21
激しい風雨の音に混じり、なにかカンカンと金属のような音がする……。
(なんだ……足音……? )
そのやけにゆっくりな足音に、意識が段々と覚醒していく。
俺は微かにまぶたを開いた。
どうも両腕を枕にして、ちゃぶ台に突っ伏していたらしい。煌々とした部屋の灯りが眩しくて、再び目を閉じそうになってしまう。俺は顔をしかめながらスマホを手探りして掴み、ロックを解除した。時間は……午前3時を少し過ぎたくらいか。
足音は今や階段を昇り切って、やはりゆっくりとしたペースで近づいてくる。
(俺はなんでこんなとこで……確か……雨で……ミラからの連絡を待って……。)
そう思うのと、ドアの向こうでカチャカチャと音がしたのは、ほぼ同時だった。
(ミラ!? いや、まさか……やつらか!?)
俺はそこで一気に覚醒すると、ドアからは死角になる位置へと急いで身を移した。そこにはタンスが置いてあり、中には1年前、あの研究所から逃げ出した時に持っていた拳銃が隠してあった。俺は拳銃を掴むと、警戒を強めた。
しかし、そんな俺の行動は徒労に終わった。ドアの開いた先には、ずぶ濡れになったミラが立っていたのだ。
「ミラ‼」
「……いま帰ったわ……。」
疲れ果てた声でそう言ったまま、ミラはその場に立ち尽くしていた。
「なにやってんだ……! 早く入って来いよ、風邪ひくぞ!」
俺は軽く怒鳴って拳銃をタンスに仕舞うと、ミラに駆け寄った。そして冷え切った肩に手を回し、部屋の中へと強引に引っ張りこんで、ドアを閉めた。
ミラは俺の腕の中でかすかに震えている。この雨と寒さだ、無理もない。とにかく急いで温かい飲み物を作らないと。
「……が……、……でいた……わ……。」
ミラが、何事かを口にした。その声があまりにも弱々しかったので、なんて言ったのかほとんど聞き取れなかった。
「どうした? なにか必要か?」
俺はてっきり、ミラが何かを欲しているんだと思った。
しかしミラが次に放った言葉は、まるで予想もつかないものだった。
「博士が……死んでいたらしいわ……。」
「え?」
俺の時間が一瞬、止まったような気がした。
博士というのは、俺を殺そうとしたあのクソジジイの事に違いなかった。
香坂健早(コウサカケンゾウ)博士――。
ミラは俺の腕からするりとすり抜けると、風呂場の方へとフラフラ歩いて行った。
「お前……どうやってそれを知ったんだ……?」
さっきのミラに負けないくらいの小さな呟きだったにもかかわらず、ミラはそれに気付いて歩みをぴたりと止めた。
「ごめんなさい……今は聞かないで……。」
今にも泣き出しそうな声でそう言って、ミラは風呂場の奥へと消えていった。
アパートを叩きつける風雨の音が、より一層激しくなったような気がした――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます