第9話 魔力切れだと? ならば「エクスプロージョ……」
ゆっくり、ゆっくり、[ 天川 優樹 ]の中に、血が通う様に魔力が巡って行くのが分かる。
そして俺と[ 優樹 ]の間に何かの関係が産まれようとしていた。
俺は、魔導書[ 祖は左の手に ]をぎゅっと握りしめ、その関係が楽しい事や、幸せな未来になるように心から願った。
巡る魔力が身体に少しづつ融合して、[ 美少女フィギュア ]から、俺の嫁……[ 相棒 ]に変化していくのをハッキリ感じる。
俺「なんかオラ、ワクワクすっぞ!」
とりあえずそんな事を言いつつ、ただひたすら相棒を見つめ続けた。
どのくらい見つめていただろう、今にも動きそうに見えるが、剣を持ったポーズのまま全然動こうとしない。
俺「まだ、何か足りないのかな?」
???「この人形は今、確かにお主の下僕とあいなった。
今はお主の命令をただ静かに待っておる、まずは一つその心のままに命じてみるが良いぞ。」
そうか? それは最初の命令って事になるのか? だったら何が良い? 最初にふさわしい命令とは何だべ(茨城弁)?
最初の一言に悩んでいると、ふと俺は何か忘れているような気がした。
とりあえず周りを見てみる。
プラモデル、ゲーム、美少女フィギュア、パソコン、ディスプレイ、デジカメ……デジカメ!
俺「そうだ! この最初の瞬間の記録をせねば!」
この最高の瞬間を記録に残さねば、俺は一生後悔するかもしれない。
いや絶対後悔する。
デジカメを持ち出し残メモリーが残っているのをチェック、三脚に固定し[ 優樹 ]にレンズを向け録画を開始。
魔導書を持ち直し、気持ちを落ち着け[ 優樹 ]を正面に見据え右の手のひらを向けた。
一度目を閉じ大きく息を吸い込みゆっくり吐く、そして目を開き心に湧き上った言葉を口にした。
俺「それじゃ優樹、ゆっくりでい良いから動いてみてくれ。」
息を潜め静かに待つ。
かざした右手からではなく、左手にある魔導書[ 祖は左の手に ]から[ 優樹 ]に魔力が伝わるの分かった。
そして俺の相棒は動き出した、俺の感動と共に!
[ 優樹 ] は、ゆっくり顎が動き、首が傾き、肩が揺れ、腰が左右に傾いた。
動きは多少カクカクしているが、動いているだけで俺には感動だ! 大感動だ!!
叫びたい気持ちをグッとこらえ、さらに命令していく。
俺「それでは前へ、ゆっくり歩いてみようか?」
いよいよ動き出すのか? 身長38センチの優樹にとっては小さな一歩だが、俺達にとっては大きな大きな一歩だ。
優樹は右足を踏み出そうとして……
バタッ!
あれ? そのまま前に倒れた。
[ 優樹 ]は、前に倒れたまま芋虫の様にウゴウゴ カクカク身体を動かしていた、全然美しくない。
俺「どうしたぁー! 優樹ィーー!」
思わず魔導書[ 祖は左の手に ]を放り出し、慌てて側に駆け寄ると[ 優樹 ]はピタリと倒れたまま動かなくなった。
???「その下僕は魔導書を通してお主の魔力の供給を受けておる。
魔導書はお主の身体の一部ではあるが、今お主は魔導書を手放した行為をした、そのため魔力は止まってしまったのだ。
そして、その下僕は生まれて間もない赤子のようなものである。
何が腕で頭であるのか何もわからんよ。」
[ 優樹 ]をゆっくり持ち上げ、また倒れた時に壊れないようにベッドの上に座らせた。
そして、魔導書[ 祖は左の手に ]の上に浮いているたまご男爵に向き直って言い放った。
俺「おい! 腐った卵呼ばわりされたく無かったら、これからは優樹を下僕呼ばわりするな!」
???「ぬ? それは我に対する最初の命令であるな了解である。
さすればこれからの呼び方は娘子(むすめご)でいかがかな?」
俺「まあ…、その呼び名だったらまあ良いか…。」
???「ついでと言っては何ではあるが、我にも呼名を授けて戴きたい。
さすがに腐った卵では締りが悪いのでな。」
う〜ん確かにいい加減、この卵男爵にも名前を付けなければ色々不便な気がしてきたな。
名前…卵男爵…卵…男爵…エッグ…バロン…バロン…
俺「お前の名はバロンでどうだ?」
バロン「我の名はバロンであるか、その名を上げるも下げるもこれからの働きしだいであるな。
このバロン終生の忠誠を我が主に誓おうではないか!」
俺「ああ、まあよろしく。」
何となく調子が狂った感じだが、まず今は[ 優樹 ]を気にかけたい。
魔導書[ 祖は左の手に ]を持ち直し、ベッドに近づき向かい合う。
そして右手で自分の首を指す。
俺「ここが首、ではまずゆっくり回してみてくれ。」
魔力が魔導書から流れ再び繋がった感じかした。
自分がが首を回すと[ 優樹 ]も首をクルクル回しだした。
う〜んカワイイ仕草だ。
ほんの少しだけ動くポニー テールもグッドである。
自分のゴーレムとして動き出した[ 優樹 ]を見て、あらためて胸の中に感動が蘇ってくる。
次に右腕を動かしながら次の指示を出して見る。
俺「じゃあ次は右腕だ、クルツと回して見ようか?」
[ 優樹 ]は、俺の動きと同じように右腕、そして右肩をクリクリ動かしている。
うん、凄いぞ優樹カワイイぞ優樹!
左腕も動かして、ガードのポーズをしたり、両手で[ 聖剣 トライフィード ]を持たせたり、動けば動くほど関節がスムーズに稼働していくのが解る。
今度は、アニメを見せながら動きを真似させるのも良いかもしれない。
俺「よし! そのまま必殺技フェニックス シュートだ!」
一度、右腕を引き前に強く突き出す、それだけだが俺には必殺技が決まった姿がハッキリと見えた。
さて、次はいよいよ立たせて……
バタッ!
急に視界が横になり、頭の右側が何かにぶつかった。
何だ? 俺は倒れたのか? 貧血か? 身体が重い? サンドイッチはさっき食べたよなァ?
バロン「いかん! 魔力切れじゃ我が主、ダンジョン内では魔力は少しずつ供給されるが、ここではそうはいかん。
まずは今しばらく休息を取られよ。」
なにぃ!? 俺は今魔力切れで倒れただとぅ…? ならば、今の俺ならば! あの至高の呪文を唱えられるのではないのか?
今なら言える、今しか言えない、最後の力を振り絞り、思いの全てをその言葉に込めて!
俺「エクスプロージョ……」
優樹が俺を見つめている。
最後まで唱える事ができなかったが、薄れゆく意識のなか、優樹の瞳には最高に満足した俺の顔が写っている事だろう。
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