第15話 母性爆発

 ラクレスSIDE


「―――♪ ──♪♪」


 目を覚ますと、そこには鼻歌を歌いながらメルティナの背中をなでる嫁の姿があった。


「……えーと、これは一体どうゆう状況?」


 なぜメルティナがここにいるのかという疑問に僕は困惑をしつつも問いかけると。

 セラスはニコニコと満面の笑みを僕に向ける。 


 どことなく瞳が輝いているように見えるのは気のせいだろうか。


 ただ単に子供好きというだけならばいいのだが……見たところそうでは無さそうだ。


「おぉ、起きたかラクレス……ふふっ驚くのも無理はないな、だがしかしそういうことだ」


「えと……」


 どういうことでしょうか?


「なんだ、察しが悪いな……ややこだ……妾と其方の間にややこが産まれたのだ。 ふふっ其方と妾に似てなんとも可愛らしい姿ではないか」


「産まれたって……」


 メルティナじゃん……。


「驚くのも無理はない。 妾も最初は驚いた……口付けをすると子供ができるというのは知っていたが……よもや勇者と魔王の間では、手をつなぐだけでややこが産まれるとはな……どうするラクレス? 名前は何としようか?」


 しばし思考を巡らせる。


 何かしらの精神魔法がセラスにかけられた可能性や、実はメルティナが僕とセラスが時空魔法のなんやかんやで作った子供である可能性まで一応考慮して、思案をし。


 やがて最も合理的な結論を導き出してため息を漏らす。


「あーセラス、子供の誕生に母性を目覚めさせて張り切っているところ悪いんだけど。手をつなぐだけで子供は生まれないし、その子は僕たちの子供じゃないよ」


「へ? な、なにを言いだすのだラクレス……妾と其方の絆を否定するというのか!?」


 顔を青くしそう慌てるセラス……冗談を言っているわけではないようで、その瞳は涙ぐんでさえいる。


 この様子じゃ旅の途中で子供ができる心配はなくなったみたいだけど……これから大変そうだなぁ……。


「その子はこの村の子でメルティナっていうんだ。 昨日少しだけど顔を合わせただろう? というか仮に手をつないだだけで子供ができるとしても、いくらなんでも早すぎるし大きすぎるでしょうに……」


 僕の言葉に衝撃を受けたようにセラスは口元に手を当てて目を丸くする。


「……た、確かに。コウノトリさんが赤子を運んでくるにはちと早すぎるし、何よりも赤ん坊ではないなこの子は……言われてみれば昨日其方の後ろに隠れていたような」


「冷静になってくれてうれしいよセラス」


 これから苦労をする未来が見えて僕としては少しばかり気が重いが……まぁ時間はたくさんある。

 彼女の貞操教育についてはあとでゆっくり考えよう。


 彼女は賢い。

 二人でいればきっとすぐに真実を知るだろうし……すんなりと受け入れてくれるだろう。


「……でも、やっぱ目元とか似てないかの?」


「気のせいです」


 たぶん。

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