめにしてやるー! ローリングメテオクラッシュッ!!」と自らを魔法で隕石のように変化させて、ねねねちゃんに突撃してきたんだよ! たぶん硬化魔法と加熱魔法を重ねてかけて、そうなってたんだと思う。


真菰:ねねねサンはとっさの判断でかわすも、一回転して迫ってくる白岡先輩にねねねさんは覚悟を決めるのデス。迫ってくる隕石となった白岡先輩を、ねねねさんは中腰に構え障壁魔法を全開にして受け止めたデス! 受け止めた瞬間、そのあまりの威力に障壁あっという間に砕け散り、受け止めたねねねさんを十数メートルは後ろに下げられたのデス。しかも、白岡先輩の体にかかった加熱魔法はねねねさんの手をグローブの上からジュウジュウと焦がしたのデス。その突撃がいつまで続くいたのか随分長く感じられたのデス。しかし、ついにねねねさんは突撃の威力を相殺しきったのデス。今度はねねねさん必殺の「フル・スイングッ! ダブルスレッジハンマーバージョン!!」がさく裂したのデス。


アルト:ねねねちゃんがそう叫んでたね。要は結んだ両の拳によるフル・スイングだったけど(苦笑)。ナックルステッキのお陰でハンマーで殴った時と同等の威力が出るみたいで、凄い衝撃で白岡先輩を吹っ飛ばしたんだよね。白岡先輩を守っていたコスチュームの、ど、胴着もはじけ飛んで……。


真菰:(アルトさん顔が真っ赤なのデス)。胴着の中に来ていた肌着もスパッツも全部まとめてはじけ飛んで、下着一枚で宙を舞ってたのデス。「黒色のブルマみたいなカボチャパンツとチューブトップ、可愛い……。私もああいうのにしようかな……」とねねねさんはつぶやいていたのデス。


アルト:(なんでねねねちゃんが殴ると脱げるんだろ? ねねねちゃんが女の子の裸が好きだから?)


真菰:こうしてねねねさんが勝利を収めたのデス。


アルト:もうヒヤヒヤだったよね。戦いが終わった後でねねねちゃんは「白岡先輩がなんであんな強力な魔法を早く使わないのか気になってたんだけど、たぶんダメージの蓄積によってしか魔力を作れない体質なんだよ。だって岩投げも格闘も魔法じゃないもんね」って言ってた。


真菰:それに気づいて魔法での体当たりを受け止めたのデスね。体力回復や次の魔法を使われたら負けてしまっていたかもしれないデスから。つくづく、ねねねさんのバトルで余裕の勝利なんて一回もないのデス……。毎回ヒヤヒヤなのデス。


アルト:でも、真菰ちゃんも言ってたけど、白岡先輩は本当に良い人で、バトルの後でねねねちゃんに握手を求めてたね?


真菰:「こんなに面白いバトルは久々だったぞ? また戦ってくれよな?」って笑顔で言ってたデス。


アルト:ねねねちゃんも「喜んで!」って応じてたね。本当に魔法も格闘技も強いとんでもない人だったけど、とても良い人だったね。


真菰:デス。


アルト:こうして、ねねねちゃんは晴れて序列五位になったんだよね。


真菰:まだまだねねねさんの戦いは続くのデス。


アルト:い、以上で私、天王台アルトと……。


真菰:六郷真菰がねねねさんと白岡メテオ先輩との魔法模擬戦についてお伝えしたのデス。


アルト:それでは、また次のお話で!


真菰:さよならなのデス!


轟ねねね:……えっと、あれ? わ、私の出番なし?


ちゃんちゃん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る