18

「あ~、こりゃ降るな。にいさん、あんたも帰った方がいいよ。」

 俺が畑で雑草取りに勤しんでいると、別の畑で仕事をしていた近所の爺さんが、帰り支度を始めながら声を掛けてきた。

 空を見上げると、たしかに分厚い雲が近づいてきている。

「小雨で済みそう?」と、爺さんに聞いてみると、爺さんは手をパタパタと降って「諦めなあ。」と答えて、帰って行った。

 こういう時は大先輩の言葉に素直に従うに限る。俺も帰り支度をして、アパートへと小走りに駆けた。

 雨はやがてぽつぽつと降り出し、帰宅する頃にはすっかり土砂降りの大雨になってしまった。あの爺さんの予想は見事に当たっていたわけだ。

「たすかったぁ……。」

 部屋の窓をほんの少しだけ開けて外の様子を確認して、安堵のため息をついた。雨はこちらの耳が痛くなるほどの音を立てて、屋根を、地面を、打ち付けていた。


 手早くシャワーを済ませてしまった後は、もう手持無沙汰になってしまった。

(今日はあっちが当番だけど、俺が夕飯作っちまってもいいかもな。)

 と、そう考えた所で初めて、俺はミラの事が心配になってきた。玄関に行って傘立てをチェックしてみると、傘が一本なくなっている。用意周到なあいつのことだ、雨が降るという事だって予想できてたんだろう。とは言え考えてみれば、この大雨ではせっかくの傘だって役になんて立つわけがなかった。

 俺はスマホを手に取った。この村に住み始める直前に買ったものだ。「今どこにいるんだ? もし街の方にいるんだったら、無理に帰ろうなんて思わずにホテルか旅館に一泊してこいよ。」と、そう伝えるつもりで。

 電話はすぐに繋がった。……流れてきた声は、彼女のものではなかった。


「おかけになった電話は、電波が届かない所にあるか、電源が入っておりません。」

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