第4話 ???「おぬしがマスターか?」 俺「違うチェンジで!」

俺「うわっ! あひゃぁーー!!」


 逃げた、とにかく逃げた。


 何があった? 途轍もなく怖い事があった。

 平和なはずの日本で、死が直ぐ近くにあった。

 昨日まで安全であった日常が、戦闘の日々になった。

 子供の頃から遊んでいる場所が今、戦場になった。

 この場所に居ちゃいけない、嫌だ! こんなのはゴメンだ。

 足が痛い、息が苦しい、心臓がバクバクする。


俺「うひゃぁっーー! うわぁっ! ゲホッ! ゲホッ! グホッ!」


 背向け地蔵を通り過ぎた瞬間、足が滑り盛大に転んでしまった。

 日頃から運動不足でインドアな俺が、いきなり全力疾走したら転ぶに決まっている。

 それでも足をバタつかせ、身体中泥だらけになっても逃げた、家まで何とか逃げ帰った。


 玄関に転がるように辿り着くと、郵便ポストに黄色の何かがある事に気がついた。

 それを右手で鷲掴みしてぶつかるようにドアを開け、震えながら何とか鍵を掛け、靴を慌てて脱ぎ散らかし、恐怖の余りベッドに飛び込んで布団を頭から被った。


俺「何だ? いったい何がどうしたって言うんだよ! 何で俺の家なんたよ! 誰か説明してくれよ!」


 やめてくれよ! 人生今までまともに喧嘩もした事ないし、争いなんかする気も無い。

 他人の敷いたレールをただトラブル無く走らせるだけの人生で十分だよ。

 性格判断ソフトで[ 石橋を叩いても最初に渡らず、二番目に渡るタイプ ]とか判断されるヤツだぞ俺は。


 ここは逃げちゃ駄目だ、いやもう既に逃げて来たが、とにかくここは落ち着け! まず落ち着け!

 第一に、こうゆう時はまずガスの元栓を閉め…違う、深呼吸だ! 全力の深呼吸だ。

 恋の柱の人に出会えるまでひたすら深呼吸だ。


俺「ヒーヒーフーフーヒーフー、ヒーヒーフーヒーフーヒーフーヒーフー。」


 少し落ち着いてきかな? 妊婦さんの出産呼吸法はなかなか凄いかもしれん。

 布団の中での深呼吸は少し苦しくなって来たので、恐る恐る首を出してみた。

 出かける前と何も変わらない、男の一人暮らしの殺風景な部屋だ。

 少し気持ちが落ち着いて来たので、モソモソ布団から這い出しベッドの隅に座り込んでみた。


俺「はぁービックリした。

 何だよアレは、寿命が十年縮んだかも…それでなくとも心臓強くないのに。

 でも、あれが今世界中で話題になっているダンジョンてヤツか…うわぁっ!」


 ビカーーン!


 目の前がいきなり光り筒状の物が出現した!


俺「なっ! 何だぁー! 逃さねーてかぁ~、オメ~やんのか! オラッ、やろーてのかぁー!」


 とりあえず強気に出てみたが、我ながら出て来たセリフがまるっきり雑魚だった。

 どの位時間がたったのだろう? 筒上の物は目の前をフワフワ浮いているだけで、いきなり首チョンパしてくるような事は無かった。

 筒状の物は、よく見るとRPGに出てくる羊皮紙のスクロールのようであった。


俺「受け取れって、言ってるの…か?」


 ハイいただきます、とすぐ手は出さない。

 まだまだ観察だ! 手を出した瞬間首チョンパされたら泣くに泣けない。

 攻撃は無さそうなので、恐る恐る左手で受け取ろうと…


 ビカーン! パラパラ!


 もういい加減飽きてきた感じだか、光った後スクロールはゆっくり開いていく。

 そしてスクロールの上に光が集まり形を創っていった。

 20センチ位の白い卵の形が出来上がり青空色のタキシードがそれを包む、細い手足が伸びて白い手袋、赤い靴、最後に黒いカイゼル髭を生やした厳しい面構えをした何かが、そこに出現した。

 ちなみに髪の毛はない。


 それは、ジロリと此方を一目見ると開口一番、言い放って来た。


???「おぬしが、我のマスターか?」


 やたら渋い良い声だったが、かなり上から目線の、何処かで聞いた様なセリフを言って来た。

 これは俺がマスターである事の確認のセリフか? そう来るならば俺の返すセリフも決まっている。

 背筋を伸ばし、ゆっくり息を吸い込み、その言葉を堂々かつ朗々と言い放った。


俺「いや違う、チェンジで!」

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