11話 魔導具研究部(3)
ねねねは真菰と別れ、魔道具研究部の部室を出て元来た廊下を歩いた。
「良ければこの対衝撃バリア傘ステッキと耐炎障壁コスチュームを持って行って下さい。友達になった証しデス」
真菰がそう言ってステッキとコスチュームをくれたので、ねねねはそれをありがたく受け取った。
ミモザやのどかがどうやってあんな風に変身していた理由も聞くことができた。購買でも売ってる変身キットという魔導具があり、それを使うと魔法少女のように変身できるのだそうだ。もらった傘ステッキにはその機能が付いているそうなので、コスチュームはその中にセットしておくことにした。
「……いいの? 断っちゃって?」
アルトが惜しそうな顔で覗き込んでくる。
「うーん。チャレンジはしてみたい気持ちはあるんだけど、真菰ちゃんの気持ちに応えられるほどの覚悟もないし。そもそも、私が学園に来た目的とズレてる気がしてて……」
「学園に来た目的?」
「うん。ちょっと、ね」
ねねねはそう言って言葉を濁す。
(アルトちゃんが良い娘っていうのはわかったけど、まだ話すことじゃないかな)
ねねねはわざと明るい声を返す。
「もっと仲良くなったら話すよ。今言って引かれても嫌だし」
「えー? ねねねちゃんの行動を見てて、今更引くことなんてないと思うけど」
「およ? 真面目なアルトちゃんにしては結構な言い方。また一歩仲良くなれたかな? よーし、このまま好感度を上げて、一緒にお風呂に入れるようになるまで頑張るぞ」
「ねねねちゃん、おじさんみたいだよ……」
アルトはそうまんざらでもない顔で返してくる。
ねねねは「本物のおじさんにもモテそう」と思ったが口には出さなかった。
「じゃあ、私は映像研の活動に出るけど、ねねねちゃんはもう帰る?」
「うーん、映像研の活動ってどんなことするの?」
「魔法出てくる映画を見たり、魔法模擬戦を見たり……」
「面白そう! 見学って出来るの?」
「うん。お願いすればできると思うよ。最後に感想文書くけど大丈夫?」
「……が、頑張る」
作文は正直苦手だったが、魔法文化を知る良い機会かもしれない、とねねねは映像研の活動を見学することにした。
「あぐっっ!!」
三階に降りる階段の途中、目の前を灰色のローブの生徒が床に転がって倒れたのが目に入った。
「え?」
「今のって、りもちゃん? えっ? 魔法模擬戦じゃない
アルトは動揺して彼女に駆け寄ろうと階段を駆け下りる。
ねねねもその後を追って階段を下りた。三階に降りると、転がった生徒を見下す魔法少女がいた。青いドレスの上に白銀の鎧を着込んだ金髪ショートカットの聖騎士みたいな恰好の男子、いや魔法少女だった。
「立て! 渋谷りも! 君はこの程度じゃないはずだ!」
「ううう……。何ですか、志津先輩。やめてくださいよ」
志津と呼ばれた凛々しい横顔の魔法少女が、剣のようなデザインのステッキを床に転がる灰色のローブを着た魔法少女に突き付ける。
(今のは魔法だよね! 魔法模擬戦や授業や部活以外で魔法を使うのは校則違反なんじゃなかったの?)
「志津デイン、先輩」
アルトちゃんが震えた声でその魔法少女の名前をつぶやく。志津デイン、ランキング序列二位の先輩だった。
「本当の力を出せ! バトルがお望みならバトルでも構わない! 君は……」
考えるより先にねねねは飛び出していた。
「ねねねちゃん、待って!」
アルトが止める間もない。ねねねは灰色のローブの少女・りもを庇うように志津デインの前に立ちふさがっていた。
「後輩いじめなんて随分カッコ悪いことするじゃないですか? 志津デイン先輩」
「……誰だ、君は?」
デインは明らかに不機嫌そうに剣を引き、奇異な物を見る目でねねねを見た。
「一年の轟ねねねです。今日転校してきました」
「転校? その一年生が俺になんの用だ?」
不機嫌そうな顔ですら凛々しく見えるほど美形だった。ふわふわした金髪にキッと吊り上がった眉と目が男装の麗人のように映る。
ねねねよりも十センチ以上背が高く、目線を合わせると必然的に見下される形となる。それだけで威圧的に感じてしまうが、ねねねはひるまずに続ける。
「なんで後輩をいじめるんですか? それに魔法模擬戦でない戦闘は校内では禁止されてますよね?」
「君には関係ないだろう?」
「同じ一年です。関係ないことありません」
「そういう話じゃない。いいからどけ。俺は、渋谷りもに用があるんだ」
そう言ってデインはねねねを避けて、りもちゃんの方に向かおうとするが、ねねねがその進行方向を塞ぐ。
「……どくんだ」
「どきません。どうしても彼女をいじめるっていうなら、私が相手です」
ねねねは真菰からもらった傘ステッキから変身キットを起動させ、魔法少女へ変身した。傘が開いて、その中で制服が耐炎障壁コスチューム「ファイヤー・ファイト」に変化する。上は銀色のセーラー服、下は青色チェックのミニスカートというコスチュームだ。
「ふん。どうやら本気みたいだね?」
ようやくねねねの方を見たデインをしり目に、変身を終えたねねねは生徒手帳を取り出し、魔法模擬戦のページを開いた。
「ダメ! ねねねちゃん、止めて!」
アルトは必死でねねねに呼びかけたが、ねねねは止まろうとしなかった。
(もしかしたら、この人が私の目的かもしれないんだ!)
ねねねはデインに魔法模擬戦の申請を行った。デインの生徒手帳が胸元から飛び出し、魔法模擬戦の承認ボタンが表示される。
「ふん。轟ねねね、と言ったね。後悔することになるよ」
デインは迷いなく承認のボタンを押した。
その瞬間、宇宙空間への入り口のようなホールが口を開けてねねねとデインをその中に飲み込んだ。
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