第45話リヴァイアサンの本体

 海蛇の体は拳により破裂するように四方へと飛び、びちゃびちゃと湖をさらに汚していく。


「終わったの?」


 メルティナはその様子にほっとしたように胸をなでおろすが。


「いいや、まだまだ……蛇は再生力だけは確かだからな」


 それと同時にセラスは口元を緩めて半身だけとなったリヴァイアサンを指さして見せる。

 

 上半分を失い破裂したリヴァイアサン。

 しかしながらその体は破裂した部分がブクブクと膨れ上がりはじめ、元の形を取り戻し始める。


「……なっ!? あの状態から再生するの?」


「まぁな、受肉をしているように見えるがあの海蛇の体の九割はエーテル体。魔力で編み出された人造の災厄に過ぎぬ……核を破壊するか乖離させねばこの海を染め上げている魔力を餌に何度でも蘇るぞ?」


「えぇ……リヴァイアサンってそんな魔物なの?」


「よく考えてみよラクレス。 あの巨体がどうやって神殿に、しかも棺の中に納まるというのだ」


「それは……魔法ならなんでもありなんじゃ? 空間圧縮とか……」


「ふふっ、可愛らしい答えであるが外れよな。封印魔法にだって限界がある。

 あれだけの巨体をあのまま封印しようものなら、世界中の魔力をかき集めたとしても4年で破れてしまうだろうよ?」


 彼女の言葉はよくわからなかったが、なんとなく封印魔法というものは僕が思っているよりも便利なものではないということは分かった。


「じゃあ、エミリアはどうやってリヴァイアサンを封印したの?」


「それが答えよ……リヴァイアサンという存在は、封印できるもの……その巨大さに目を引かれるが、本体は棺に収まる程度の矮小な存在ということ。つまりはそれを捕獲あるいは見つけ出して破壊すれば……このリヴァイアサンも動きを止める」


 そこまで話すと、セラスはこちらに視線を向けてにやりと口元を吊り上げる。


「あ、もしかして共同作業って」


「そなたに刃を向けたエミリアという女を助ける義理は妾にはない……だがお前様は助けたいのであろう? ならば、醜い肉塊を妾は蹴散らす故な……勝手に助けて文句の一つでも言ってやるがいい」


 むすっとした様子でそういうセラスは、僕のために魔力でリヴァイアサンまで続く道を作ってくれる。


 きっと彼女の心の中では様々な葛藤があるのは見て取れた。

 だからこそ手を貸してくれる彼女のやさしさに、僕はついついほころんでしまう。


「……ありがとうセラス」

 

 僕はそう最愛の妻に一つ礼を言うと。

 ブクブクと元の形を取り戻しつつあるリヴァイアサンと対峙する。



 頭がもがれたというにも関わらず、リヴァイアサンは僕を認識すると再生しかけの体を突進させてくる。


 だが。


「痴れ者が‼︎ 妾の夫に手を出すな‼︎」


 その巨体が僕に届くよりも早く、セラスの放った巨大な魔法の剣がリヴァイアサンへと突き刺さる。


「─────‼︎‼︎」


 体を貫かれるリヴァイアサンは悲鳴のような雄叫びをあげて町を破壊しながらその場に崩れ落ちるが。


 セラスの攻撃は容赦なく続く。


「爆ぜろ‼︎」


 短い命令……だが、それと同時に突き刺さった剣を中心に、リヴァイアサンの体から巨大な黒い棘の様なものが破裂するように全身を貫く。


「すごっ……」


 魔王ですらこんな強力な魔法は使ってこなかったな……なんて感想を心の中で漏らしながら、セラスの魔法を呆けて僕は見ていると。


「何を呆けておるお前様‼︎ 今が好機よ‼︎」


「あ、う、うん‼︎」


 頭上から響いたセラスの声にお尻を叩かれるように、町に横たわるリヴァイアサンの元へと飛ぶのであった。

                    ■

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る