第25話 行商人タクリボー


「たすけてええええぇ!?」


 音の方へ走っていくと、道の先で行商人だろうか、馬車と魔物の群れを発見する。


「あれは……シャドウウルフ?」


 襲われている人は少しぽっちゃりとしたハーフリングの男性は馬車の荷台の上に登って必死に剣を振り回しているが、威嚇にすらなっていないようだ。


 襲っているのは影狼シャドウウルフと呼ばれる低ランクの魔物。

 低ランクとはいえ知識が高く群れるとランクの高い冒険者でさえも手を焼く魔物であり、行商人ではとてもではないが手に負えない相手であろう。


 普段は夜行性で、基本は魔物除けのある道にはめったに表れない魔物なのだが……。


「まぁ、そんな事気にしてる場合じゃないよね!」


 疑問を振り払い僕はリアナを抜き、魔物の群れへと投げつける。


「ぎゃん!?」


 投げつけられたリアナはシャドウウルフの背中に突き刺さり肺を貫き、すぐさま刀身を引き抜くとすぐさま隣の狼へと切りかかる。


「―――!?」


 突然の来訪者に、シャドウウルフの一匹がリアナへと攻撃対象を変更して飛び掛かるが。


「っぎゃんっ!?」


リアナにとびかかった狼の牙をリアナはすらりと回避すると、そのまま狼の首を跳ね飛ばす。


 一匹、二匹。


 歴代勇者の剣術の記憶を保有するリアナにとって、たかだか狼程度はもはや赤子の手をひねるよりも容易く、逃げ出そうが、攻撃を仕掛けようが回避行動をとろうが容赦なくリアナは狼を両断していく。


「お待たせリアナ……って、もう終わっちゃったか」


 僕が到着するころには、すでに十体以上の狼の死体が転がっており。


 逃げ出そうとする最後の狼をリアナは【火炎】の魔法で焼き払うと、自慢げに僕のもとへともどり、鞘に収まりおとなしくなる。

 あとは僕がやれということだろう。


「……た、助かった?」


 茫然とその光景を眺めていた行商人は狐につままれたような表情でそんなことを呟き、信じられないといった表情のまま荷台から降りてこちらに歩いてくる。


「怪我はないですか? 救援の魔物笛を聞いたもので」


「あ、あぁ。おかげさまで助かったぜ。ありがとよあんちゃん。 だけどすげえな、剣がひとりでにびゅんびゅーんって……あれは魔法なのかい?」


「え、あぁまぁそんなところかな、詳しくは教えられないんだけど……ってあいて!?」


 突然の男の質問に僕はしどろもどろに適当なことを言うと、気に障ったのかリアナは僕のわき腹を柄でつついてくる。


「? まぁどんな魔法か説明されてもわからねえから構わねえが、助かったよありがとう。 これからおっきな街でデカい仕事があるってのに、オオカミの餌になっちまうところだった」


 バンバンと荷台を叩いて男は気持ちよく笑う。


「……随分と大きな荷物だけど」


「まぁな、俺は万事屋を営んでてな……おっきな仕事があるときはいっつもこんな大荷物になっちまうのさ。 いつもは冒険者を雇って護衛をつけるんだが、こんな辺境の田舎だからって油断しちまったわけさ」


「万事屋?」


 聞きなれない単語に僕は首をかしげると。。


「おっといけねえ、俺としたことが店の宣伝を忘れるとはな」


 慌てたようにポンと手を打つと男は慌てて荷台のひもを引く。


「なっ!?」


どういう仕掛けか、男がひもを引くと、荷台は音を立てて形を変えていき、屋台のような形になって荷台の中をさらけ出す。


 荷台の中は剣や防具があるかと思えば、食料や魔鉱石、何に使うのか狐のお面なんかが棚に並んだりぶら下がったりせわしなく、僕は万事屋という言葉の意味に納得して思わずうなってしまう。


「ようこそ万事屋へ。俺の名前はタクリボーってんだ。人以外なら何でも取引するが、何か入用なものはあるかい? あんちゃん」


 自慢げに笑い握手を求めてくるタクリボー。


 これが、これから長く続く僕とタクリボーの最初の出会いであった。


           ■

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