第27話 魔王とドラゴン

「どどど、ドラゴンだぁ!? なんだってそんなものがこんなところに!」


「考えるのは後だ! 下がれタクリボー! 焼き払われれば仕事どころではなくなるぞ!」


「ひっひいいいぃ!」


 悲鳴を上げながら僕の後ろに隠れるタクリボー。


 空を飛ぶ敵に対しての戦闘方法はいくつか心得はあるが、単身で戦ってきた僕は誰かを守りながら戦うという経験に乏しい。


 特にドラゴンの口から放たれる吐息は、僕にとってはそよ風程度だろうが、メルティナやタクリボーは簡単に焼け死んでしまう。


 どうしようかと悩みながら、剣を構える僕。


 しかしドラゴンはそんなことはお構いなしにあっという間に僕たちのもとへと現れると。


【—――――!!】


 迷うことなく僕たちを焼き払おうと炎を吐く。


「っ! リアナ!」


 とっさに防護結界を展開してメルティナとタクリボーを守ろうとするが。


「任せろラクレス……火を吐くトカゲの調教は心得ておる故な」


 セラスは僕の隣から前に出ると、指で虚空をなぞり魔法を放つ。


【第六階位魔法・闇渦‼︎】


呪文を唱えると同時に、空間を繰り抜いたかのように表れる黒い穴。


 それは盾のように荷台の前に展開されると、迫り来る炎を防ぐのではなく。


飲み込むように黒い渦の中に取り込んでしまう。


「す、すっげぇ‼︎ ななな、なんだこりゃ‼︎」


炎を防いだことにタクリボーは目を丸くして声を上げるが、セラスはそんなことで驚くなと言わんばかりにため息を漏らすと。


「ほれ、返すぞ」


 指を鳴らし、取り込んだ火炎を龍へと噴出させる。


【ぎゃああああぁ!?】


 跳ね返された炎をいやがるように金切り声を上げながら空に逃げるドラゴン。


「ほぉ、倍にして返したが耐えきるか……気に入ったぞ……妾の下僕にしてやろう」


 セラスは感心するように天高く飛んだドラゴンに対し魔法をさらに放つ。


【第十二階位・深淵隷属】


 ドロリとした魔力がセラスから溢れ出ると、同時に空間が引き裂かれるように割れ。


中から無数の巨大な腕が龍へ向かって伸びる。


【ぎゃああああああぁ‼︎】


身の危険を感じたのか、それとも恐怖を感じたのか。


ドラゴンは悲鳴に近い金切り声をあげると、羽ばたいてその場から逃げ出そうと試みるが。


「逃すわけなかろう、阿呆」


セラスがポンと手を叩くと、空間から伸びる無数の手の塊は、ドラゴンの翼を首を尻尾を掴んでは、深淵へと引きずり込んでいく。


「な、な、なんじゃあありゃぁ!? おっかねえぇ‼︎」


 その光景にタクリボーは今度は恐怖に声を上げるが、その声はドラゴンの悲痛な叫び声によりかき消される。


【がっ!? ぎゃ! ぎゃああぁ!?】


 腕から逃れようと炎を吐き、伸びる手をかみちぎるドラゴンであるが、限りなくひずみから伸びてくる腕に次第にからめとられ……最終的には腕の中に埋没するように闇の中に消えていく。


「沈め……ここに契約は完了した」


 断末魔に近しい龍の叫び声が聞こえなくなると、やがてひずみから伸びた腕は闇の中へと帰っていき……空は何事もなかったかのように快晴へと戻ったのであった。

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