17

 たかが散歩。されど散歩。

 

 初めはそんなに長いものじゃなかったんだろう。ミラが散歩に行くのは、決まって何かの用事のついでだったし、時間にして1時間も掛かっていなかったに違いない。

 だが、その散歩の時間は次第に、そして確実に長くなっていった。

「出掛けてくるわ。」

「どこ行くんだ?」

「ただの散歩よ。」

 何かの用事のついでだった散歩は、いつしか、ミラの行動の主要部分を占めるようになっていた。

 でも、それでも良いと思っていた。いつまで逃げればいいのかも分からない生活だ。彼女にとって少しでも気晴らしになればいいじゃないかと、俺は自分にそう言い聞かせていた。


 この日も、やはりミラは散歩に行くと断って、昼過ぎに外へ出て行った。

 俺はミラを見送ると、小さくため息をついた。彼女の散歩は、今では平気で3~4時間はかかるようになっていた。

 

 それはいい。それはいいのである。

 

 だけど、ミラは俺の追及を明らかに避けている。どの辺を歩いていたのか、道中どんなことがあったのか、そもそも散歩を始めた理由はなんなのか。そういう、当たり前の疑問についてすら、あいつは欠片も答えようとはしないのだ。それで疑うな、という方が無理な話じゃないか。

 

(やっぱり、散歩以外の何かをしているんじゃないか……?)

 

 俺の心の中に、どうしようもなく疑いの念が湧いてきてしまう。俺の行動が、実は研究所に筒抜けになってしまっている事だって有り得るんだ。なにせ元々あいつは、ジジイの側の人間なんだから……。

「くそっ……!」

 俺はそんな疑いの心をかき消そうと小さく悪態をついて、仕事に向かう準備を始めた。

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