第31話魔王のお仕置き
「あのーセラスさん? いまのぷちって音なんだけど」
「あぁ、わかっておるよラクレス。あの愚か者は湖に
「わかってないし!? セラス落ち着いて!」
魔力反応からして第十階位相当の魔力を練り上げているセラス。
明らかに町中で放つ魔力量でもないため、僕は慌ててセラスの手を掴んで止めるが、頭に血が上っているのか止まる気配がない。
「止めてくれるなラクレス、身の程というものを刻んでやる。あ奴、あまつさえ其方のことを雑魚と」
「いやいやいや……毒盛られて死にかけたのは事実だから、落ち着いてセラス」
折角メルティナも怖がってるのが収まってきたのに、セラスが本物の血の雨を降らせてしまったら間違いなくトラウマになってしまうことだろう。
「何ごちゃごちゃやってんのさお前たち!」
当然のことながら、こそこそ話す僕たちに気が付いてしまったキホーテ。
虫の居所が悪いのか、聖騎士団を押しのけてずかずかとこちらに向かってくる。
その表情からは大変ご立腹なのが見てとれる。
「あぁ! えと、キホーテさんだっけ? 彼女はそんなあなたにたてつこうとか、批判しようとかそういうわけではなくてですね……」
これから旅を続けていくうえで冒険者ギルドを敵に回すのは賢い選択とは思えない。
それゆえ僕は慌ててセラスとキホーテの間に立って弁明をしようとするが。
「何お前、誰の許可を得て僕の前に立ちふさがってるわけ? そんなだっさい古臭い剣下げちゃってさ。 いかにも駆け出し冒険者って感じ? 女の子の前でかっこつけたいのはわかるけど、身の程をわきまえなよ」
ひどい言われようだが、僕は怒るというよりも悲しくなってくる。
こんな彼が勇者候補としてもてはやされていて、僕は気味悪い怪物として殺されかけたのだと思うと、あまりにも皮肉が過ぎる。
「いや、立ちふさがってるわけではないんだけど」
ただ面倒ごとを避けようとしているだけなのだが、相手は僕の態度にさらに腹を立ててしまったらしく、青筋を浮かべて声をさらに荒げる。
「むかつくんだよねえ、お前みたいな力も才能もないような奴が俺と同じ冒険者を名乗ってるのって。これを見なよ」
そういうと、キホーテは手をかざし呪文を唱える。
【第五階位魔法・大火柱】
手のひらから立ち上る炎は第五階位魔法であり、天高く火柱が舞い上がったのちすぐに消える。
「どうだ!」
「あー……えーと」
驚かそうとしたのか、僕の目の前で魔法を披露する彼に底意地の悪さを感じたが、この程度の魔法ではどれだけ練度が高かろうと髪の毛一つ焦げることさえないので、どう反応したらよいか分からずにただ魔法を見つめている。
正直な話それがなにか? という感想しか浮かばない。
しかし、キホーテはそんな僕の表情をどんなふうに読み取ったのかは分からないが満足げに笑みを浮かべる。
「ははは、驚きすぎて言葉も出ないようだね? これが熟練の魔法使いでさえも習得に生涯をかけると言われている第五階位魔法さ……剣士でありながら僕には人をはるかに超えた魔法の才もあるし、我がドンペルーニョ家は500年以上続く名門の家、生まれも育ちも天から与えられた才能も、君とは質も格も違うのさ!」
「……え、ドンペルーニョ家?」
ドンペルーニョって、たしか魔王軍が攻め込んできたとき、当時の当主であったロマネコンティ・ドンペルーニョが真っ先に領土を差し出して魔王軍に寝返った家だ。
魔王軍から領土を取り返した際は御家取り潰しとされていたが……二百年でまた権力を取り戻したのか。
「ふふん、貧相な顔だけどさすがに我がドンペルーニョ家の威光は知っていたか。だったら今ここで君が僕の道を塞ぐことがどれぐらい罪深いか分かっただろう?」
「はぁ、まぁ」
もはやただの悪口でしかない発言と、ドンペルーニョ家という苦労させられた記憶。
その二つに僕は言葉が出ずに相槌だけを打つと、それを肯定ととったのかキホーテ・ドンペルーニョは満足げにうなずき、セラスへと視線を向ける。
今にもセラスは第十三階位魔法でこの町を焼き払わん表情で魔力を練り上げているし、メルティナもご立腹なのか耳をぴんと立てて眼を鋭く吊り上げている。
しかしキホーテはそんな事気付く様子もなく。
「噛みつく相手を間違えたら火傷をするだけさ……そこの君も、こんな男と一緒じゃ苦労するだろう? よく見たら結構かわいいし俺の十二番目の妾にしてあげるよ」
殺気むき出した魔王に対しそんなことを言い。
それと同時にセラスの方からぷっつんという大きな音が、恐らく少し離れた場所にいるカタリナにまで届くほど町に響き渡る。
「匹夫めが……」
ずしんと空間に響く魔力を帯びた呪詛。
「セラス!? ステイ! ステイ!」
慌てて僕は声をあげ、セラスを食い止めようと手を伸ばすがそれよりも早くセラスは呪文の終えてしまう。
【失せよ、第八階位魔法……
「へ? ぶべばあぁ!?」
大地より召喚された巨人の腕かいな。
突き出された拳はまっすぐにキホーテの顎へと走り。
回避をする間も、何が起こったも理解する間も与えずにアッパーカットを叩き込む。
「あーー……」
ゴツンという何かが割れるような音と同時に、キホーテの口から歯が二~三本宙を舞い、そのまま上空十メートルほどを滑空したのちに、どぼんと音を立てて赤い湖にキホーテは吸い込まれていく。
助けようと思えば助けられる距離ではあったが。
その場にいた誰もが、流されていく彼を助けようとはしなかった。
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