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聞き覚えのある声に驚いてバッと横を向くと、一席置いた隣の席にいつの間にかミラが座っていた。しかも約1週間ぶりに会うこの女は、人にあんな事をしておきながら、いつものように無表情で悠然としていやがる。
「……何しにきたんだよ?」
俺は心底うんざりとしながら尋ねた。気分が一気に落ち込んだ。なんとなく、さっきのビールとソーセージの後味も悪くなった気がする。
「お酒を飲みに。あと、検査結果の報告に。」
「お前ね、そういうのは昼に来いよ。なんで俺の酒の邪魔をするの。」
「お昼に来たらお酒を飲めないでしょ?」
「……仕事は酒のついでか?」
ミラは返事の代わりに、渡された深紅色のカクテルを一息で飲み干すと、すぐさま別のカクテルを注文した。俺はというと、手元にやって来たジンジャーエールをちびちびと飲みつつ、煙草の煙で輪っかを作ってみたりしている。
軽く辺りを見回してみる。カウンター席に他の客はいない。若いバーテンダーはカクテルを作ってミラに渡すと、そそくさと離れていって、こちらの様子をチラチラと伺いながらグラスを磨き始めた。どうも俺達のただならぬ雰囲気を察したらしい。……言っとくが、痴話喧嘩じゃねえからな。
「それで。検査の結果は?」
「これよ。あなたにもわかるように簡単にしてあるらしいわ。」
そう言って、ミラは報告書を俺に渡そうと手を伸ばしてくる。
「……お前ね。話題が話題なのに、なんでそんな距離を空けてるわけ?」
「そうね。じゃあ隣、失礼するわ。」
……こいつ、実は気まずかったのか? それとも、ただ単に頭が悪いだけなのか?
俺の隣の席に移動して、ミラは、改めて報告書を俺に見せてきた。
数枚の紙で構成されたそれを順にめくっていくと、俺の身長や体重、血液型といった基本的な情報から、俺ですら知らない俺の情報が細かい字でぎっしりと記されていた。だがそれらはあくまでもプロフィールだし、どうでもいいものだ。
その辺の項目は適当に読み飛ばして、さらに報告書をめくっていった。
そして、あの能力について言及してあるページに行きついた。
『検査の結果は以下の通りである。
1・被験体と、被験体の体を通して刺激を与えられた人間(以下、対象と呼称)とは、被刺激部位が共通している。例:被験体が行為者によって右頬に打撃を受けた時、対象も右頬に同程度の刺激を受ける。
2・被験体の体に様々な刺激(熱・電気・刃物など)を与えた所、それら全ての刺激が対象にも現れた事を確認した。
3・能力発現の条件は、行為者の、対象への憎しみや恨みと言った強い負の感情である。
4・被験体の肉体の状況は、発現になんら影響しない。
5・被検体から切り取った肉片には、能力を発現させる力はない。
7・切り取った箇所に、異物を埋め込んで刺激を与えてみた所、現象の発現を確認した。被験体に接続さえされていれば現象は発現するものと思われるが、この件についてはさらに調査の必要があるだろう。
なお、各項目の詳細については別紙を参照のこと。』
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