第32話 魔法は衰退しました

「……まったく、新婚を捕まえて妾めかけとは。 あぁ! もう二~三発お見舞いしてやればよかったわ」


「いや、それやったら死んじゃうから……ていうか誰も助けなかったけど、死んでないよね?」


「問題ないでしょう。 彼は一応……不死身のキホーテと呼ばれるほど、打たれ強さに定評のある勇者候補の一人です。 明日にはきっと元気に町を歩いていることでしょう」


「……そうなの、ならいいんだけど」


「よくないわ、それを知っていればもっと魔力を込めたものを」


「私、あの人嫌いです」


 セラスとメルティナは頬を膨らませてわかりやすく怒る。


 確かに言われてもしょうがない人ではあったが、それでも散々な言われようだ。


「しかし驚きました……まさか伝説上の魔法、第八階位魔法をこの目で見る日がこようとは、疑っていたわけではございませんが、やはりお二人は二百年前から来られたのですね」


 そんなお怒りムードな我々家族だが、どうにもカタリナたちは先ほどのキホーテに対する怒りよりも、セラスの放った魔法に興奮冷めやらない様子であり、カタリナは子供のように声を上ずらせて瞳を輝かせている。

 

 先ほどの震え上がりそうな低い声は一体何処から出てきたのだろうと疑問に思うほど可愛らしい。


「ふむ、平和は人を退化させるものというが、この世界では本当に魔法は衰退しているのだなぁ……妾のいた二百年前は父上と人間の戦いの真っただ中だったとはいえ、魔導士であればだれでも第八階位魔法はつかえたぞ?」

 

「だ、誰でもですか?」


 驚くカタリナだが、確かに魔王討伐に編成されていた魔導士たちのほとんどは第五階位魔法の習得が必須となっていた。 

 その理由は魔王軍で多く登用されていた魔物・ヘルハウンドドッグが、第四階位魔法以下の魔法を完全に無効化するという特殊な能力を持っていたからという理由だったが。

 そう考えると魔王が居なくなり、二百年前のような大規模な戦争がなくなった今では、高階位の魔法が廃れていくのは自然の流れなのかもしれない。

  まぁ、第八階位が伝説なんかになってしまっているのには何か意図的なものを感じるが……。

  

「あぁ誰でもだ、先ほどのキホーテという男は第五階位魔法が熟練の魔導士でも難しいと言っていたが……あれは本当か?」


「えぇ……第五階位魔法は、魔導士がその人生の全てを注いでようやく一つ使えるようになると言われるレベルでして、木火土金水もっかどごんすいいわゆる五行と言われる属性全ての魔法を操る彼は、剣の腕もさることながら魔導士としても【大英雄】としての実力を備えています……性格は最悪ですが」


「魔導士が人生を注いで第五階位を一つか……なるほどな、あの若さでそれだけできればあれほど傲慢にも育とうな。妾とて五行の魔法はあまり得意ではないからの」


 セラスはふむと納得したような表情をして、頷き、僕は今までのアミルさんとカタリナの話を合わせて普及している魔法の技術にどれぐらいの開きがあるのかを頭の中でまとめてみる。


【現在】

第一階位~第二階位 魔法使いなら扱える。

第三階位~第四怪異 魔法使いでもベテランの人が使える。

第五階位      熟練の魔法使いが人生をかけてようやく一つ使える。

第六階位~第八階位 伝説上の魔法ではあるが、資料から存在は確認されている。

第九階位~第十三階位 神話のおとぎ話レベル



【二百年前】

第一階位~第三階位 一般人なら僕みたいなよっぽど素質の無い人以外使える(リアナも)

第四怪異~第五階位 魔法使いならだれでも使える一般人でも覚えれば使える

第六階位~第八階位 魔導士・魔王との戦いで必要とされる最低限のレベル

第九階位~第十階位 魔導士でも熟練の人間が使える。

第十一階位~第十二階位 最高位の魔法使いが使用できる。

第十三階位     魔王・四将軍ケイロンが使用できる。多分セラスも使える。



 こんなところだろうか。

 ちなみに僕がエルドラドに使用した【ティタノマキア】のように、特定の人間しか使えなかったり、そもそも比較ができないような魔法は番外魔法と呼ばれ、この階位の枠の外の扱いとなる。

 

 僕としては【ティタノマキア】は第十三階位魔法よりも高位の魔法のような気もしているのだが、魔法に詳しくないため思っているだけである。


 さて、そんな事よりもこうして比べてみると、どれだけ魔法が衰退しているのかというのは一目瞭然であり、改めて人前で第七階位や第十二階位魔法をポンポンと放っているセラスはとてもまずいということになる。


 新婚旅行を円満かつ平穏に過ごすためには、目立つ行為は出来るだけ避けた方が良い。

 特にエルドラドを殺害した僕たちはじきにお尋ね者になるのだし、高階位の魔法を使える人間が限られているのなら、自分たちから犯人ですと名乗っているようなものだ。


「これからはあんまり高階位の魔法は使わない方がよさそうだね、セラス」


「むぅ……窮屈だが仕方あるまいか」


 不満そうに渋々了解をするセラス。

 彼女の性格からして誰かにあわせたり何かを隠したりというのは性に合わないようだ。


「まったく、しがない商人にはお前たちの話はぶっ飛びすぎててついていけないぜ。こりゃとんでもないもんに拾われちまったみてえだなぁ」


 そんな会話をしばらく聞いていたタクリボーは、ため息をついてそんな言葉を漏らす。

 

「ごめんね、僕たちのせいで巻き込んじゃって」


「けっ、別に気にするこたねえよ。 どちらにせよ町がこんな状態なんじゃ、仕事もできねえしな。 それならお前たちについていった方が、金の匂いがするってもんさ」


「……そっか」


 タクリボーの言葉に僕ははにかむと。


「お待たせしましたラクレス様、セラス様、タクリボー様。到着をしました」


 カタリナの声が響き、目の前に巨大な白い建物が現れる。

 

「なんと、聖騎士団の本部というからもっと簡素な作りを想像していたが……これではまるで王城ではないか」

 

 感嘆するセラスの言葉。


 しかしその驚きも当然であり、町の中央に位置するその建物は周りの建物よりも二回りも大きく、その装飾は赤い湖に囲まれていながらも城の幻想的な雰囲気を損なわせない。


「ええ、今は聖騎士団本部となっていますが、もともとここは領主エミリア様のための居城にして、リヴァイアサンを封じる要の神殿……その名も、アイロン・メイデンと申します」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る