第13話 勇者の幸せ

「ちょっ!? セラス!?」


「声が裏返っておるぞラクレス……愛い奴め」


 くすくすと笑うセラスに、僕はからかわれたのだと理解し口をとがらせる。


「あ、あんまりからかわないでくれよセラス! そしてこらリアナ! さりげなくピンク色に光り始めるんじゃありません!! どこで覚えてきたんだそんなこと! 僕だって男なんだぞ……その……そんなこと言われたら、間違いが起こるかもしれないじゃないか!!」


「あぁ……構わぬよラクレス」


「え?」


「妾は其方なら、この身に其方との絆を結んでも構わぬ。それはもう、珠玉のように美しく……強い子が生まれるだろうの」


 迫るセラス……そして同時にリアナはその光景を楽しむようにピンク色の光を強くし、セラスを妖艶に映し出す。


「~~~~~!?!」


 顔が沸騰しそうになる僕は、セラスが絡めてくる手を振り払い、寝返りを打ってセラスとは反対方向を向く。


「も、もう! あんまりからかうんなら、僕はもう寝るからね!」


 確かに、僕とセラスは夫婦になったし……彼女はとても魅力的だ。

 本当であるならば欲望のままに抱きしめたいと強く思う。


 だが……夫婦になったとはいえ彼女のことを僕はまだ何も知らない。


 絆と彼女は言った。


 初めて僕に温もりをくれた人だから……だからこそ絆という言葉の通り、ゆっくりと深めていきたいのだ。


 決してヘタレたわけではない。


「ふっふふふふ……すまぬラクレス……少しばかり悪戯が過ぎたようだ。謝るゆえな、こちらを向いておくれ」


 顔を赤くしてふてくされる僕に、セラスはそっと僕の肩をなでて謝罪をする。

 声が震えているのは笑いをこらえているからだろう。


 ついでに言うと、リアナもセラスの肩を持つようにぐいぐいと体をセラスの方を向くように押してくる。 プルプルと震えているところを見るに、こっちは声がないことをいいように遠慮なく大爆笑をしているようだ。


 初日から嫁と剣に完全に遊ばれている。


 僕は少しばかりの悔しさを胸に抱きながらも、観念してセラスの方に体の向きを戻す。


「もう、次からかったら別の部屋で寝るからね」


「そうか。では本気で願えば聞き届けてくれるのだな?」


「時と場合によります。少なくとも、まだ家も何もないのに子供なんて作るつもりはないからね」


「ふふふっそれもそうよな」


 楽しそうに笑うセラス。


 その表情はとても幸せそうで、僕たちはまたそっと手を絡めて見つめあう。


 馬小屋の窓はうっすらと空いており、満点の星空が顔をのぞかせている。


 風情もムードもない場所ではあるが……そんな星空と、そして彼女がいるだけで満たされていき……。


 リアナは空気を呼んだのかませているのか……白色の光を、次第にオレンジ色の光へと切り替えていく。


 言葉はなく、そこからはしばらく。 絡めた指から伝わる鼓動を感じるのみ。


 それは話す内容が見つからなかったわけではなく。


 ただただ相手の温もりを感じて……そして彼女の吸い込まれそうな瞳を見つめていたかったから、僕は言葉なくセラスを見つめ続けたのだ。


 そしてセラスも同じように僕を見つめている。


 彼女がなぜ黙っているのかは分からないが……もし僕と同じ考えならば。

 それはとてもうれしいことだ……そう思った。


 気まずい静寂ではない、心地よい静けさ。


 時が止まったかのような穏やかで温かい時間。


 しかし、そんな止まった時間を動かすのは、やはり彼女からであった。


「……のぉ、ラクレス」


「なんだい?」


 うっとりとしたような表情で問いかけるセラスに、僕は答えると。


「もう、寂しくはないかの?」


 可愛らしくセラスは微笑みながら問いかける。


「うん……」


 その問いの答えは、考えるよりも先に口が動いた。


 小さく短い返事。


 だけどセラスは弾けるような満面の笑みを見せてくれる。

 それが、さらに僕の心を満たしてくれるのを感じる。


 陳腐な言葉で……表現としても適切かどうかは分からないが。


 きっと、この感覚が幸せ……というものなのだろう。


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