第34話棺の奪還依頼
「リヴァイアサンの封印が解かれただぁ!?」
最初に声を上げたのはタクリボーであり、カタリナは予想していたのか落ち着いた表情で「えぇ」と短く相槌を打つ。
「……随分と余裕じゃねえか。リヴァイアサン言えば魔王にも準ずる力を持つって言われているんだろ? だとしたらこの町なんてあっという間に」
「たわけ……その魔王を倒した勇者がここにいるであろう?」
しかしセラスはそんなタクリボーに対し呆れるように呟く。
「いや、そうだけどよ、相手は四将軍の一人を殺しちまうような相手だぜ? あんたらが強いっていうのはそりゃ知ってるけどよ……だけど本当に伝説上に出てくるような化け物を倒せちまうのか?」
「当然だ……海蛇退治など些事よ些事……問題なのはそれだけの魔物を封じた棺が盗まれたということよな、カタリナよ」
セラスの言葉にカタリナは小さくうなずく。
「その通りですセラス様。 当然リヴァイアサンは脅威ではありましたが……勇者ラクレス様のお力が伝えられている通りであるならばリヴァイアサンとて打倒をして見せるのでしょう。故に問題となるのは、リヴァイアサンを封じた棺を盗み出したものが居るということです」
「……その犯人は予言で言い当てられなんだか?」
「ええ……盗まれるという事実しか未来を読むことができなかったのか、それを伝えることで大きく未来が変わってしまうためにあえて伏せたのか。どちらかはわかりませんが、厳重な警備体制を敷いていたにも関わらず棺は盗み出されてしまいました」
「なるほど、それは困ったのぉ……魔王を封じるほどの棺だ、いつその魔道具が妾やラクレスに向くとも限らん。 魔王に準ずるものを封じることができるならば、いかに妾でも太刀打ちは出来ぬからな」
ふむと考えるような素振りを見せるセラス。
その魔道具は確かに彼女にとってみても初めて脅威たりえる代物だったのだろう。
その力が僕たちに向けられるという確証はないが、それでも棺を盗み出して封印を解くような輩だ……盗み出した魔道具を正しいことに使うとも思えない。
「ええ、そこで騎士団より正式にお願いしたい旨がございます。 一つはお伝え申し上げた通り、復活し町を襲うであろうリヴァイアサンの討伐。そしてもう一つは……棺を盗み出した犯人を見つけだし回収していただきたいのです。できるだけ無事な姿で」
当然と言えば当然の依頼だろうが……その言葉に僕とセラスは顔を見合わせて唸る。
「……ふむ、それはつまり妾たちに対抗できうる手段をみすみす妾たちの手で取り戻せと言っていることを自覚したうえでの発言よな?」
セラスの目には明確な敵意が浮かび、カタリナはその敵意に押されてごくりと冷や汗をかきながら息をのむ。
「もちろんです……ゼラスティリア王国が行った行いも、ミルドリユニア帝国の今の状況も踏まえたうえで、無茶なお願いであることはわかっております。 ですが棺の回収がなった暁には、我々の手で完全に破壊をすることをお約束します。ですのでどうか……」
「解せぬな……無事な姿での回収を依頼しておいて破壊を約束するか。矛盾をしているな」
「いえ……確かに棺は重要なものです。ですが、それを手放してでも我々には取り戻さないといけないものがあるのです」
「取り戻さないといけないもの? それってまさか……」
はっとした僕に、カタリナは一瞬口籠った後。
「えぇ、お察しの通り……リヴァイアサンと共に棺に封じられている、エミリア様のご遺体です」
絞り出すようにそういった。
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