第10話 救われた村
「やぁセラス、無事だった?」
怪我が治った少女メルティナの手を引きながら僕は村まで戻ってくると、そこには村の真ん中で樽に腰を下ろしてあくびをしているセラスがいた。
「全然心配していたようには見えぬが、まぁお前様の予想通りつまらん連中であったよ。ところでラクレス、なんだその子供は?」
どうやら彼らの相手は相当退屈だったようで、セラスは樽から立ち上がると一緒にやって来たメルティナに顔を近づけて首を傾げる。
「え、えと、メルティナ、です」
恥ずかしそうにメルティナは僕の後ろに隠れながらも、律儀に挨拶をする。
「くる途中で襲われてたから助けたんだ。 他の村の人は無事?」
そう僕は問うと、セラスは無言で村の奥を指差す。
視線を動かすとそこには茫然と立ち尽くしてこちらを見ている村人たちの姿があった。
おそらく、状況が飲み込めずに混乱しているのだろう。
皆が皆困惑した表情を浮かべながらこちらを見つめている。
まだ僕たちが敵なのか味方なのか区別をつけあぐねている……そんなところだろう。
「みんな!」
そんな中、メルティナは村人たちを見ると初めて明るい声を上げて駆け出していき。
「メルティナ!!」
村の人々も、少女の声に反応するようにメルティナへと駆け寄り、互いに無事を確かめらように慶の声を上げる。
どうやら彼女のお陰で村の人々の警戒も解けたらしく、僕は心置きなくセラスを連れて村の人のもとまでゆっくり歩いて行く。
すると、一人の背の高い若い女性が前に出て来て深々と頭を下げた。
状況からしてこの村の長なのだろう。
「村を、そしてメルティナを助けていただき、感謝の言葉もございません。 私はこの村の長、アミル・レイザムと申します」
複雑な心境であろう。
感謝の気持ちは当然感じるが、村の人々の心には理不尽に対する悲しみや怒りの感情が滲んでいる。
いや、それだけではなく……僕たち余所者に対する警戒感や不信感が伝わってくる。
セラスの未来視のおかげで被害は少なかったとはいえ、理不尽に大切な人を奪われる悲しみを簡単に割り切れるわけもないし、僕たちみたいな得体の知れない人間を警戒するのは当たり前だろう。
ここは警戒をされないようにいつも通りに……。
「いえ、気にしないでください、当然の……」
「妾たちもこの村に少し用事があった故な、報酬のついでにその用事の話もしたいのだが? どこか話ができるところはあるか? 村長よ」
当然のことですよ。 そう言おうとした僕の言葉を遮り、代わりにセラスはアミルさんにそう告げた。
「報酬……ですか?」
「むろん報酬目的が故の行動だ。 これだけの兵士達を相手に、善意で動くお人好しはおるまい? もちろんこのような事があった後だ、落ち着いてからで構わんがな」
その言葉に村人達は顔を見合わせて、どこか納得をしたように頷きあう。
それは僕が見たことのない、腑に落ちた……という清々しい表情であった。
「また同じことを繰り返すつもりか?」
村の人々が頷きあう中、そう呆れたように言葉を漏らすセラスに。
「お人好しですみません」
僕はそう短く謝罪の言葉を漏らすのであった。
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