第22話 戦い終わり……
ラクレスSIDE
「はむはむ……この、ワタアメという奴。愛らしい見た目に反して暴力的な甘さよの、ふふふ、こんなおいしいものが食べ放題とは、妾お祭り気に入ったぞ」
にこにこと笑いながらワタアメをほおばるセラス。
その後村で例年通り祭りを迎えることができ、僕の魔王討伐200年を記念したお祭りはミルドリユニア軍を撤退させた喜びも上乗せされて盛大に行われた。
「お祭り好きー!」
エルドラドの名前を聞いて青ざめていたメルティナの精神状況は少し心配であったものの、セラスと村を回りながら全く同じ格好でワタアメをたべる姿を見るに全く問題はなさそうで僕は安堵する。
「そぉかメルティナも好きか」
「うん! 大好き!」
二人して同じ場所にワタアメをつけてはにかむ姿は何とも微笑ましく、村を歩きながら屋台や出し物に二人で目を丸くする姿を少し離れたところで見守る。
セラスと二人で祭りを回るつもりだったのに、すっかりメルティナに取られてしまい、僕は少しの嫉妬を覚えながらいつも通りリアナと二人で勝利の美酒に酔う。
「ラクレス様」
そんな中、珍しく僕を背後から呼ぶ声が響き、振り返るとそこにはアミルさんがいた。
「……アミルさん、どうしたの?」
「一度ならず二度までも、村を救っていただきましてそのお礼を」
ぺこりと頭を下げるアミルさんであったが、僕は慌てて首を振る。
「そんな、いいんですよ。 セラスも言ってたでしょ? 祭りが始まるまでは、何かが合ったら僕たちの方で対処するって……セラスもあんなに楽しそうだし。それよりも、今度は一人も被害が出なくてよかったですよ」
笑う僕にアミルさんは短く「えぇ」とつぶやくと、楽しそうにセラスと村を回るメルティナに優しい瞳を向ける。
その瞳は本当の母親のようで、血はつながっていなくとも彼女とメルティナがどのように一緒に過ごしてきたかは語らずともその表情だけでわかってしまう。
「ラクレス様……もし聞き届けていただけるならで構わないのですが」
ふと、アミルさんはメルティナを見つめながらそんなことを呟く。
その瞳は何かを決心したような。 そんな表情が見て取れた。
「何? 僕にできることなら、何でも聞くよ?」
「ありがとうございます……迷惑は百も承知ですが……その」
アミルさんは震えている。 その瞳には、恐怖と迷いが見て取れる。
「言って……迷惑だなんて思わないから」
そんなアミルさんの言葉を僕は促すと。彼女は何かを決心したように一度深呼吸をし。
「……妹を……メルティナをどうか、一緒に連れて行ってあげてほしいのです。 できることならば……あなた方の家族として」
アミルさんは泣きそうな表情で肩を震わせるようにそう言った。
「……メルティナを? どうして」
「メルティナは、赤ん坊の時に森に捨てられ泣いているところを私が拾い育ててきました。幼くして両親を亡くした私にとって、あの子はたった一人の家族であり、妹でもあり、娘のような存在です。 あの子もきっと私を姉として慕ってくれているのでしょう……それはとてもうれしい……ですが……それと同時に、私ではあの子の親にはなってあげられない」
「アミルさん」
「あんなにあの子が大人になつくのは初めてなんです。 セラス様とラクレス様に、あの子はきっと親というものを感じているのでしょう」
「そんなことは……」
「あの子のことは私はなんでもわかっているつもりです……本当は、本当は離れ離れになんてなりたくないし、また一人ぼっちになってしまうのはとても寂しいです。 ですが……私と一緒にいるよりも、あなた達と一緒にいた方があの子は幸せになれる。 あの子を育ててきたからこそ、痛いほどそれがわかってしまうんです」
アミルさんは一つ、祭りに似合わない雫をほほに伝わせながら懇願をする。
セラスとメルティナの方を見ると……そこには無邪気に笑いあう二人の姿。
「……………わかりました」
二人の笑顔とアミルさんの涙の願い。
断る理由を僕には見つけることができなかった。
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