第33話 ヒール ポーションは荒れた胃に優しい。

太蔵「お前が将一郎の孫か…。」


 我らが鷲尾代表の御尊父殿[ 鷲尾 太蔵 ]で鷲尾財閥の会長は、それこそ腹の奥底から響く低い声で俺のスットコドッコイ御尊父の名前を出した。

 じいちゃん貴方は何をしたとですか? 何でこの目の前に居られる闇落ちした西郷隆盛(西郷隆盛オルタ)とお知り合いなのですか?

 しかも、かなり悪い方にヘイト稼いでますよね? じいちゃんの稼いたカルマを孫に押し付けないでいたたきたい。

 今一瞬睨まれた! ごめんなさい、ごめんなさい、どうか命ばかりはお助けを…。


太蔵「美幸が初めて家に男連れてきたと思えば、よりによって将一郎の孫とわのぉ。

 しかも何をほざくかと思えば仕事の話し…か、もし結婚のけの字でも出そう物なら頭っから池に放り込んでやろうと思っとった所じゃが…。」

 

 ひぇぇー! 池に放り込むって?

そんな必殺技、田原坂バスターなんて技喰らったら腰痛めるわ。

 本日は仕事の話しです! 結婚とか入婿なんて話しは全く、全然ありません。

 俺はモブです、御宅のお嬢様に釣り合うような実力も胆力もスキルも御座いません。

 嗚呼、ずっと土下座しっぱなしで腰痛い、肩もこったし何より胃が痛い。

 目の前には優樹が俺を守るため聖剣を構え、西郷隆盛オルタの前に立ち塞がって居る。

 本当に有難とうな優樹、今のお前は強敵に臆する事無く立ち向かおうとする純白の勇者そのものだ!

 でも鷲尾家のラスボスにはどうやっても勝てそうに無いから、戦闘になったら逃げるぞ!

 逃走と書いて戦術的撤退と読むのだ、戦場において卑怯は褒め言葉だと昔の将軍は言っていたような気がする。

 だから逃げても良いのだ! 俺達は全力で逃げるぞ!


美幸「お祖父様、何時までも遊んでないで、そろそろ仕事の話しに移りたいのですが…。」

 

 え? 鷲尾家ではこれが遊びなの? 俺はこんなにも自分の命の心配をしているのに? こんなにも胃がキリキリしてるのに?


太蔵「美幸、お前はもう独り立ちした鷲尾家の志士じゃ。

 心の赴くままに事を成せば良い。

 ……それに、将一郎からもタイムカプセル便が来ていたからのぉ…。

 まったく、くたばった後でも厄介事を持ち込む奴だなあいつは…。」


 その後の事は、正直よく覚えていない。

 取り敢えずダンジョンを説明して、その後の事は胃痛でよくわからなかった。

 今、ダンジョンを理由に車で送ってもらっている。


俺「…あの修羅の一族は一体なんだったんだ? はぁ…とにかく胃が痛い、何か薬は無いかな?」


 ポケットの中にちょうど胃薬が入っている…訳がない。

 何か薬になりそうな物は…ドラッグ…タブレット…ポーション…ヒール ポーション!


俺「そうだ! ダンジョン産のヒール ポーションを試してみるか?」


 魔導書[ 祖は左手の手に ]を出してヒール ポーションを実物化してみる。

 大きさは5センチ位の透明な丸いビンに蒼い液体が入っていた。


俺「元気一発! ヒール ポーション! 24時間働くぜ! ビジネス サラリーマン!」


 掛け声と共にビンを煽る、甘いような辛いような酸っぱいような苦いような…なんとも微妙な味だった。


バロン「この世に現代ファンタジーは星の数ほどあるが、胃痛でヒール ポーションを飲むのは、我が主だけであろうな。」


 バロン…俺はモブ、会社の社畜だよ、それが親会社の会長と一対一で真正面から相対したら何か出来ると思う?

 ファンタジーなお前には理解出来ない事が、現実には色々有るんだよ。


俺「ポーションだって、一瞬で治るヤツからジワジワ時間を掛けて治るヤツとか色々あるだろ、ダンジョンで怪我してぶっつけ本番で使うよりこーゆー時にテストしておいたほうが…あっ! 胃の痛みが消えた!…何か肩こりや腰が痛いのも治ったかも…。」


 少し身体も軽くなった気がする、どうやら今日はユックリ眠れそうな気がするな。

 家に辿り着くと見慣れたカトやんの軽バンが停まっていた。

 一人だけサッサと逃げやがって、マップルちゃんの笑顔を見せてくれたら許してやろう。


カトやん「シバやん、こりゃまた随分と色素が抜けて…これをあげますから元気を出してください。」


 カトやんはゴソゴソ車から何やら2つの箱を取り出した、なんだビッグサイズの胃薬か? もう必要ないぞ。


優樹「あぁー! クラリッサとフォンだーーー!」


 右肩の優樹が嬉しそうに叫んだ!

 カトやんが出したそれは、優樹と同じプラスチック ケースに入った、クラリッサとフォンのアクション フィギュアだった。

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