第43話 悪虐到来

「あれが、リヴァイアサン」


 その巨大さに僕は思わず息をのみ、同時にタクリボーはその場にぺたりと座り込む。


「想像よりも何十倍もでけえ……あんなのがこのヴェルネセチラに眠ってたってのかよ……ていうかおい、ラクレス……あの場所って俺たちが泊まってるホテルじゃねえか?」


 タクリボーの言葉に僕は眼を凝らすと、確かに突如現れたリヴァイアサンの視線の先には、僕たちが宿泊をしている宿があった。


 ただの偶然という可能性もあるが、セラスやタクリボーたちと話したように、あのリヴァイアサンを操っているのがキホーテであるならば、リヴァイアサンが狙っているのは間違いなくセラスとメルティナが残っているあの建物であろう。


「ちっ、悪いタクリボー! 君は聖騎士団本部に戻ってて!」


 リアナを手にし、僕は近くの建物の壁を駆けあがる。


 距離にして二キロほど。

 建物の屋根の上を飛んでいけば二十秒ほどで到着するはずだ。


「ちょっ!? おいラクレス! この状況で俺を置いてくのかよ!?」

 

 背後で響くタクリボーの声。

 しかし僕はその叫びを無視し、隣の建物の屋根へと飛び移るのであった。


                   ■


「がああああああああああああああ!」


 咆哮を上げ、建物に食らいつくリヴァイアサン。 

 純粋に巨大な体はただ建物に体をぶつけるだけでも驚異的な破壊力を生み出し。


 同時にセラスとメルティナの居る建物が音を立てて崩れ落ちる。


「セラーーース!!」

 

 あっけなく崩れ落ちた建物に、僕は思わず声を上げるが。


「む、むぅ。 心配してくれるのはうれしいが、そんなに大声で名前を呼ばれると……その、照れる」


 声を上げると同時に背後から聞きなれた声が聞こえ、振り返るとそこにはメルティナをだっこした状態で宙に浮くセラスの姿があった。

 

 なぜメルティナは眼をぎゅっとつぶって耳を両手で塞いでいるのかは分からないが、とりあえず二人ともけがをしている様子はなく、僕はほっと胸をなでおろす。


「無事だったんだね」


 ゆっくりと空から降りてくるセラスに声をかけると、セラスはむすっとした表情を見せる。


「あたりまえであろう。 あの程度の海蛇に後れを取るわけないであろうに」


「それはごめん。 だけど仕方ないじゃないか。 あれだけの巨体だよ?」


「デカけりゃよいというわけでもなかろうに……まぁ、魔力に頼らぬ純粋な膂力というものは確かに脅威ではあるかもしれぬが、転移魔法を持つ妾にとってはまるで無意味よな」


 メルティナを下ろすとセラスは服を手で叩いて埃を払う。

 香水の甘い香りに交じり、すすけた匂いが漂ってくるのが気になったが、今はそれどころではないため頭の隅へと追いやり、再度リヴァイアサンへと視線を向ける。


「まぁ、君に攻撃は届かないかもしれないけど……放っておいたらこの町沈んじゃうよ?」


「別に構わぬだろう……と言いたいところであるが、お人好しなお前様は良しとはせぬのだろう?」


「うん……まぁね」


 リアナを構えて僕はそう言うと呆れたようにセラスはため息を一つ漏らし。


 同時にカツンと建物の屋上をヒールのかかとで打ち鳴らす。


 響き渡る音は、リヴァイアサンの咆哮の中でもはっきりと響き、反響音がそのまま絵になったかのように魔法陣が建物の屋上いっぱいに展開される。


「何、惚れた弱みよ。あれだけの巨体、いかにお前様とて多少は骨が折れるだろうしの、お前様の道は妾の道……初めての共同作業とするとしよう」


 にやりとセラスは笑みを零すと、展開された魔方陣の上で二度手を叩く。


【第十三階位魔法・悪逆到来アンゴルモア

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る