第2話 ターニングポイントなのか? その1

中村「え? プロジェクト中止ですか? 鷲尾代表。」


 毎週恒例のリモート ワーク会議、画面右上の中村チーフがワザとらしく驚くいている。


鷲尾「そうなのよ、システム、ハード、ソフト共に全部総取り替え。

 今、メーカー側から人が入って来てドタバタやってるわ。」


 画面真ん中に、黒髪の背中まで来るロング ヘヤーのスレンダー美人で、何時でも強気でガンガン行く我らが[ 鷲尾 美幸 ]代表が、今日は珍しくトーンが低い。


中村「しかし鷲尾代表、今回はシステムのバージョン アップと、データの整理だけで後は、来季予算で組み直すハズだったのでは?」


鷲尾「それがこの前の株主総会で、二代目社長が株主たちを先導して、会長を引きずり降ろしてね。

 システムどころか役員総取り替え。

 まったく! よくもまーやってくれたわ! あのニヤケ ジュニア!」


 どっかで聞いた様な話しだが、まさか自分達に関係してくるとは…。

 ところで俺の給与はちゃんと出るの?


鷲尾「とりあえず、組んだ分は支払う事で話しは済んでるから、今まで組んだ分は中村チーフに提出してちょうだい。

 後は、私とチーフで纏めるわ。」


 良かった、生活は何とか出来るようだ。


中村「分かりました、それでは次の……」


 先程から、我らが鷲尾代表と中村チーフしか話してない。

 画面の他の7人もさっきのからズット無言、まあいつもの事なのでコーヒーでも飲もう。


鷲尾「…それで今回のプロジェクト及びミーティングはこれで終了。

 次回はニ週間後のこの時間、チョット時間が空いちゃったわね。

 皆上手くリフレッシュしてね! 斎藤くん、飲み過ぎはだめよ、高倉くん、お子さんと何処かに行って来たら? 吉本くん…」


 一人一人に声を掛ける鷲尾代表、クライアント対応から、事務会計、スケジュール管理、システム構築、その上メンバー全員にコミュニケーションする気配り。

 ヤッパリ俺達の親会社[ 鷲尾 ]と名が付く一族は、顔の良さとか、能力とか、色々出来が違うのだろうか?


鷲尾「芝崎くん、今日誕生日だったわよね、28歳おめでとう! ゆっくり休んでね。」


俺「あっ…はい、ありがとうございます。」


 いきなりでチョットびっくりしたが、何とか返事は返せた。

 俺の誕生日までチェック済みですか。

 画面の向こうの鷲尾代表と目が合った、笑うと割とカワイイんだよなこの人。

 中村チーフが俺に冷たい視線を向けてくる、俺は何もしてねーから。


鷲尾「それでは今時ミーティングはこれで終了。それじゃ解散!」


俺「それでは、お疲れ様です。」


 ミーティング終了、画面を切り替えパソコンにあるデータを中村チーフに転送する。

 これで今回のプロジェクトは全て終了、現在の時間は朝の10時40分、10時からのミーティングが約40分で終ってしまった。

 これから2週間、システム エンジニアの仕事は忘れて自由で、フリーダムで、自分だけの時間を取る事がで出来る………が、やりたい事がコレといって何も無い。

 とりあえず時事ニュースでもチェックするか。


 今週は晴天に見舞われ快晴の日が続くでしょう。………首都高速道路において、4台が絡む玉突き事故が発生しており………ただ今、料金1000円で下取り致します、家電エアコン大特価!………スペインのバルセロナ地方にある洞窟が、世界で32番目の[ ダンジョン ]と認定されました、詳しい情報は………ドームにて[ ミンミル ]2千人コンサート開幕………3ヶ月で無理なく誰でもダイエット、健康食品 大根プリン………貴方にとって今日が、ターニング ポイントになるかもしれません、ラッキーカラーは白、屋外に出るのが良いで………


 パソコンをオフにして軽く背伸びをする。


俺「ターニング ポイント…ラッキーカラーは白か……」


 ふと隣のヲタク部屋のクローゼットにある、漫画数十冊、一時期ハマったUFOゲッター景品のアニメ フィギュアが10数個、造らず置いてあるだけのプラモ、クリアしてない山積みになっているゲーム等の方に顔を向ける。

 思わず衝動買いしてしまった、箱に入ったままの白いアーマーを纏った美少女アクション フィギュアを見つけた。


 少女漫画原作、美少女アニメ[ 異世界幻想伝 フレイリアーナ ]の主人公。


天川 優樹(あまかわ ゆうき)


 現代日本から召喚された中学三年生の美少女、黒髪ロングをポニー テールにして、紺色の中学生の制服に、額、左肩、左胸、左腕、左腰、両足に純白の翼のデザインのアーマーを装着し、左腰に[ 聖剣トライフィード ]を差し勝利のポーズをした、アクション フィギュアが凛々しくカッコ良くそこにあった。

 本日は白がラッキー カラーであるそうだが、これを持って外を彷徨くのは、秋葉原ではOKでもこの田舎では流石にOUTだ。

 白いタオルでも頭に巻いて散歩に行くか、スマホは置いておこう。

 スニーカーを履き、玄関を開け一歩外に踏み出した。

 目の前に青々とした山と森とポツポツと農家が建っている田園風景が広がっている。

 振り返ると我が家も農家をリフォームした家だ。

 一年前に一人暮らしだったじいちゃんが他界し、税金が安く部屋代もかからず、流行りのリモート ワークが出来るからと、親父や叔父に押し付けられた家だ。


 関東地方の茨城県の北部にある順調に過疎化が進んでいる地域で、何をするにしても車が必要な場所だが、コレといった趣味もなく、たまに軽トラで生活用品を買いに行けば、インドアで仕事はリモート ワークの俺にとって、割と生活に合っているのかもしれない。


俺「ハハッ、今日で28歳か…後2年で魔法使いになれるな。」


 そんな事を言いながら、子供の頃からほとんど変わらない景色の中を、子供の頃良く遊んだ裏山に足を向けた。


 28歳の誕生日、それは自分にとって正に、人生とか生活とか趣味とか恋愛とか? 色々ターニング ポイントとなる記念日になるのであった。

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