第42話 昨日のままの俺じゃないぜ!

バロン「この盾は実際の戦場で使われた物に相違御座いません。」


 この革の盾が? そう言われて見ると…何かアッチ コッチに茶色のシミとか、穴とか…アフリカ土産にしては貫禄というか、醸し出すオーラか有るような無いような。


バロン「はい、戦士が獣と戦い倒し、その毛皮を剥ぎ取り木に貼り付け、呪術師が戦いの精霊をその体に宿し獣の血で描いた、実際に狩りに使われた本物の盾に相違御座いません。

 それを我が主の御尊父殿が譲り受けたのかと…。」


 う〜んリアルで狩りに使われた本物であるのは理解したが…でも細い木の棒に革を貼り付けただけの盾だよ? こんな物ダンジョンに持っていってもゴブリンに棍棒で殴られたら一発で壊れてしまいそうだが?


バロン「前にもお話し致しましたが、ダンジョンで大切なのは素材では無く其処に込められた念が最も重要となります。

 これには戦士の誇りや戦闘の記憶が呪術師によって強力に入念されており、ダンジョンの魔力と強く反応をいたします。

 我が主が守りをお考えならば、この品は非常に有用であると我は具申致します。」


 そうか…これでもダンジョンでは強力なシールドなのか、左手は魔導書[ 祖は左の手に ]を持つので右手で構えてみるか。


カトやん「左手に怪しい魔導書、右手に血走った目の描いてある革の盾、そこにフォン フォン達を連れて歩き回っていたら、それこそ怪しい呪術師にしか見えませんね……もし僕がダンジョンで出会っていたら、間違いなく敵だと思って攻撃しますよ。」


 う〜ん、認めたく無いが自分でもそう思う。

 いくら性能的に良いものでも、ダンジョンでこんな物持った奴が現れたら、俺でも敵だと思って攻撃するわ。


俺「でもまあ…丁度ダンジョンにバール忘れてきたし、鍋の蓋でシールドするよりはまし…と考えよう。

 それより皆聞いてくれ、今日はフォンの初陣だ! お互いにコンビネーションを意識して戦って行こう! ついでにあの憎っくきゴブリンにリベンジだ!」


優樹「うん! 将吾君見ててね! ボクも頑張るよ!」


クラリッサ「今度はこの盾でマスターを護り抜いてみせよう!」


フォン「ワッフ ワッフ!」


カトやん「僕はフォン フォン達の素晴らしき活躍の記録をバッチリと残しますね。」


 皆可愛くて元気一杯だな、俺も頑張るぞ! あと最後のブヒブヒ言ってる豚さん、撮った映像後で見せてね。

 昨日ダンジョンを転げ回って少し汚れたライダー ジャケットを着て、ヘルメットを被りブーツにグローブを履き、最後に血走った目の革の盾を持つ、それでは気合を入れ直しダンジョン アタックだ!


俺「それじゃフォン、お前は俺の頭の上に乗ってくれ、そこから敵を探す事を第一にヨロシク!」


フォン「ワッフ ワッフ!」


 元気良く俺の頭の上に飛び乗るフォン、ヘルメットの上なので滑るかと思ったが問題ないようだな、優樹とクラリッサも両肩に飛び乗ってくる、メーナと紫鶴、あと二人揃ったら何処へ乗せようか? 考えただけで楽しみだぜ! 

 山のあぜ道を登り、ダンジョンの入口に鎮座する[ 背向け地蔵 ]に頭を下げ無事を願い、日常から戦闘に心を切り替えてダンジョンに入る。


フォン「ワッフ! あそこ敵いる!」


 フォンが指差す先を見ると…居た! 敵スライム! グッド ジョブだフォン! 早速仕事をしてくれたな!

 右肩から優樹が飛び出し[ 聖剣 トライフィード ]の一撃で倒してしまった。

 見事な斬撃だ、優樹も戦いに慣れて来たのかもしれない。

 俺達はゆっくり、しかし確実にダンジョンを進んで行く、途中優樹とクラリッサが交代しながら、時には2人タッグでコンビネーションを確認しつつ敵を屠って行く。

 ふと足が止まる、いよいよ昨日ゴブリンに襲われた場所だな、だが今日は昨日のままの俺じゃないぜ!


フォン「敵いない。」


 グッド ジョブだフォン! 俺は3人を降ろし自分の決意を皆に伝える。


俺「皆聞いてくれ、この先ゴブリンが出て来たら俺が前に出てこの盾で攻撃を受け止めてみる。

 俺が合図するか、危険だと思ったら直ぐフォローに入ってくれ。

 これはこの盾の性能確認であり、俺なりの昨日のリベンジでもあるんだ。」


 皆の目を見て言葉で伝えた、俺の覚悟を受け取ってくれたのか、皆無言で頷いてくれた。


フォン「ワッフ 敵が来た!」


優樹「頑張れー! 将吾君行けー!」


 フォンの声にダンジョンの奥を見ると二本足で動く者が見える、ゴブリンのようだな、一瞬胃のあたりがキュッ! と鳴ったが大丈夫だ頑張れ俺! 優樹達がすぐ後にいてくれるではないか。

 

俺「おっ、お前なんて全然! 怖くなんて無いんだかんね!」


カトやん「何故ツンデレ口調なんですか? シバやん。」


 咄嗟に思い付かなかったんだよ、頑張れ俺! 前に出ろ! 気持ちで負けるな!


ゴブリン「キィシャー! ……ゲハ?」


 コチラに気がついたゴブリンが何故か醜い顔を歪ませている? さては…覚悟を決めた俺に恐れをなしたか?

 

カトやん「いや、おかしな敵が現れて戸惑っているんじゃないですか?」


ゴブリン「ゲヒャアー! グヒィー!」


 コチラの姿ににビビって声で威嚇してくるゴブリン、チョット昨日の事がチラついて引腰になりそうだ。 

 こう言う時は俺も負けずに声を出せ! 何でも良いから勢いで負けるな!


俺「えーい! ゴチャ ゴチャ煩いぞ! お前は納期3日前にシステムの仕様変更を言ってくるフザけたクライアントかぁ? そんな事急に言われても出来る訳無いだろうが! システム エンジニア舐めんな!」


ゴブリン「ガヒャアー! ギャハー!」


俺「お前なんかよりなぁ、仕様変更のためメンバーが全員徹夜になって、薄笑いしながらキーボード叩く鷲尾代表の方が百万倍恐ろしいわ!

 そんな代表に「今日の夜食、何にしますか?」なんて聞くのが何故か俺になるんだぞ! 泣けるくらい本気で怖いわ! その気持ちがお前に解るかぁーこんちくしょー!」


ゴブリン「グヒャアー!(知るかよー!)」


 ゴブリンが棍棒を振り降ろして来た! 何故かコミュニケーションがとれてしまった気がしたが、とにかく盾で防御だ! 覚悟を決めろ俺!


 ポコン!


 ……あれ? 今、何か当たったか?  

 

 ポコン! ポカン!


優樹「将吾君っ!」


 攻撃? を盾で受けていたら横から優樹が飛び出して来て、ゴブリンを一瞬で倒してしまった。

 直ぐ近くにクラリッサ、フォンまで俺の前に立ち塞がってくれている

…有難う、俺に敵を倒す力は無いが、お前達が俺の力だよ。


優樹「将吾君大丈夫? これからは何か辛い事があったらボクに言ってね。」


クラリッサ「マスター? 私は常に御身の味方だぞ。」


フォン「ワッフ ワッフ?」


 優樹達に何か、凄い心配の目を向けられている俺。

 ゴブリンとの戦いで、男として気概とかガッツとか色々? 取り戻せた気がするが、代わりにもっと大きな何かを失ってしまったような気がする……のは何故だろうか?


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蒼のじゅんなまより

 色々大切な何かを無くしてしまった主人公のために、愛の♥と★をよろしくお願いします。

 


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