第31話 現代ファンタジーでも、現実問題からは逃げられ無い。

柴崎家 囲炉裏の間


鷲尾「それじゃ柴崎君、現状の確認をするわよ。」


 鷲尾代表はダンジョンから帰って来るなり、スクロールを開ける間も無くいきなり話し出した。

 左手を腰に、右手の人差し指を上に立て、何時ものガンガン行く調子にプラスして随分と機嫌が良さそうだ。


鷲尾「まず、約2年前に何処からとも無く赤い流星群が飛来し、地球のあちこちに降り注いだわ。

 それから3ヶ月後、最初にイタリア ローマのバチカヌス地方で突如洞窟が出現、そして其処から新たな植物、鉱石が発見され、しかも地球の生態系を無視した生命体まで観測されるようになったわ。

 新たな鉱石、植物、生命体は倦怠期を迎えた人類にとってそれらは劇薬とも言える発見で、世界は軍人、トンネル工事士、生物学者、鉱石博士、法律家、植物学者、はては引退したプロレスラーまで駆り出して洞窟に送り込んだわ。

 これらの出来事を見た人達は、この洞窟をダンジョンと呼び、それに従事する人達を冒険者と呼ぶようになった。

 程なくして、フランスのミッシェル、アメリカのグラン キャニオン、オーストラリアのエアー ロック、我が国日本の奈良の古墳、栃木県日光の霊廟など、パワー スポットと呼ばれる場所や人の信仰心の強い所で次々とダンジョンが発見され始まったわ。

 そして国連本部に設立されたダンジョン監視機関、通所ダンジョン ギルドによると地球上にダンジョンと認定されている所は現在34箇所有る。

 此処までは柴崎君も解るわよね。」


 はい、何となくニュースで見た気がします。

 しかし鷲尾代表、何だかとっても楽しそうですね、何か良い事合ったのですか?

 この人普段は凛々しいが、笑うと可愛らしいんだよな。


鷲尾「そんな今、何故か柴崎君の土地に出現したのかは謎だけど、ココがダンジョンである事はもう間違いないわ。

 柴崎君、その辺の詳しい事情は誰かに聞いては無いかしら?」


 鷲尾代表の問に俺はふと、ばあちゃんが昔言っていた言葉を思い出した。


俺「鷲尾代表、これは昔祖母から聞いた話しなんですけど…。

 今はもう無くなっているのですが、昔…あのダンジョンよりもっと山奥に尼寺と言うか、女性の駆け込み寺の様な場所があって…。

 祖母はその寺の出自だと言っていたのですが、その寺の女性達は霊能力的な何かで予言や未来視が出来た…と言っていました。」


 ばあちゃんは余りその辺の事は詳しく言わなかったが、代わりにじいちゃんが良くしゃべっていたっけ。


じいちゃん「儂の最愛の奥さん…みちるは…のう…種が弾ける…とか、キラリ〜ンと目が光る…とか、理力だとか、セブン センシズ…だとか呼ばれとる何か? そんな力を持っておってのぉ。

 その力を使うとな、儂が…ストリップ劇場にミーちゃん見に行った事や、キャバレーのランちゃんに会いに行った事や、メイド喫茶のミキちゃんにオムライスのケチャップ ハート描いてもらった事が何でか? 全部バレてしまってなぁ。

 その度に、竹箒を持ったみちるにしこたま打ちのめされたものじゃ。」

 

 最愛のばあちゃんが居るならあっちこっちに色気出してんじゃねーよ!

 後、何故か…こんな宿六に似るなと俺も一緒に怒られたっけ…解せぬ。


鷲尾「そう…分かったわ、その事については私の方で調べておくわ。

 話しをダンジョンに戻すわよ。

 今、世界中のダンジョンに冒険者達が大挙して押し寄せ、第二次ゴール ドラッシュと呼ばれるバブルに沸いているわ、それはこの日本も例外では無いの。

 そんな所にダンジョンが出来ましたーなんて言ってご覧なさい。

 あっという間に冒険者やハイエナ達が集まって来て、骨まで食い尽くされるわよ!

 金庫に仕舞った土地権利書が金庫ごと盗まれたり、垢の他人が自分達の土地だと言って裁判起こしたり、国の偉い方がやって来て、ダンジョンは国家財産であり国を想う心があれば無償で提供すべし!…なんて言われた時、柴崎君あなた対処出来る?」


 出来ません、絶対無理です。


鷲尾「その為に鷲尾財閥が! 私が貴方を護るわ! 小煩い国の役人だろうと、怪しい土地バイヤーだろうと、放浪の預言者だろうと、柴崎君に近付いて来た者は皆私に話しを廻しなさい。」


 嗚呼! 我らが鷲尾 美幸代表! 有難う御座います。

 俺は死なないです、貴方に護ってもらうから! もう一生貴方に付いて逝きます!


鷲尾「その為に今日! たった今より私達はダンジョンが出来た土地のオーナーと、資産運用会社のビジネス パートナーに成るのよ!」


 左手にスマホを持ち、右手を俺に出してくる鷲尾代表、その顔には揺るぎない自信と輝かんばかりの笑顔があった。

 俺は、差し出された白い手を両手で握り、頭を下げようとしたら鷲尾代表に目で止められた。

 これからは、パートナーなのだから、常に対等な関係なんだと言われた気がした。

 鷲尾代表の手はとても柔らかくて温かくて…我ながらかなりドギマギした。

 鷲尾代表は左手のスマホで誰かに電話をかけた。


鷲尾「……もしもし社長、お時間頂いても大丈夫でしょうか?……はい…では、土地売買に詳しい人達、測量士も多数、道路交通法についての資料と道路整備の人員と資材の確保、建築士数名と建築物件についての……はい……大丈夫です!………母さん、私が今まで、ここ一番に狙った的を外した事があったかしら?……はい! 詳しい話しはこれから直ぐ帰って致しますわ。

 それから一人紹介したい人が居ますので一緒に連れていきますね………えぇ、その彼よ……はい、ソチラの準備もお願いします……え? 入婿?……さあ? どうなのかしらねぇ?……その辺の詳しい話しも帰ってからで……はい…それでは失礼します。」


 スマホで社長(母親)と会話しながら、笑いながら鷲のような目で俺を見る代表。

 ちょっと待て、いま入婿って言った? 俺は貴方にビジネス パートナーとして一生付いて行くとは言ったが、人生のパートナーとして貴方と一生添い遂げると言った覚えは無いのですが…。


鷲尾「それじゃ柴崎君、土地権利書の用意を…あと念の為、実印も持って来て、途中で戸籍謄本も取って…それと手ぶらじゃ何だから、池田屋の羊羹でも買っておけば良いかしら?」

 

 あの…俺の男としての人生は果たして何処に行くのでしょうか?

 あと、そろそろ鷲尾代表の周りをフワフワ浮いているスクロールを開けて見ませんか?



 

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