17
たかが散歩。されど散歩。
初めはそんなに長いものじゃなかったんだろう。ミラが散歩に行くのは、決まって何かの用事のついでだったし、時間にして1時間も掛かっていなかったに違いない。
だが、その散歩の時間は次第に、そして確実に長くなっていった。
「出掛けてくるわ。」
「どこ行くんだ?」
「ただの散歩よ。」
何かの用事のついでだった散歩は、いつしか、ミラの行動の主要部分を占めるようになっていた。
でも、それでも良いと思っていた。いつまで逃げればいいのかも分からない生活だ。彼女にとって少しでも気晴らしになればいいじゃないかと、俺は自分にそう言い聞かせていた。
この日も、やはりミラは散歩に行くと断って、昼過ぎに外へ出て行った。
俺はミラを見送ると、小さくため息をついた。彼女の散歩は、今では平気で3~4時間はかかるようになっていた。
それはいい。それはいいのである。
だけど、ミラは俺の追及を明らかに避けている。どの辺を歩いていたのか、道中どんなことがあったのか、そもそも散歩を始めた理由はなんなのか。そういう、当たり前の疑問についてすら、あいつは欠片も答えようとはしないのだ。それで疑うな、という方が無理な話じゃないか。
(やっぱり、散歩以外の何かをしているんじゃないか……?)
俺の心の中に、どうしようもなく疑いの念が湧いてきてしまう。俺の行動が、実は研究所に筒抜けになってしまっている事だって有り得るんだ。なにせ元々あいつは、ジジイの側の人間なんだから……。
「くそっ……!」
俺はそんな疑いの心をかき消そうと小さく悪態をついて、仕事に向かう準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます