第28話 水の都の聖騎士団
「な、な、な……何だったんだぁあれ」
「妾たちがわかるわけあるまい。 この辺りに魔物はいないといっていたが、随分とごついものがいるものよな。けがはないかメルティナ」
「び、びっくりしましたけど、大丈夫です」
「そうかそうか、無事で何よりだ」
みんなの無事を確認すると、セラスは安堵したように息をつくとメルティナの隣に腰を下ろしてそっと手を握ってあげる。
大丈夫と言っているが、メルティナの肩はまだ少し震えている。
「どうして、水の都からドラゴンが?」
「俺だって知るかよ。まったく、魔王が討伐されて二百年っつー節目の年に縁起が悪いったらありゃしねえぜ。 悪いが腰抜けちまったからここいらで休憩するぜ」
「あぁ、構わないよ。こっちも少し落ち着く時間が欲しいところだし」
「はぁーあ……焦ったときはこいつが一番だぜ」
悪態をつくようにタクリボーはごろりとその場に横になると、葉巻に火を入れて一服をする。
ぷかぷかとくゆる煙は空に溶けていき、メルティナはセラスにぴったりとくっつきながら、物珍しそうにその煙を目で追いかける。
草原はドラゴンが去った後は静かなもので、ぷかぷかと浮かぶ煙が消えかかり始めたころ。
「……あん? なんだ」
足並みがそろった行進の音。
軍隊特有の一糸乱れぬ行進に僕は再度道の先を見ると。
その先には槍の紋章が描かれた旗を持った兵士の一団がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「……どこかでみたような旗よな」
セラスはうっとうし気にそういうと、そっとメルティナを自らの背中の後ろに隠す。
「……槍の紋章……タクリボー、もしかしてあれってエミリアの」
「なんだ、それぐらいは知ってんのか。 お前さんの言う通りあれは聖女エミリア様が率いた聖騎士団だな……」
「ふん……ヒドラの毒を盛る聖女か、世も末よな」
セラスはむすっとした表情でそっぽを向き、ひそかに魔力を練り上げ。
僕はリアナを隠してフードをかぶる。
「大方、こっちに向かったドラゴンの討伐隊だろうよ、とっくに退治されちまった後だってのにご苦労なこった」
事情を知らないタクリボーはカラカラと笑いながら荷台から飛び降りると、迫る聖騎士団に向かい魔物笛を取り出し二回音を鳴らす。
戦闘は終了、脅威は去ったということを伝えるためだ。
すると、騎士団は旗を降ろす。
これまた軍隊で用いられる敵意が無いことを示す合図であり、僕はひとまず胸をなでおろす。
「兵隊さん……怖い」
メルティナの震える声が、美しいはずの茜空を濁らせた。
騎士団はその後すぐにこちらまでやって来る。
人数は十数人ほどであり、装備も剣や槍といった軽装備だ。
「妙な奴らよ……あの装備、とてもではないがドラゴン退治に来たとは思えぬが」
セラスもその不自然さに疑問を感じたのか首をかしげる。
突然のドラゴンの襲来に、慌ててやってきた……と言われればそういった様子でもなく、まるでドラゴンがすでに退治されていることを知っていたように、悠々と馬を走らせてやって来る彼らの表情はどこかほころんでいるようにも見える。
「……なんか様子が変だね」
敵意も殺意も見られないが、言い知れない不気味さに僕は兵士とタクリボーの会話の様子を探ろうとこっそり様子を見ると。
「……!?」
まるでそこに僕が居ることが分かっていたかのように、兵士全員が僕とセラスのいる荷台の方を向く。
同時に全員が馬を降り、その場に跪く。
「お迎えに上がりました。勇者・ラクレス・ザ・ハーキュリー様 魔王・セラスフィア・ハーディス・クロムウエル様。我ら聖騎士団一同、今は亡き聖女エミリア様に変り、お二人を厚く歓迎いたします」
ちょっとまって……どういうこと?
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