16話 勝機を探して(3)
放課後――。
「ふあぁぁぁ……、終わった」
ねねねは体を大きく伸ばして、長い授業からの解放感に身をゆだねた。午後の授業は比較的普通の教科が多かったので何とか理解はできたが、もともと勉強の得意ではないねねねには魔法の授業は本当に難しかった。
教科書をカバンにしまって、帰り支度をしているとアルトが話しかけてきた。
「ねねねちゃん、約束覚えてる?」
「うん。放課後、映像研に来てほしいって言ってたよね?」
「覚えててくれたんだ」
アルトは満面の笑みで喜ぶ。
(笑顔が可愛いなぁ。っていうか、そんなことで喜ばれるなんて、私、ぼんやりキャラに認定されてない?)
色々なことがありすぎて、小さなことを忘れがちになっているのかもしれないと、ねねねは少し反省する。カバンを手に持ち、アルトの後に続いた。
アルトに連れられて、昨日と同じく部活棟に向かう。
一晩で有名になってしまったせいで途中「ねねねちゃん、どこ行くのー?」「うちの部活寄ってかない」と知らない生徒に声をかけられたが「今日は用があるんでー」と断ってアルトの後ろを追った。
「ねねねサン」
廊下を歩いていると、いつの間に現れたのか真菰が隣にいた。
「わっ! 真菰ちゃん、心臓に悪いよ。どうしたの?」
「すいません。ねねねサンのステッキやコスチュームを作るにあたって採寸をさせてほしいと思ったのデスが、どちらかご用で?」
「うん。アルトちゃんが映像研で見せたいものがあるって。そうだ! アルトちゃん真菰ちゃんにも付いて来てもらって良いかな?」
「うん、そうだね。真菰ちゃんにも来てもらった方が良いかも」
「だって? せっかくだから来てくれる?」
「もちろんデス」
真菰も連れ立って、映像研に向かうことにした。
「? ここって視聴覚室?」
「うん。うちの部活で使わせてもらってるんだ」
アルトに案内されて着いたのは昨日バトルで気を失って寝ていた視聴覚室だった。
「入ってー」
アルトに続いてねねねたちも部屋の中に入る。
「あ、他の部員さん?」
薄暗い室内の真ん中に一人たたずむ生徒がいた。昨日、デインに絡まれていた渋谷りもという生徒だ。
腰までの黒髪、その髪が顔を隠すようにかかっていた。鼻の周辺にあるそばかすがあり、おそらく長い髪はそれを隠すためなのだろう。灰色のローブ、その下に学校指定のブラウスとすねまで隠す長いスカートという恰好は彼女の存在自体を隠しているように見えた。
「あ、昨日の……?」
「う、うん。彼女は渋谷りもちゃん。りもちゃん、昨日デイン先輩からかばってくれた轟ねねねちゃんだよ」
「……どうも」
アルトに背中を押されて、りもは自信がなさそうにおずおずとねねねの目の前に立つ。
「初めまして。轟ねねねです」
ねねねは握手を求めて手を伸ばした。
「……初めまして」
そう言ってりもは頭を下げたが、手を握ろうとはしなかった。
「ご、誤解しないでね? りもちゃんは潔癖症なんだ。りもちゃん、こちらは六郷真菰ちゃん。仲良くしてね」
アルトはそうフォローする。真菰も「よろしくデス」と会釈した。
「りもちゃん、昨日話してた動画を二人に見せてくれる?」
「……わかったわ」
無表情にそう言って、りもは隣にある映写室に姿を消してしまった。
「二人とも座って。昨日りもちゃんに頼んで、見せてもらえることになったんだ」
アルトに促されて椅子に座ると、薄暗い部屋が真っ暗になり、目の前のスクリーンに映像が流れ始めた。
それは二人の魔法少女が戦う、魔法模擬戦の映像だった。
「これ、バトル?」
「凄いデス。ランキング序列七位の
濃紺のドレスのようなコスチュームを着た六香海美は相手の魔法少女が放った魔法を華麗にかわすと、指に挟んだ宝石にキスをし、宙に投げた。宙に浮かんだ宝石は割れて、そこから大量の水があふれだし、その場を埋め尽くすような洪水となった。
突然の水のうねりに対戦相手の魔法少女は何もすることができず、洪水に飲み込まれてしまった。水の中をあがき、何とか水面から顔を出すが、あたり一面水で覆い尽くされ海になったフィールドを見て絶望する。
そして、海面に優雅に立つ六香海美に見下ろされ、魔法少女はなすすべもなくギブアップした。
それが終わると、また次のバトル映像が始まった。
「これは、凄いデス! 序列上位者のバトル映像は数が少なくて貴重なのに、それがこんなにもあるなんて」
真菰は自分からフードを取って、食い入るようにその映像に見入った。
「ランキングの上位を目指すため、上位の魔法少女のバトルを見て参考にしたりできると思うんだ」
アルトは得意げに胸を張る。
「その対策に沿って魔道具を作ることも可能デスね!」
真菰はノートとシャープペンを取り出すと、勢いよくガリガリとメモを取り始めた。
(そっか。格上の相手に勝つには相手を良く知ることなんだ。魔力なくて魔法もあんまり使えない私が勝つためには
そう考えて、ねねねも戦うことを想定して映像を見始めた。見ているうちに鼓動が高まり、その高鳴りは止まらなくなっていた。
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