第23話新たな新婚旅行へ

「本当に何から何まで、ありがとうございました」


「うむ、世話になったな」


 頭を下げるアミルさんと村人たちに見送られて、僕たちは祭りの次の日に村を出ることにする。


 綺麗な森に静かな生活。 

 僕としてはここでセラスとメルティナの三人で静かに暮らすことも大賛成ではあったが。

 セラスとしては新婚旅行を続けたいとのことであり、僕たちはアミルさんにこの辺りの情報を貰ったのちに早々にたつことにした。


 結局保留にしていた村との取引だが。


この場所を補給拠点の一つとして利用させてもらう代わりに、村の護衛を引き受けるという形で収まり、現在は村の人たちが総出で僕たちの家……もといセラスご待望である木造建築の魔王城が現在建築中である。


なんでもセラスいわく。


【魔王城はいくつあっても良いからの‼︎ まずはここが第一の魔王城じゃ‼︎】


とのことであり、これからも行く先々気に入った場所に魔王城を建てる腹づもりらしい。


まぁ、いずれこの近くを通った時の休憩場所件補給拠点となると考えれば、悪くない考えであったため僕はセラスの提案を採用したのであった。


もちろん、アミルさんも村の人たちもいやがる顔一つせずに僕たちをその取引を受け入れてくれた。



「……しかし、本当に良いのでしょうか? あのようなものをいただいてしまって」


 アミルさんはそう困惑をしたような表情を見せると、心配そうに背後で村の子供たちと遊んでいる巨大なゴーレムを見る。


「構わぬ……交渉とワタアメの対価だと思うがよい」


このゴーレムは、新婚旅行に出かけてしまう僕達の代わりに村を守るようにセラスが作り上げたもの。


【グレータージャイアントゴーレム】第十階位魔法によりつくられたあのゴーレムは、並みなドラゴンなら単騎で撃破ができる性能を持つため、村の護衛としては十分すぎるほどだろう。


 当然家一つと釣り合う代物ではないことは確かだが、それでもかまわないと笑うセラスを見るに、どうやらこの村をいたく気に入ってしまったようだ。


「本当に……ありがとうございます」


 重ねてお礼を言うアミルさんは言うと、その後で不安げにメルティナへと視線を送る。


「……お姉ちゃん」


 僕たちと一緒に旅に出ると聞いたときは、大喜びをして跳ねまわっていたメルティナであったが……いざ旅立ちの時になると、泣きそうな顔で肩を震わせる。

 その表情は奇しくもアミルさんそっくりであり……二人が本当の家族なのだということが伺える。


「ラクレス様とセラス様の言うことをちゃんと聞くのよ。 悪いことしたら……お姉ちゃん、どこにいても駆けつけて…………げんこつするからね……」


「…………うん。行ってきますお姉ちゃん」


 今にも泣き崩れそうなアミルさんではあったが、必死に唇を噛んで耐える。

 メルティナの出発を邪魔しないように……いかないでと叫びたいのを必死に抑えているのが伺えた。


「いこう……メルティナ」


「はい……ラクレス様」


 メルティナの手を引いて僕たちは村を去る。


「「「いってらっしゃいませー。ラクレス様―! セラス様―!」」」


 村の人たちから贈られる感謝の言葉。

 今まで一度も得ることのできなかったその温かい村との絆は、隙間だらけの僕の心を埋めてくれる。


「嬉しそうだな、ラクレス」


「そう?」


「あぁ、口元がほころんでおるぞ。なぁメルティナ?」


「はい、ラクレス様とっても嬉しそう!」


 自分の頬に触れてみると、確かに口元がほころんでおり、胸に潜んでいた寂しさも気が付けばどこを探しても見当たらなくなっている。


「……そっか、居場所ができるってこんな感じなんだね」


「そうだ……そして未来永劫その居場所は奪われることはない」


 メルティナとつないでる手と反対の手をセラスは指をからませて握る。


「セラス……ありがとう」


 全てを与えてくれた彼女に……僕を幸せにしてくれた彼女に贈る言葉はそれしか見つからず。 そんな陳腐な言葉でさえも彼女は嬉しそうに微笑み。


「まだまだ新婚旅行はこれからだぞお前様……共に、いや三人で存分に楽しもうではないか!!」


 そう言ってどこまでも澄み渡る青空にその声を響かせた。



第一章 幕


【次の旅行先……聖女幽閉都市 水の都・ヴェルネセチラ】

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