17話 作戦会議(1)

 渋谷りもが提供してくれた序列上位者のバトル映像が終わった。

 ねねねは実際戦うことを想定しながら見ていたため、手が汗でびっしょりにしていた。


「ありがとう、りもちゃん。貴重な映像を見せてくれて」


 後ろから映写機を操作していたりもに、ねねねは振り返ってお礼を言った。


「……頼まれたからやっただけだから」


 りもはうつむいたまま、そうつぶやく。


「どうだった、参考になった? ねねねちゃん」

「うん。さすがランキング序列上位者だけあってみんな凄いね。今のままの私じゃ万が一でも勝ち目はないかな」


 アルトにそう聞かれ、ねねねはそう肩を落とす。


「でも、やるんでしょ?」

「うん、やる! 私が一番になってこの学校からこの無意味なヒエラルキーをなくす!」


 ねねねは胸の奥から湧き上がるものを感じながら、力強くうなづいた。


「さすが、ねねねサンデス。僕の方でも彼女たちの属性や性格はある程度理解できたので、弱点の属性武器を作ることが可能でしょう。デスが……」

「それを使いこなせるかは私次第ってことだね。それに、私自身の魔法も覚えなきゃ対応できないだろうし、それに、対戦相手を想定した訓練も必要かな?」


 ねねねがすっかりやる気になっているのを見て、真菰は「さすが、私たちが見込んだ戦闘センスの持ち主デスね」と目を丸くする。


「んー。でも、練習相手かぁ……。誰か心当たりある?」

「僕は元々魔法が苦手で魔道具研に入っていますから、模擬戦はからっきしデスよ?」


 真菰はお手上げデス、と実際に両手を上げる。


「そっか……。今日もらったラブレターの中から戦闘に詳しそうな人を探してみる? もしくは、あの志津デイン先輩に稽古してもらうとか……」


 それは避けたいなぁ、とねねねが悩んでいると、アルトちゃんが緊張した様子で自信なさげに手を上げていた。


「わ、私なら、できるかもしれないよ」

「え? アルトちゃんが?」


 今朝の学校までの走りを見る限り、運動が得意なようには見えない。


「う、うん。どこまで再現できるかはわからないんだけど。とりあえず、バトルステージに移動してもらっても良い?」


 アルトはそう言って生徒手帳を開くと、ねねねに魔法模擬戦の申請をした。

 ねねねは首をかしげながら、生徒手帳の承認ボタンを押す。そのまま一瞬の浮遊感と共に二人はバトルステージへ移転した。


 目を開けるとねねねは山の岩場に立っていた。周辺に大きな岩がゴロゴロ転がっており、標高が高いのか周囲には雲のかかる山々が見えた。


(何度見てもこのバトルステージってすごいなぁ) 


 ある意味これが一番凄い魔法なのではないかと思う。現実のようにリアルなのに、ここで負ったケガは戻れば治ってしまう。コンピューターに頼らない仮想空間とでも言えばいいのか?


「だ、大丈夫? ねねねちゃん」

「あ、ごめん。ちょっとぼんやりしてた」


 目の前には心配そうに見つめるアルトの姿があった。


「と、とりあえず変身するね?」


 アルトは水色の流水をイメージさせるステッキを取り出し、クルクルっと回して見せた。


「スプラッシュ・シャイニー!」


 アルトが変身のキーワードを唱えると、地面から水が噴き出し、アルトの全身を覆い隠した。シルエットだけが水の中から浮かび上がる中、来ていた制服が泡のようにはじけ飛んだかと思うと流水が蛇のようにアルトの体に巻き付き、コスチュームへと姿を変えた。

 噴水が収まると、魔法少女の姿になったアルトが現れた。


「ど、どうかな?」


 アルトは水色のジャケットと白いレオタードのような着衣、水着のパレオを腰に巻いたコスチューム姿になっていた。パレオが短いのが気になるらしく、恥ずかしそうにパレオを引っ張ってレオタードが出ないように隠していた。


「うん! 凄く良いよ! 可愛い! おじさんにモテそう!」

「ど、どういう意味!?」


 アルトは困惑気味に尋ねたが、ねねねはそれには答えなかった。


「それより、名案があるって言ってたけど?」

「う、うん。昨日、志津先輩が使ってた電撃の竜の魔法、あったよね?」

「うん。正直、凄く厄介だった」

「まず、あれを再現してみるね? 水よ!」


 アルトが杖を振ると、その先から水が飛び出して、くるくる回って三つの球体になった。


「水の蛇!」


 近くの岩を標的に定めて、アルトはステッキを振り下ろした。球体だった水の塊が、蛇のように細長く形を変えて岩に目掛けて飛んでいく。

 岩にぶつかった水の蛇は破壊できないまでも深く突き刺さって穴を開けた。そして、一匹は岩の裏に回って突き刺さっており、電撃の竜の追尾性を再現した形となっていた。


「凄い!! アルトちゃんこんな才能があったんだ!」

「え、えへへ。私の魔法属性は水系だから水を操るのは得意なんだ。水属性は汎用性はあるけど威力が弱いから、バトルでは勝てないと思うけど練習相手にはちょうど良いと思うんだ。ほかにも、デイン先輩が使ってたスライサーの魔法ならこんな感じで、水の剣!」


 アルトはステッキの先から水を出し、それは鋭い剣のようにして見せた。アルトがそれを岩に向かって振り下ろすと、硬い岩に鋭い切れ目が走った。


「凄いね、アルトちゃん。こんなことまで出来るんだ。でも、こんなに魔法が使えるならアルトちゃんが戦った方が早いんじゃないかな?」

「そんなことないよ! 私、運動神経がないし、体力もないから魔法模擬戦は苦手なんだよ」

「そうなんだ。アルトちゃんが練習相手になってくれるなら対戦相手を想定した訓練もできそうだね」

「役に立てそうかな?」

「立つ立つ! ……ところでさ、魔法少女のコスチュームってみんなこんな感じなのかな?」


 真菰にもらったコスチューム「ファイヤー・ファイト」もスカートが短く、ねねねは戦っている最中も気になってしょうがなかった。


「うーん。私も恥ずかしいんだけど、魔法少女は魔法少女っぽい方が強くなるって言ってたよ」

「そ、そうなの?? ジャージじゃダメなの? せめてハーパンくらいじゃダメか真菰ちゃんに聞いてみようかな?」

「あはは……」


 一旦アルトとの魔法模擬戦はドローという形で終了し、視聴覚室に戻った。



「駄目デスよ? ハーフパンツなんて」


 視聴覚室に戻るとすぐに真菰にバッサリとダメ出しされた。


「えぇ? なんで、ハーパンがダメなの?」

「可愛くないからデス。アルトさんからも言われたと思いますが、学園の魔法模擬戦では可憐で可愛らしい魔法少女が強いのです。変身をすることやキラキラした魔法を使うのもその為デス。噂では能力に補正が入るらしいデスよ」

「えぇぇ……」

「序列一位の星川きらら先輩が何て呼ばれているか知っていますか? クイーンオブ魔法少女と言われているのですよ。あれだけ強い志津先輩が勝てないのは、序列一位のハンデプラスクイーンオブ魔法少女の補正のせいです。魔法少女の中の魔法少女。それが最強の理由なのデス」


 そう真菰から熱弁を振るわれて、さすがにねねねも反論できなかった。


「うー。じゃあせめて露出は極力少なめでお願いします。フリルも少なめで」

「仕方ないデスね。考慮には入れます」


 とりあえず真菰には納得してもらったので、話を本題に戻す。


「ランキング序列の上位を目指すために、まず誰と戦うべきだと思う?」

「そうデスねぇ……」

「生徒手帳に序列ランキングが載ってるからそこから見てみよう?」


 アルトの提案で、ねねねたちは生徒手帳を開いた。

 序列ランキングのページを見ると、ねねねの名前は一気に百位にまで上がっていた。その下の百一位に昨日魔法模擬戦で破った木更津のどかの名前があった。

 ページの記された魔法模擬戦の内容を確認すると、魔法模擬戦で勝った相手が自分より序列が上だった場合は相手の序列に位置され、負けた場合は現在よりも一つ下に下がるシステムだ。また序列が下の相手に勝った場合でも対戦成績という形で学期ごとの序列には反映される。魔法模擬戦をやったことがない人は学年順、成績順に区分されるとのことだった。

 つまり、成績のみで二百五十一位のアルトが三百六十位の真菰に負けた場合、真菰が二百五十一位になり、アルトは二百五十二位になるということだ。逆にアルトが勝った場合はアルトも真菰も順位は変わらず、最終成績にアルトはプラス、真菰はマイナスに働くということだ。


「いきなり八位の柳生やぎゅうカルマ先輩と戦うのは無謀かな?」

「うーん、どうだろ? 柳生先輩は多分ねねねちゃんと同じような魔法を使う魔法少女だよ。身体強化と刀みたいなステッキにデイン先輩のスライサーみたいな魔法で居合抜きっていうのかな? 侍みたいな、そういうの戦闘スタイルみたい」

「序列百位のねねねサンでは相手にしてもらえない可能性もありマスね。まずは 序列五十位 二年生の屛風ヶ浦びょうぶがうらすずめ先輩をターゲットにしてはどうでしょうか?」


 生徒手帳のランキングを確認する。五十位のところに屛風ヶ浦すずめの名前があった。

 アルトはカバンから自分で作ったという分析ノートを取り出して屛風ヶ浦すずめのデータを確認してくれていた。


「えーと。屛風ヶ浦先輩はテレポート魔法の使い手だって。あ、私と同じタイプかも。テレポートっていう強力な魔法を持ちながら、五十位程度なのは強力な攻撃魔法を持たないからじゃないかって」

「凄いね、アルトちゃん。ランキング序列上位者以外の人のデータも収集してるんだ?」

「えへへ。一応映像研だから……」


 アルトは照れながら髪の毛をくるくると指で遊ぶ。


「屛風ヶ浦先輩の戦うところって動画にないのかな?」

「りもちゃん。屛風ヶ浦先輩のバトル動画って持ってる?」


 アルトは視聴覚室の端で動画を見ていたりもに訪ねたが、りもは静かに首を横に振った。


「残念。さすがにりもちゃんも持ってないみたい」

「そっか。じゃあぶっつけ本番で魔法を確認するしかないってことかぁ。でも、何となく想像すると、岩をテレポートさせて頭上から攻撃をしかけたり、背後に回り込んで攻撃したりってことは考えられるね」

「なるほどデスね。それなら周囲からの魔力感知、または装備者の全体に障壁を張れるような、魔道具があれば有利にバトルを進められそうデス。では、それで魔道具を作ってみますデス」


 その後もねねねたちはどういった訓練や魔法が有効か、日が暮れるまで視聴覚室を借りてワイワイとにぎやか話し合った。

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