第53話 不死身のキホーテ
「うん……」
眼下を見おろすと、そこでは未だに暴れる肉塊。
無理矢理に押し込められた聖女の魂。
その強大にして敬虔な魂を収めるにはその器はあまりにも小さく。
ラクレスは哀れむようにリアナを手に取り。
「ちょっと痛いけど、我慢してね」
振るう。
【――!!】
轟音とともに落ちる稲妻。
その力によりうちすえられた肉塊は焼け焦げ、体を蝕む魔力を霧散させていく。
しかし、その一撃により肉塊は滅ぶことなく、リアナの力により焼け焦げた腕が、崩れ落ちた足が強制的に回復させられる。
「ぎゃああああああああああああ!!?」
痛覚は途切れることなく失神すらも許されない。
その地獄は絶えることなく男の体を焼き尽くし、体全て五臓六腑の一つも余さず崩れ落ちてもなお意識を手放すことも死ぬことすらも許されない。
傲慢の対価にしては大き過ぎる代償を払い、キホーテは呪いの全てを失うと同時にようやく意識を手放すことをゆるされた。
「なんだかんだ、死ななんだようだな、あの男」
「そうだね、気持ち良さそうにいびきなんてかいちゃって。あれだけのことがあったのに、何だかんだ大物なのかもね」
あれだけのことがあったにも関わらず幸せそうにいびきをかくキホーテにラクレスはカラカラと笑ってみせるが。
セラスは面白くなさそうな表情を浮かべ。
「面白くないの……どれ、悪魔の一つでも見せてやろうか」
セラスはそう呟いてナイトメアの魔法をキホーテにかけようとするが、流石に不憫に思えたのかそれはラクレスが止める。
「いやいや、流石にそこまで悪いことはしてないから許してあげようよ」
「むぅ……お前様がそういうならば妾は構わんが……」
ラクレスの静止にセラスは唇を尖らせながらも渋々従う。
「そんなことよりも、エミリアの魂だけど」
「何、無理矢理封じられていたものをひっぺがしたのだ。 魂にはあるべきところに戻ろうとする性質がある。 無理矢理押さえつけられていたものを自由にすれば、自動的に帰るべき場所に変えるというものよ」
そういってセラスは空中で二度手を叩く。
特に魔力を込めたわけではないただの柏手はただの合図であり、その合図をキッカケにエミリアの魂は帰るべき場所へと戻っていく。
乖離されたエミリアの魂。
白い光を放つ光球は、ラクレスの周りを二度三度感謝を示すように回ると、吸い込まれるようにエミリアの封じられた棺、アイロンメイデンへと戻っていく。
そして。
「開くぞ」
やがてその鉄の棺はゆっくりと開き……中より1人の少女が姿をあらわした。
「エミリア」
かつて自らを裏切った少女……しかし、そんな少女の名前を優しく呼ぶラクレスに対し。
セラスはそっと胸を抑えた。
◇
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