第40話 勇者は捜査を開始する。魔王は布団で丸くなる

「うぅーーーーー」


 布団にうずくまり出てこないセラス。


「……セラス様はどうしたの? ラクレス様」


「言うなよラクレス! 絶対! 絶対だぞ!」


 あのあと、眠ってぐでんぐでんになってしまったセラス。

 彼女を何とかして室内着に着替えさせた僕は彼女と二人で眠りについたわけなのだが。

 どうやらセラスはあれだけ酔っぱらっていたのに昨日のことはばっちり覚えてしまっていたらしく。

 恥ずかしさのあまりか布団から出てこようとしないのである。


「それは言わないけどさ、いつまでそこで芋虫になっているつもりだい? 今日はキホーテの行方を追うんでしょ?」


「そ、そうであるが、そうであるが! わ、妾は今ねむねむなのだ! キホーテの探索はラクレス! 一人で行くがよい!」


 布団の中から叫ぶセラス。

 そんな様子にメルティナは不安げに「喧嘩?」とリアナに問いかけるが、リアナは左右に揺れてそれを否定する。

 もし彼女に表情というものがあるのなら今頃口がさけそうな勢いでにやけているに違いない。

「やれやれまったく、今日の所は僕一人で行くけれども。 帰ってくるまでには出てこれるようにしてよ?」


「う、うむ! 任せよ!」


「何を任せるのか分からないけど……あんまりメルティナに心配かけさせないようにね。それじゃあメルティナ……セラスをよろしく」


「はい! 行ってらっしゃい、ラクレス様」


 何を任せるのかは分からないが、布団でうずくまるセラスとメルティナを置いて、僕はリアナと共に棺の捜査に乗り出すのであった。


                      ■

 「おんや? 嫁さんはどうしたよお前」


 ホテルの入り口前のカフェでは、先に待っていたのかタクリボーが暇そうに葉巻をふかしており、僕の到着に気が付くとそんな質問をしてきた。


「あー、ちょっとね」


「なんだなんだぁ? 喧嘩でもしたのか?」


「喧嘩はしてないけれど……まぁいろいろね」


「ははぁん、夜の具合がよくなかったんだな? まぁわかる、新婚の夜ってのは苦労するもんさ、俺だって新婚の夜はうまくいかなくて上さんと喧嘩ばっかりで……」


 昔語りをするタクリボー。 正直セラスと僕はそのスタートラインにも立ててないわけで、先の長さに僕は小さくため息を漏らす。


「……タクリボーの夜事情なんて聞きたくもないよ。 勘弁して」


「おっと、俺としたことが上さんのことになるとついつい饒舌になっちまう。許せ許せ!」


 笑いながら葉巻を吸い終えると、携帯灰皿に吸殻を捨てるタクリボー。

 僕は景気よく笑うタクリボーにため息を漏らしながらも、本題に入ることにする。


「君が羨ましいよタクリボー。それで、頼んでいたことは調べてくれた?」


「あぁ、お前さんらがよろしくやってる間にちょちょいと済ませておいたさ。ほらよ」


 そういうと、タクリボーは資料を僕のもとへと投げてよこす。


 それはカタリナたちが捜査資料として提供してくれた、当時の状況を克明に記録したレポートや、現場に落ちていた毛髪や虹色クジャクの羽の現物が挟まっている。


 先日捜査の協力を依頼された僕たちに提供された捜査資料である。


「まさか現物を一日預けてくれるってのは予想外だったが、おかげさまでいろいろなことが分かったぜ」


「どんなことが?」 

 

 僕の問いかけに、タクリボーはふふんと鼻を鳴らすと。


「まず最初に、どう考えてもこの犯行はキホーテに罪を擦りつけようとしてやがる誰かがいるってことだ」


「というと?」


「……犯人像も、動機もわからねぇのに、魔法の痕跡に虹色クジャクの羽っつーキホーテに不利な状況証拠だけは異様に多い。犯罪捜査なんてど素人な俺がきな臭えって思うくらいにはな」


「……やっぱり、タクリボーもそう思うか」


「誰だってそう思うだろこれだけお膳立てされてりゃよ」


「それもそうか」


僕はそう頷くと、隣でタクリボーは困ったような表情を見せて腕組みをする。


「しかし、そうなると厄介な話だな……。SSSランク冒険者で、最優の魔法剣士とも呼ばれているキホーテを超える術者が何か悪だくみを考えているってことなんだからな」


「これまた面倒くさい話になってきたねぇ……これだけ手の込んだことをするってことは、ある程度組織がらみで動いている可能性もあるものね」


「そういうことだ……安請け合いは失敗だったな。勇者さんよ」


「いいや、これは間違いなく僕とセラスじゃなきゃ解決できない問題だ。 ならば依頼を受けたのは正解だと思ってるよ」


「お人好しだねぇ……ま、そのおかげで今俺は生きてるんだが……」


 タクリボーは一つ大きく葉巻を吸って吐き出すと、灰皿に吸殻を押し込んでたちあがる。


いつまでもこうして話していても拉致があかないため、僕は捜査の方針を切り出すことにした。

 

「……まずはキホーテの身柄を確保を優先しよう【真犯人】の手掛かりがない以上、のこりの手掛かりはキホーテの周りにしかなさそうだしね。場所はわかる?」


「……まぁ今はあいつしかいねえから仕方ねえか。 カタリナから聞いた話じゃ、キホーテの野郎は第二歓楽街……まぁ簡単に言うと色街だが、そこの一番でけえ建物のスイートルームで優雅な一日を送ってるだろうってよ」


「うえぇ……セラスとメルティナがこなくて正解だったよ」


「なんだよ初心だな……さてはその調子じゃ嫁さんと接吻の一つもしてねえと見た」


「……(間接)キスぐらいは流石にしたさ」


 からかうタクリボーに、僕はちょっとだけ見栄を張った。

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