第47話 人には歴史があるようだ…じいちゃんには恥ずかしい歴史しかないが…。

 柴崎家 囲炉裏の間


 俺は今、人生で二度目の生命の危機に瀕していた。

 

鷲尾 太蔵「ふん、何も変わっとりゃせんな! この場所は。」


 我らが鷲尾 代表の御尊父殿で、我が社の会長であらせられる鷲尾 太蔵様( 西郷 隆盛オルタ )が何故か今、俺の前にどっかりと座っている。

 何故に貴方か俺の家に? それに鷲尾 美幸代表と10人以上の従業員引き連れて…、そろそろ下げっぱなしの俺の頭と腰が痛くなって来たのですが…スミマセン、怖くて上げられないです。


鷲尾 美幸「あのね柴崎君、貴方の家系を調べていたら御爺様との関係が見つかったのよ。

 話しを聞いたら御爺様はこの周辺の土地の方々に顔が利って話しだから、今回一緒に来て頂いたのよ。」


 鷲尾 代表も少し困り顔で説明してくれた、会長はじいちゃんの事を知っていたのでもしや…と思っていたが、本当に関係者だったとは…。


鷲尾 太蔵「ふん! お前が住んどるこの家も儂らがおっ建てたもんだ! あんの鐘一郎の阿呆ときたら…夫婦の寝室は天井も壁も紫色にしろだの、回転ベッド付けろだの、ミラー ボールつけろだの…風呂にはマジック ミラーで覗き窓付けろだの…何考えとんじゃ! 姫が居なかったら肥溜めに頭っから突っ込んでやる所だったわ!」


 風呂にマジック ミラーって…じいちゃん…本当にあなたは自由な人だったのですね、ばあちゃんに天国で張り倒されて下さい。

 ところで、その[ 姫 ]ってもしかして?


鷲尾 太蔵「旧姓、神尾 みちる。

 儂ら分家の者にとって、あの人は正しく姫じゃったわ! まったく、今思い返しても何故あの阿呆の所なんぞに輿入れしたのか…当時はそれで…まあ良い! 今はもう全て墓の中だ!」


 人に歴史あり、と言うが…じいちゃん、貴方には恥ずかしい歴史しかないのですか? 孫としてとても恥ずかしいのですけれど。


鷲尾 太蔵「ふん! 何でも国の連中が調べに来るそうじゃな、この辺りの者だったら他の者より儂が行って口利きいた方が早いじゃろ。」


 鷲尾 太蔵 会長は言いたい事言い終わると、お供を引き連れてスタスタと外へ行ってしまった。


鷲尾 美幸「私も会長と一緒に民家に挨拶回りに行くから、今回はダンジョンには入る時間は無いわね。

 それじゃね柴崎君、又連絡するわ。」

 

 鷲尾 代表も行ってしまった、もしかして流れ的に会長( 西郷 隆盛オルタ )もダンジョン デビューして無双する話しかと思ったら、本当にビジネスの話して終わってしまった。

 何か今日は拍子抜けして、逆に気疲れしたなぁ…今日はこのまま休みにするか。


 翌日 柴咲家 玄関


末次「初めまして、私(株)ボーク テックス社の営業部所属の末次 吉成と申します。

 本日はお時間を取っていただき真に有難う御座います、柴崎様の諸事情は加藤様よりお聞きいたしましたので、ここで観た事聴いた事は他では一切口蓋いたしません。」


 カトやんと一緒に来た人物は高身長で少し癖のある黒髪、いかにも仕事が出来そうな爽やか係イケメンが営業スマイルを決めつつ、ライト グレーのビジネス スーツから流れる仕草で挨拶と名刺を渡して来た。

 俺より少し若そうだな…と、思いつつ俺もビジネス社畜マンとなって名刺交換の義を行なおう。


末次「まず、本社からの総意を伝えてさせて戴きます。

 動画の放送については、"もっとジャン ジャンやってくれ!" との事です。」


 末次さんは爽やかな笑顔で言い放った。

 話の内容は理解したが、随分とザックリだな、でも映像削除要求とか著作権の無断使用による賠償請求とか言われるより良いかな?


末次「加藤様よりお聞きかと思いますが、3次生産分の注文数が予測より大幅に伸びまして、調べた所加藤様の見事な映像が理由のようです。

 これは一度ご挨拶をしなければと思い、手土産にこちらを持参いたしました、宜しければお納め下さい。」


 末次さんは車から大きめの段ボール箱2つを持って来て玄関の中で組み立て始めた。

 それはショップなどに商品の宣伝に使う[ 販促物 ]と呼ばれる優樹達のディスプレイ用 スタンド ベースと優樹達が華麗に戦っている姿を描いたバック ボードだった。

 むっ! さてはここに優樹達を立たせて映像を流し[ 異世界幻想伝 フレイリアーナ ]を宣伝させる魂胆か? 出来る営業マンはやる事も一味違うな。

 良し! その話し乗ろうではないですか、スリーブ モードにして飾っていた優樹達を起動させる。


俺「お〜い、皆こっちに来てここに立ってポーズを決めてくれ、これからここがお前達の定位置になるからな! カトやん撮影ヨロシク。」


優樹「はーい! ここに立てば良いんだね将吾君。

 あれ? ボク達が描いてあるよ?」


クラリッサ「ふむ、何故かここは居心地が良いな。」


フォン「ワッフ! ワッフ! ここ好き。」


 3人は舞台に飛び乗って真ん中に優樹が両手で聖剣を持ち、右にクラリッサが優雅に、左にフォンが楽しそうに立った。

 素晴らしい! 立つべき所にそれぞれが収まって、俺とカトやんの目にはそこが優樹達のイベント会場に映った。


末次「まあ素敵っ! 凄いわ! 皆とっても綺麗よ!」


 凄いわ? 綺麗よ? 末次さん…何か今までの出来る営業マンとは違う空気がヒシヒシと感じられるのですが? 

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