25
……動物には帰巣本能というものが備わっているらしい。見知らぬ場所からでも目印や匂いなんかを使って、自分の縄張りへと帰る事が出来るんだとか。
そしてそれが人間にもどうやら当てはまるようだという事を、俺は今日、自分の身を持って知る事になるのだった。
気付くと、とある公園の入口に立っていた。
「マジか……?」
俺はその公園の名前を見て、思わず眉をひそめた。と言うのも、その名前が俺の記憶の中にある名前と合致していたからだ。だが、自分の記憶と目の前にある情報とが、どうにも心の中で結びつかない。
(本当にここはあの公園なのか……?)
俺は半ば導かれるようにして、公園の中へと足を踏み入れた。
あの村を去って以降、俺は自分がどういう行動を経てきたのかをほとんど覚えていない。どのくらい時間が経過したのかすらも分かっていなかった。3ヵ月? いや、半年か? いくらなんでも1年は経っていないだろうが……。
立ち止まってスマホを取り出し、日付を見ようとした。しかしスマホは電池切れなのか、電源が入らなかった。
何か覚えている事はないかと思考を巡らせようとすると、ジーンと頭が痺れるように痛くなった。まだ脳みそが目覚めてはいないということか。
とにもかくにも、今は歩くしかなさそうだ。
公園の中は広々としている。俺の記憶が正しければ、この公園は元々は北と南、2つの大きな公園が道路を挟んで隣接しているような作りで、その2つの公園を橋を渡す事で繋いで、現在の形になったはずだ。
北の公園は芝生の広がるエリアがメインで、時折サッカーやラグビーの試合が行われたりもするほどの広大さがウリである。利用客は、学生や親子連れ、老人たちが主だ。
少し外れた所には屋台や小さな売店があって、その近くにあるベンチではやはり学生たちがたむろしている。
俺が歩いているのは、その北の公園の中にある遊歩道だ。たしかこのまま進んで行くと、南の公園へ渡るための橋があったはずなのだ。そしてその南の公園こそが、今の俺の目的地である。
途中、犬の散歩をしている小学生くらいの兄妹や老夫婦とすれ違い、遊歩道を抜けて広場に出る。
噴水で水浴びをしている小鳥たちに目をやりつつ歩いていると、視界の奥の方に、コンクリートで作られた、見栄えの良さなんか最初から放棄しているような一本の大きな橋が姿を現してきた。
「ハッ……あの頃のまんまだな……。」
俺はその橋に近づきながら、思わず苦笑してしまった。それは、この橋を見た感想というだけじゃあない。自分自身の状況も、あの頃とほとんど変わっていやしなかったんだという事に、気付いてしまったからだった。
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