49話ラストバトル(2)

 燃え盛る炎が校舎を橙色だいだいいろに染める。

 その校舎の上、悪魔を見下ろすように真っ白な魔法少女が降り立った。


「まだ終わってないよ?」

「誰だ!?」


 バティンの見上げた先の校舎の上に、白いコスチュームの魔法少女が立っていた。明るい茶髪のツインテール、意思の強そうな大きな瞳、純白のドレスに青いプレートアーマーを胸に付け、自分の身体よりも長くて大きいステッキを持った魔法少女、元序列一位・クイーンオブ魔法少女 星川きららだった。

 その脇にはねねねが抱えられている。


「あ、ありがとうございます。星川先輩」


 ねねねはお礼を言って、立ち上がる。

 きららは降り注ぐ火球を障壁魔法でかろうじて防いでいたねねねを、火球をかいくぐって救い出したのだ。


「君の友達のお陰だよ。アルトちゃんと真菰ちゃん。ねねねちゃんを助けてって、危機を知らせてくれたんだ」


 きららはにこやかに笑って答える。


「アルトちゃんと真菰ちゃんが……」

「星川きららだと? んだよ、お前もリベンジ来たってところか?」

「ううん。きららは大事なことを伝えに来ただけ。……新しいランキング序列一位の魔法少女・轟ねねねちゃん。大事なことを伝えるね。ねねねちゃん、なぜこの学校の魔法少女が戦闘訓練を受けているか知ってる?」

「い、いえ……」


 バティンを無視して話を続けるきららにねねねはドギドキしてしまう。


「来るべき災悪、悪魔に対抗するためだよ。そして、そのトップに君臨する序列一位の魔法少女にはある権利が持たされている。それは……」

「何をグダグダ話してやがる! 星川きらら、テメェごと焼き尽くしてやる。インフェルノ・ナパーム!!」


 バティンが両手を掲げると、そこに数十メートルはあろうかという巨大な黒い火の玉を作り出した。黒い火から先ほどの火柱以上の熱が発せられて、見ているだけで目が焼かれてしまいそうだった。


「かはは、地獄の業火だ! 街ごと焼き払ってやるよ!」


 バティンの手が振り下ろされて、黒い火の玉がねねねたちに向けて発射された。


「あれは私に任せて! ねねねちゃん、魔法少女を集めて!」


 きららは黒い火の玉を迎え撃つべく長いステッキを砲台のように構える。


「聖なる星々のきらめきよ! 邪悪なる者を討ち滅ぼせ! ホーリー・スター・イレイサー!!」


 杖の先に幾重にも魔法陣が重なり、真っ白で強い輝きが光線状に放たれる。白い光線は黒い火の玉にぶつかると激しくぶつかり、それを押しとどめる。


(私なんかがやっていいのかな? ううん! 私がやらなきゃいけないんだ! 今の序列一位は私なんだから!)


 ねねねは迷いながらも、校舎の上から叫んだ。


「序列一位、轟ねねねが命ずる! 学園の魔法少女たち、世界の危機となる悪魔を滅ぼす為、ここに集え!!」


 そう声を発した瞬間、屋上、校庭、校舎に無数の魔法陣が浮かび上がる。


「え!? ええぇっ!?」


 その魔法陣に呼び出されたのは、学園の魔法少女たちだった。衝撃魔法の篠崎ミモザ、火炎魔法の木更津のどか、テレポートの屛風ヶ浦びょうぶがうらすずめ、巨大化魔法の鯨波くじらなみ 宇留美うるみ、真剣道の柳生カルマ、笹目雪乃ささめゆきの、水魔法の六香海美ろっこう うみ、風魔法の花崎みりり、隕石魔法の白岡メテオ、石化魔法の経堂美紅きょうどう みあか、ねねねが戦ってきた魔法少女からそうでない魔法少女まで、全生徒三百六十一名のほとんどが魔法少女に変身してそこに集まっていた。


「み、みんな……!!」

「ん、だと? ゴミクズみてぇなのが、うじゃうじゃ集まりやがって……!」


 そこにはアルトと真菰も呼び出されていた。


「アルトちゃん! 真菰ちゃん!」

「待たせたのデス。先生には伝えたのデス。まもなく先生たちも来るのデス」

「お待たせ、ねねねちゃん。……私には戦う力はないから、志津先輩と竜ヶ崎先輩の手当てをするね」

「それと、ねねねサン。新しいステッキなのデス! これでみんなとアイツをやっつけるのデス!」


 アルトは倒れたデインと茜のところへ向かい、真菰はねねねに真っ白なハンマーステッキを手渡した。

 魔法少女たちの視線がねねねに向かう。序列一位の命令を待っているのだ。


「みんなっ! 来てくれてありがとうございますっ! この悪魔を倒す為に力を貸してください! 行きますっ!!」


 ねねねがそう叫ぶと「序列一位じゃなければ命令なんて聞かないんだからね!」「ねねね、一個貸しな! 後でリベンジ付き合えよ」などと声をかけられながら、魔法少女たちが次々とバティンに攻撃をしかけていく。


「ぐっ、がっ、うゼェ、ウゼェ、ウゼェ!!」


 一つ一つは大した威力でなくとも、三百六十一人の魔法少女たちが次々に攻撃魔法を放つのだ。バティンはきららを潰す為に黒の火球魔法に集中していたが、攻撃を仕掛けられ、黒い炎魔法にも氷と水の魔法で威力を弱められていくことに苛立つ。


「そんなに戦いたきゃ、コイツと戦いな! 自在結界発動!!」


 バティンが左手に黒い立方体を作り出す。瞬間、周囲一体が別の空間になったようだった。


「さぁ、現れな! 新たな序列一位の影! ブラック轟ねねねたち!」


 バティンが作り出したのは、真っ黒いねねねだった。それも十や二十ではない。百体の以上のブラックねねねたちは邪悪な笑みを浮かべて凄んでいた。


「うええぇぇぇっ!? 私っ!? 私がいっぱい!」

「かはは、どうだ!? これが自在結界の力だ。序列一位が相手だ、恐ろしいだろう! 震え上がるだろう!? 行け、ブラックねねね!」


 バティンの声で、ブラックねねねたちが魔法少女たちに襲いかかった。


「う、嘘でしょ!? 轟ねねねが相手!?」

「は、早いっ! これじゃ、ねねねと同じじゃない!」


 ブラックねねねたちはハンマーステッキを振り回し、素早い動きで翻弄し、魔法少女たちを次々倒していく。

 苦戦を強いられる魔法少女の中、序列五位・経堂美紅が前に出た。


「……お相手します」


 美紅は典型的な魔女スタイルのローブ姿で、本型のステッキを片手に前に出た。ブラックねねねは凄まじい速度で迫り、一瞬で美紅の目の前に現れた。振りかぶったハンマーステッキが美紅をぶつかる寸前、


「……ゴルゴーン」


 美紅が石化魔法を発動させた。眼帯をめくり、左目から放った石化の光はブラックねねねを完全に捕らえ、一瞬で石に変えてしまう。


「ひぅっ! あがが……」

「……あ、当たった」

「な、なんだとっ!?」


 奇怪な表情で石化させられ、一瞬で戦闘不能に陥るブラックねねね。そして、そのまま消滅してしまった。

 驚いたのは美紅もだったが、バティンはそれ以上に驚愕していた。


「あのねねねちゃん、風呂敷持ってなかったんだ」

「模擬戦ごとに武器を変えるねねねサンをその通りに模倣できるわけないのデス!」


 美紅に続いて白岡メテオと花崎みりりも戦いを挑む。


「負けてられないぞー!」

「匂いさえなければ、貴方なんて!」


 白岡メテオは自身を隕石のように変化させた体当たりでブラックねねねを吹き飛ばし、花崎みりりはかまいたちと竜巻でブラックねねねを切り裂いて消滅させた。


「あ、ははは、私、魔力は少ないし、使える魔法も少ないからなぁ……」


 六香海美と柳生カルマもそれに続く。


「見てなさい! 私だって!」

「情熱のないねねねには負けられないわね!」


 六香海美は小さな宝石で水の牢屋を作ってブラックねねねを閉じ込めて溺れさせ、柳生カルマは二刀流の抜刀術でブラックねねねの首を一瞬で跳ねて見せた。


「……っていうか、みんな必要以上に力入ってない?」

「あんたにやられてもう一度戦う時の作戦を考えてたのよ」


 六香海美はそう言ってにやりと笑う。

 次々にブラックねねねを破っていく上位ランカーの魔法少女たち。しかし、ランキング下位の魔法少女は依然苦戦しており、戦いは拮抗していた。


「やれやれ、おちおち寝てもいられないね」

「……次は負けない」


 アルトや他の治療系魔法が使える魔法少女から手当てを受けて、デインと茜が戦線に復帰し、ねねねの横に立つ。


「ねねねくん、君の魔法は時空を操るものだ! 君なら悪魔を元来た場所へ戻せるはずだ!」

「……援護する。にあの仇を取って」

「はい! その前にお二人に試したい魔法が……。ファストタイム・インフィクト」


 ねねねは自身にだけ使えた時間を早くする魔法をデインと茜にも使ってみた。


「これは、凄いな!」

「周りがゆっくりに見える」

「やった! お二人にも効果が出た!」

「よし! これなら!」

「……やろう! 火龍転身!」


 言うが早い、茜は再びドラゴンに変身し、空に羽ばたいた。


「俺も負けてられないな! 雷神招来!」


 デインも自身に雷を降り注がせると、そのエネルギーをまとって飛び出した。

 あっという間バティンの前にまで行くと、凄まじい火力の火炎と雷の魔法を放つ。


「ちっ、鬱陶しい! だが、無駄だ! お前らの魔法なんざ俺様には屁でもねぇんだよ!」


 バティンはデインと茜の最大魔法をものともせず、攻撃を繰り返す魔法少女たちの魔力も尽き始めていた。


(あれだけの火力でもダメなの? なんで? 魔法に耐性でもあるの? そうか、もしかして……)


 ねねねはひらめいて黒い火球を受け止め続けるきららを見上げた。


「志津先輩、竜ヶ崎先輩っ! ちょっとの間お願いします!」

「ねねねくんっ!?」


 ねねねはそう言うとステッキをホウキに変化させて空へと飛んだ。

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