第18話 拷問卿の悪夢

 エルドラドSIDE


 報告を受けたとき、エルドラドは良い女が来たと喜んだ。


 魔導弾圧より百年。第七魔法のような高等魔法を操る猛者は現れたことはなく、何よりもエルドラドに逆らう者すら稀。


 加えて気の強い女だという報告に、エルドラドは詳細を聞くより早く進軍を決定した。


「くくく……第七魔法か、俺たちが魔王討伐をしていたときは当たり前に見る魔法だったが、今となっては失われた魔法だ」


 楽し気に笑うエルドラドに、不安げに副官ゴルマンは恐る恐る尋ねる。


「ご注意くだされエルドラド様。 あの女は鎧を着た兵士をも軽々と蹴飛ばし宙を舞わせる魔性でございます」


「知ってるよ。大方身体能力強化だろう? 第七魔法を使えるならば何も珍しくはねぇ。まさかとは思うがお前、俺が負けるとか心配してんのか?」


 不機嫌そうに鼻を鳴らし、ゴルマンをねめつけるエルドラド。

 その眼光はタカよりも鋭く、ゴルマンは震え上がり首を左右に振る。


「い、いえ、滅相もございませぬ!? 誰が魔王討伐をなした貴方様のお力を疑いましょうか……それに相手が魔法使いであるならば、その大楯がある限り敗北はあり得ません……ありえませんが、聖女様の残した勇者誕生の予言も日が近づいておりますし、万が一ということも……」


「エミリアか。あんな頭のいかれちまった女の話なんざ、まともに信じてるのは勇者に怯えてるうちの王以外いやしないだろうが。勇者が死んですぐに勇者の剣【リアナ】は王によって処分されちまったってのに。勇者になるための剣がねえのにどうやって勇者が生まれるっていうんだよ」


「ご、ごもっとも」


「だろ? だから余計な気を回さなくたっていいんだよ。 お前はその女にどうやって腰を振らせるのかを考えてりゃいいさ。この前お前が調教したエルフ族の奴隷は最高だったからな、またいい仕事を期待してるぜ」


「ははっ……お褒めにあずかり恐悦至極……」


 頭を垂れるゴルマンに、エルドラドは楽し気に笑う。


「楽しみだぜぇ、歯向かってくる女なんてのはもう百年以上は犯してねぇからなぁ」


「しかし大丈夫でしょうか。 相手はかなり凶暴で……」


「だからいいんだよ、俺はそういう気の強い女を嬲り犯して従順にするのが大好きなんだよ、最近は自分でやるとどんな女も三日以内に死んじまうからお前に代わりにやらせてたが、お前の話を聞く限りその女は俺がやっても問題なさそうだ」


「さ、さようでございますか」


 ゴルマンは震えながらエルドラドの異名を思い出す。


【拷問卿】


 人の悲鳴を聞き、壊れる過程を楽しむ彼は四将軍の中でも最も残虐と称され、唯一その光景を見たことのあるゴルマンは仲間を殺した相手ではあるものの、ダークエルフ族の村に現れた少女に同情する。


 なぜなら仲間は人の形を残して死ねなかったかもしれないが、きっとあの少女は人としては死ねないだろうと察したからだ


 そんなやり取りをしていると。


「報告申し上げます! 前方に人影が二つ、いかがいたしますか!」


 前方にいた部隊長から伝令が入る。


「二人でお出ましとは随分と余裕だな……」


「えぇ申し上げた通り、己に絶対の自信があるようで」


 エルドラドはゴルマンの言葉に喜びながら、はやる気持ちを抑えきれずに魔道具・遠見の眼鏡を用いて品定めを開始する。


 戦いではなくもはや彼の中には少女をどのようにいたぶろうかという考えしか残っていない。


 だが。



 そんな嗜虐心は、目に移った現実により彼方へと消えうせる。


「バカな……なぜあいつが」


 ありえないものを見たように遠見の眼鏡を取り落とすエルドラド。


「い、いかがいたしました!?」


突然のエルドラドの変化にゴルマンは戸惑い声をかけるが、エルドラドはそれどころではないといった様子で呼吸を荒くする。


 額からは脂汗がにじみ出て、瞳は充血。


 だが慌てるのは無理もない。

 なぜなら目の前には……200年前に殺した勇者が立ちはだかっているからだ。


「う、うああぁ……うああああああああああああああああああああああ‼︎」


だからこそ、エルドラドの精神はその時壊れた。


恐怖に、焦りに、子供のように悲鳴をあげて全身が震える。



「い、いかがいかたしましたエルドラド様‼︎」


先ほどまでの態度とは打って変わった様子の慌てようにゴルマンは狼狽しながらエルドラドに声をかけるが、しかしそんな言葉は彼に届くはずもなく。


「殺せ!! あの二人を! いや、あの男を、ラクレス・ザ・ハーキュリーを殺せ!! 殺してくれえぇ!!」


 亡霊を、悪夢をかき消すようにエルドラドは叫び、兵士たちはその言葉に呼応するようにたった二人に対し全軍での攻撃を開始した。

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