第47話


【あああぁ、あ、ああぁ、アイアンメイデン‼︎】


戦いの火蓋が切って落とされたのは、パラスアテナイエを握ったエミリアの、絶叫に近い魔法の行使によってだった。


命令を受諾した口の怪物は、術者ごと僕を飲み込むように口を閉じていき、無数の牙が魔法の名前の通り、アイアンメイデンのごとく僕を貫こうと迫り来る。


「リアナ‼︎ 行くよ‼︎」


いくら勇者の体が丈夫であるとはいえ、これだけ巨大な牙に串刺しにされれば無事では済まない。


そのため僕はリアナに命令をし、勇者の力……番外魔法を起動する。


【ティタノマキア!!】


勇者の力を解放し、僕は雷を放ちながら迫りくる大口を薙ぎ払う。


 魔力にて鍛え上げられていただろう牙は、しかしながらリアナの前では触手の時と同じように砕かれ。

 

 津波のように押し寄せてきたエーテル体の魔力の塊は、リアナの放った魔法により蒸発したかのように霧散し消え去って行く。


だが、これで終わりなはずがなく。


【ああああああああああああぁ‼︎】


勇者の剣により霧散させられた肉塊の死角から、エミリアの槍、パラスアテナイエが僕の心臓をめがけて飛んでくる。


番外魔法を使用して放った大ぶりの一撃。


当然勇者と勇者の剣といえど魔力も無限とはいかない。


膨大な魔力を放ったあと。

大ぶりの一撃を放った後、必ずそこに隙ができる。


もちろん、隙とはいえ僅かなものだ。


今まで、魔王とてその隙を突くことなどできなかった。


だが、エミリアは確実に、正確無比にその隙を注いてきたのである。


「君にかかれば、リヴァイアサンも囮にすぎないか‼︎ エミリア‼︎」


いかなるものも貫く聖槍パラスアテナイエ。


もちろんそれは勇者の体であっても例外ではないだろう。


十三階位に匹敵する槍に込められた魔法は、それを越える神秘でなければ、打ち破ることなどできない。


万全な状態のリアナであれば打ち破ることは可能。

だが、ティタノマキアの使用により一時的に魔力が減衰したリアナでは、パラスアテナイエを越える一撃を放つことはできない。


魔王に比肩する魔物すらも囮に使った、贅沢すぎる一撃。


まさにこれこそ、勇者を越える至高の一撃だっただろう。


【もら、もらったあ‼︎】


勝利を確信するように、エミリアはドロドロに溶けかけた体で微笑む。


だけど。


「……でもごめんね……それでもまだ足りないんだ」


僕はリアナを手放して、自らの拳を握り締める。


僕は魔法を使えない……それ故にティタノマキアも、そしてリアナが使う魔法も全ては勇者の剣に収められた魔力で放たれている。


つまり……勇者は万全の状態なのだ。


試練砕ゴッドハンドき‼︎】


迫るパラスアテナイエの槍に、僕は正面から拳を放つ。


衝突をした拳と槍は双方の神秘を打ち消し合うように反発し……。



その衝撃に耐えきれなかったのか、エミリアの腕が弾け飛び、パラスアテナイえは宙を舞った。


戦術や力は確かにエミリアのものだが、所詮は偽物。


正当な持ち主ではない肉体が、衝撃に耐えられなかったのだ。


【あがあぁ!? な、なにいぃ!?】


 僕は腕を失い悶える偽物に一瞥したあと、落下してきた槍を掴む。


「よっし……回収完了」


 神の槍「パラスアテナイエ」持ったことはないが、ずっしりとした重みと、槍に流れる魔力量がこれが本物であることを告げている。


「ぐ、ぐぞおおおぁ!? 殺す……ころっ……ごろっず! だい゛っ十に゛階位魔法!」


 しかし槍を奪われてなお、エミリアの偽物は戦意を衰えさせる様子はなく。

 練り上げられる魔力に僕は身構えるが。


【第六階位魔法……闇蛇縛り!!】


 巨人の腕から放たれた黒色の蛇が、男を縛り上げ身動きを封じる。


「があああぁ!・はなせ! はな゛ぜ!」


 両手両足体全てをがんじがらめに蛇に縛られた男は叫びながらも身動き一つとることができずに、セラスが作った足場の上でバタバタともがき苦しんでいる。


 僕は上空を見ると、そこには満足げに笑いながらピースサインを僕に向けてくる

最愛の妻の姿があった。


どうやらこの偽物こそ、このリヴァイアサンの核なのだろう。


棺ではなかったが、それを証明するようにリヴァイアサンを形作っていたものは消え、魔力は霧散してゆく。


 魔力を吸って赤く染まった湖も澄んだ桃色へと姿を変え。


 僕はすべてが終わったのだと安堵しセラスにピースサインを返そうと手を伸ばすが。


「!!? セラス! 後ろ!!」


 セラスの背後、さらに上空より……セラスの首をめがけて刃を振り下ろすローブ姿の男が現れ、セラスの首めがけて刀を振り下ろした。

                   ■ 

 

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